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二章
241.変化(※)
しおりを挟むメイカーさんたちが戻ってきたんだけど、その中にルーベンとタルクはいなかった。聞いてみると、二人は先に戻ったのだとか。先に戻ってたのか、全然気づかなかった。
ラルフ様が一通り訓練を終えると、シルがいなくなっていた。
「ラルフ様、シルはどこに行ったんですか?」
「さっきリーブとグラートが街に連れて行ったぞ」
街? 狡い。僕も行きたかった。
明日もこの街に滞在するから、明日は僕も街に行きたい。今は少しだけラルフ様に甘えたい。ラルフ様の肩口に顔を埋めてぎゅっと抱きつく。そしたらラルフ様もぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「マティアス、可愛い。我慢できなくなる」
「うん、いいよ」
僕が答えると、一瞬にして部屋のベッドの上で裸だった。
「マティアス、愛してる。俺だけのものだ」
「うん、いつだって僕はラルフ様のものですよ」
ラルフ様は何を心配しているのか。僕はいつだってラルフ様のことだけ愛しているのに。
「この唇も俺のものか?」
「んっ……そうだよ」
優しく触れた唇が熱い。触れたくて仕方なかった。その唇にキスしたかった。ラルフ様も同じ思いでいてくれたのかな?
「この首も、鎖骨も、肩も、柔らかい腕も、細い指も、全部か?」
「うん、あっ……、全部だよ」
そっと触れる指先まで熱くて、でも優しくて、ドキドキする。
「そうか。胸も、細い腰も……」
「ねえ、ラルフ様、僕の全部はラルフ様のものだから、早く、ねえ?」
僕だって甘く愛を確かめ合いたい気持ちはある。急かしたくはないけど、今は仕方ないでしょ? だっていつシルか帰ってくるか分からないし。
「マティアス、そんなに待てないのか? 我慢させて辛かったか?」
そうじゃないけど、そういうことでいいよ。僕はラルフ様の頭を引き寄せて口で口を塞いだ。
こんなことをしてしまったら、また後でラルフ様に「マティアスは大胆だ」なんて言われるんだろうか。
「マティアスが満足するまで頑張る」
ラルフ様が気合を入れたような目で僕を見た。そんなに気合い入れなくても、程々でいいんだからね。
そんな僕の思いはラルフ様に伝わるわけもなく、僕の弱いところばかり攻められて、もうほとんど声が出なくなるまでやめてもらえなかった。
「マティアス、まだ足りないだろ?」
「も……らる……んっ……」
「分かった、もっとだな」
違う、もういいって言いたかったんだ……、僕の思いは伝わらず、声にならない声は降り続く雨音に掻き消された。限界を迎え意識が何度も飛びそうになる。でも早く出ていってくれとは思わない。もう腰も気持ちいいのも限界だけど、少しでも長く繋がっていたい。抱きしめられるだけじゃ足りなくて、もっともっと深く繋がりたくなる。もう動かなくていいから、ずっと僕の中にいて……
「んん……」
「マティアス、起きたか?」
「あれ? 真っ暗。シルは?」
僕はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。いつの間にか外はとっぷりと日が暮れていた。
「リーブたちと一緒にいるから心配ない」
「そっか」
っ!!
僕は起きあがろうとして、腰に酷い痛みが走って声にならなかった。ラルフ様が申し訳なさそうな顔をして僕の体を支えて起こしてくれた。服は着ているし、体はサラサラだ。僕が寝ている間に、いつものようにラルフ様が全部やってくれたんだろう。声が枯れているのは、蜂蜜を用意していなかったからだろうか。
「ラルフ様、そんな顔しなくていいんですよ。ラルフ様に愛されることは幸せなことですから」
「だが、馬車に乗れるか?」
そうだった……僕たちはまだ長時間の馬車移動が待っているんだった。明日はまだこの街に留まるとしても、数日中には出発する。早急にリーブにあの湿布を頂かなければ。それと、やっぱり蜂蜜が欲しい。こんな掠れた声では伝わるものも伝わらない気がした。
少し恥ずかしいけどラルフ様にお願いして、リーブが持っているであろう酷い匂いの湿布を取りにいってもらった。明日は街を見てまわりたいと思っていたけど、宿で大人しくしていることになりそうだ。
ラルフ様に湿布を貼ってもらい、しばらくベッドの上でラルフ様とゴロゴロしていた。
この湿布を持ってきてくれたリーブには感謝だ。本当にリーブはできる執事だ。食事の時に宿の人に蜂蜜を少しもらえないか聞いてみよう。
「あ、タルクおにいさんもだっこのひだ」
夕食の時間に、いつも通りラルフ様に抱えられて食堂へ向かうと、シルの声が聞こえた。タルクが抱っこ? そんなことある? 疑いながら振り向くと、部屋から出てきたルーベンがタルクを抱っこしていた。
「え?」
そんなに厳しい訓練をしたの? 二人は先に宿に戻っていたと聞いている。もしかして怪我をしたとか?
大丈夫なんだろうかと心配になってタルクをジッと見ていると、タルクはサッとルーベンの腕の中に隠れてしまった。なんだか耳が赤い気がする。
ん? もしかして、そういうこと? 追求したい気持ちはあるけど、今は僕も腰が痛くて声も枯れてあまり話せない。気になってウズウズする気持ちを抑えて食事をすることになった。
タルクのことだから、怪我したのが恥ずかしいってこともあるかもしれない。でも今までタルクが歩けなくなるような怪我をすることはなかった。雨の中で訓練なんかしたから滑ったんだろうか?
ルーベンはタルクを大切にしている。そのルーベンがタルクが怪我をするのを黙って見ているなんてことある?
真相を聞きたい。だけどタルクは僕と目を合わせてくれない。それってどういうこと?
「マティアス、また違う男を見ているのか?」
「違うよ。気になることがあっただけで、僕はラルフ様以外欲しくない」
これ以上、ルーベンとタルクの様子を眺めるのは無理そうだった。ラルフ様が疑わないよう、食事が終わるまでずっとラルフ様の顔を眺めていた。食事をすると、喉が潤ったのか声の掠れはほとんど気にならなくなった。
「マティアスは大胆だ」
「へ?」
どうしてそうなった? ラルフ様が他の男を見るなって言うからラルフ様のことを見ていたのに、どこが大胆なんだろう? もう僕には分からないよ。そう思って周りを見渡してみると、皆さんが僕たちのことを温かい目で見ていた。
失敗したかもしれない。こんなに大勢の人がいる中で、ラルフ様の膝の上でラルフ様だけをジッと見つめているなんて、とっても恥ずかしいことをしてしまった。
僕もタルクみたいに隠れてしまおうかな。
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