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二章
300.酔っ払い
しおりを挟むタルクとルーベンは陛下の挨拶が終わるとアクロバティックなダンスを披露して、すぐに帰ってしまった。
帰る場所はうちなんだけど、ルーベンはずっと厳しい顔をしていたから、タルクが目をつけられないか心配なんだろう。
二人は近いうちに婚姻の書類を提出するそうだ。結婚式は領地に戻ってから教会でやって、お披露目会は親族と近しい友人だけを呼んで冬の間に王都の屋敷でやるそうだ。
僕たちの結婚式みたいに厳戒態勢の中で静かに行われるんだろうか?
「マティアス、私と踊っていただけますか?」
「はい」
ラルフ様、そんなに畏ってどうしたの?
いつもと違うラルフ様の雰囲気にドキドキしながら、手を引かれて会場の中心に向かった。
「マティアス、俺も貴族らしい立ち振る舞いができる」
「うん?」
もしかして、ロランドに対抗してるの?
そんなことしなくても僕はラルフ様だけ見ていますよ。
他所行きの笑みを浮かべるラルフ様に見惚れてボーッとしている間に、ダンスは終わってしまった。
「マティアス、終わったぞ。まだ踊り足りないか?」
「いえ、帰りましょう。楽しかったです」
ダンスが終わっても僕はまだドキドキしていた。だからすっかりロランドのことを忘れていたんだ。
家に着いて馬車から降りると、冷たい空気でやっと逆上せた頭が冷えた。
そこで僕は気付いてしまった。ロランドを置いてきてしまったことに。
「ラルフ様、ロランド様を置いてきてしまいました」
「そうだな。あいつも上手いことやって抜けて帰ってくるだろう」
大丈夫なんだろうか?
上手いこと抜けられたとして、馬車が無いんだけど帰ってこられるかな? それともアリオスティの屋敷に戻るんだろうか?
それならアリオスティの家の馬車に乗るからいいけど、うちに帰ってくるなら誰かに乗せてもらうか歩いて帰るしかない。
タルクとルーベンはきっと走って帰ったんだと思う。彼らは体力があるからいいんだ。
重くて複雑で面倒な服を脱いでいると、リーブが部屋を訪ねてきた。
なんでもロランドが迎えにきてほしいと騎士に告げて、アリオスティ家のために用意された控え室に篭ってしまったのだとか。
また部屋に篭っているのか……
リーブは御者をするから馬車から離れられないし、ロランドを控え室まで呼びに行くのにルキオを連れて行きたいと、その確認のために部屋を訪ねてきたんだ。
他の騎士はみんな出ているし、ルーベンはタルクと部屋にいるから声をかけなかったそうだ。それがいいと思う。
それでルキオですか。置いていかれて部屋に篭るロランドを宥める役は、ルキオに任された。
「ルキオがいいと言えば連れて行くのは構わない。だがルキオが無理であれば放っておけ。どうにもならなければ侯爵が屋敷に連れて帰るだろう」
そうだけど、ちょっと可哀想だから、もしルキオが行けないなら僕が行ってもいい。一人では行かせてくれないだろうから、ラルフ様を連れて行くことになるのは申し訳ないけど、置いてきてしまったんだから仕方ない。
結果、ルキオは快くロランドを迎えに行ってくれた。近衛ではないから、城を全て把握しているわけではないけど、警備のために控え室やホールの場所は知っているそうだ。
僕はラルフ様の膝の上で、ライムを絞ったルムのお酒の水割りを飲みながらまったりと過ごしていた。
「帰ってきたようだ」
「え? 迎えに行きましょうか。置いて帰ってしまったので……」
ラルフ様はちょっと嫌そうに「仕方ない」と言って立ち上がった。ラルフ様はロランドに厳しいことを言うけど、最後には手を差し伸べる。
ロランドがラルフ様の知る幼い頃のままだと分かったからだろうか?
ロランドはルキオに背負われて馬車から降りてきた。なんで背負われてるの?
「ルキオに甘えすぎだ。自分の足で歩け」
「嫌だ。私はルキオに部屋まで運んでもらうんだ!」
帰ってきたら置いて帰ったことを謝ろうと思ったのに、ラルフ様とロランドの会話で、完全にタイミングを逃してしまった。
それよりロランドが背負われている理由が気になる。令嬢たちの争いに巻き込まれて怪我をしたとか?
「ルキオ、ロランド様は歩けないの?」
「歩けると思います。酔っているのでフラついて危ないかもしれませんが……」
なるほど、酔っているのか。だからそんなにルキオにぎゅっとしがみついているんですね。
「ラルフが私を置いていくから……。一人取り残された私は泣きながら控え室で飲んでいたんだ」
ロランドはルキオの背中から拗ねたように言っている。背中から降りる気は全く無いみたいだ。
泣きながらってのは大袈裟だろうけど、ヤケ酒ってやつだろうか?
ルキオはロランドの従者ではないんだから、我儘ばかり言われては困る。
「ルキオ、ロランド様は貴族だけど、嫌なことまで無理に従うことないからね。嫌なら断っていいんだよ。断って何か言われるようなら、僕かラルフ様にすぐに言って」
「はい、ありがとうございます」
ロランドが嫌がるルキオを無理に従わせることは無いと思うけど、ルキオは嫌だったとしても嫌だと断れない可能性がある。ロランドはそうではないとしても、平民にとって貴族に逆らうのはとても怖いことだ。僕だって僕より上の貴族には逆らえない。
「マティアス様は私のことを何だと思っているんだ。私はルキオに嫌なことなどしない。マティアス様ももっと私に優しくしてくれ」
「マティアスの特別は俺だけだ! マティアスの優しさも俺だけのものだ。マティアスに不必要な要求をするようなら摘み出すからな!」
ロランドの言葉にラルフ様が怒ってしまった。酔っ払いの戯言ですから大目に見てあげてください。たぶんロランドは酔うと甘えたになるんだと思う。
僕はルキオに早く家の中に入るよう視線を送り、ラルフ様を宥めるために大きな背中を撫でて、特別なのはラルフ様だけだと何度も伝えた。
ラルフ様も本気で怒ったわけじゃない。たぶん警告したかったんだろう。
「僕たちも中に入りましょう。長く外にいたら風邪をひいてしまいます」
「すぐに部屋に戻るぞ」
ラルフ様がハッとした表情を浮かべたと思ったら、僕を横抱きにして一瞬で部屋のベッドの中だった。温かいラルフ様に包まれている。
「ラルフ様、僕は風邪をひいたわけじゃないから大丈夫ですよ」
風邪をひいたなんて言ったら、また僕の唾液を全部奪っていくような激しいキスをされてしまう。危ない危ない。
「そうか。キスしていいか?」
「うん、いいよ。キスだけでいいの?」
「キスだけでは足りない。マティアス……」
「うん。いいよ。僕も愛されたいと思ってた」
あれ? 僕、いつの間に脱いだんだっけ? 気がついたら裸だった。
僕も酔ってるのかな? そんなに飲んでないつもりだったけど……
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