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二章
322.ロランドの希望
しおりを挟む「ラルフ、なぜ止めるんだ」
「一時的に与えるだけではダメだ。それにお前、また気が狂ったような金額を持ってくるつもりだっただろ? そんなものはかえって迷惑になる」
そういえば、前にロランドは大金をルキオに渡そうとしたことがあったんだった。
またとんでもない額をポンと出したりしそうで怖い。
「じゃあどうすればいい?」
「ここは王都だと分かっているな? この孤児院は王家の管轄だ。教会に献金をする程度ならいいが、他家の者が大金を出すことはできない」
「そんな……」
「だが、さっき確認したら教会の屋根の一部に雨漏りして腐っている箇所があった。俺が陛下に直すよう言っておく。門もそろそろ限界だとも伝えておく」
せっかく力になりたいと思ったのに、何もできることがないことが分かると、ロランドは目に見えて落ち込んだ。
「ここはまだマシだぞ。お前の領地はどうなんだ?」
ラルフ様の言葉にロランドは驚いて顔を上げた。
「領地……そんなこと考えたこともなかった」
そうでしょうね。孤児院も知らなかったんだし。
侯爵のことだから、あまり酷いことにはなっていないだろうけど、貴族主義という邪魔な肩書きがあるせいで、十分ではないかもしれない。
「それならお前が手を出しても他所が介入しない領地から動いてみろ。無計画はダメだぞ」
ラルフ様はやっぱり優しい。
ロランドが何かするならアリオスティ領の中でやるのが一番いい。
侯爵も反対はしないと思う。きっとロランドが活躍できるよう上手くやってくれるんじゃないかな?
「じゃあすぐに領地に行って確認したい」
また走り出そうとしたロランドは、ラルフ様に首根っこを掴まれた。
「待て、今は冬でお前は冬の行軍などできないだろ」
確かに……雪の中をどうやって行こうとしたのか知らないけど、ルキオに雪かきさせながら歩いて行くか、もしくはルキオに背負われて運ばれることになる。
雪の中を長時間移動するなんて、領地に着く前に倒れたり熱が出たりしそうだ。
「うっ……では、春になったら……」
せっかくやる気を出したロランドだったけど、残念ながら今は何もできることがない。
「それまでに馬を宥めて馬で行け」
「そうだな! そうする。この後馬に会いに行ってくる!」
ロランドにも今できることが見つかったみたいだ。よかったですね。
「ふむ、よく考えたら、今見に行ったところで、何も知らない私に何ができるわけでもない。私には知らないことが多すぎる」
冷静になって考えられたみたいでよかった。
孤児院のことは僕も詳しいわけじゃない。子育てのことなら僕でも多少力になれるかもしれないけど、大人数となると難しい。
実際に孤児院を運営しているシスターや神父さんに聞くのが一番いいんだけど、今は神父さんが腰を痛めている。それに掃除が行き届いていないことを考えても、誰かに構っている暇なんて無さそうだ。
ん? 僕は適任者を見つけてしまった。
「ヴィート、ロランド様に教えてあげたら?」
ヴィートは領地で孤児院の立て直しを行い、上手くいっていると聞いている。僕はロランドに、ヴィートは数年前から領地で孤児院の運営に携わっていることを教えてあげた。
「ヴィート様! よろしく頼む!」
ロランドに両手を掴まれて期待の眼差しで見られたら、ヴィートも断れなかった。
こうしてヴィートは半ば巻き込まれるような形でロランドに関わることになった。
「マティアス、これはお前の策略か?」
ヴィートにため息と共に呟かれたけど、たまたまそこに都合よくヴィートがいただけだ。
「僕はそんな大それたこと考えられませんよ」
「ふむ、それもそうか。マティアスにそこまでの頭はないな。後日、茶会の招待状を送る」
やっぱりヴィートは失礼だ。そしてやっぱり今年もお茶会やるんだ?
しかも僕は目の前にいるのに、今ここで誘わず、わざわざ家に帰って招待状を書いて送ってくるのか……
複数人が集まるお茶会なら分かるけど、僕とヴィートしか参加しないのに、なぜ毎回そんな回りくどいことをするんだろう。
「マティアス様はプロッティ家のお茶会には参加するんだな」
僕がお茶会に参加するのが珍しかったんだろう。ロランドにそんな風に言われたけど、お茶会ってほどのものじゃない。お土産をたくさんくれること以外は、フェリーチェ様とお茶をしているのと大差ない。
「プロッティ家というか、ヴィートの個人的なお茶会で、参加者は僕とヴィートだけです」
「なるほど、それならラルフも安心だな」
そっか、色んな人が集まるお茶会だとラルフ様の許可が下りないってことも考えられるのか。そんなお茶会、僕は誘われても参加しないけど。
数日後、僕はプロッティ家を訪れた。
「お招きいただきありがとうございます」
「よくきたな、マティアス」
いつもと同じ二人だけのお茶会が始まった。
しかし、いつも奥さんや子どものことを自慢してくるヴィートはなかなか口を開かなかった。
「今日は奥さんの話はないんですか?」
「ある」
あるんだ……
言わなきゃよかった。それからヴィートは奥さんが可愛いとか、気遣いがすごいとか、なんか色々とずっと褒めちぎっていた。もうそんな話は毎年聞いているからお腹いっぱいです。
娘さんの自慢話も散々聞かされて、もう聞くのに疲れてきた頃にようやく終わった。
やっぱり奥さんと娘さんの自慢話をしたくてたまらなかったんですね。
聞かされるこっちは大変だけど、せっかく誘ってくれるし、いつもお土産をくれたり、孤児院ではシルにもよくしてくれるから、年に一度くらいは我慢しよう。
「私は先日、父上に褒められた」
「はい?」
まさか自分の自慢話? それは想定してなかった。孤児院が上手くいっているとか、羊毛がよく売れて領地が潤ったとか、そういう話なら聞いてもいいけど、褒められた話を僕にするの?
「アリオスティ侯爵家と繋がりを持てたこと、感謝する」
ああ、なるほど。ヴィートの自慢話ではなかった。アリオスティ侯爵の周りはいつも貴族主義の人たちが取り囲んでいる。派閥に入らなければ近づくのは難しいけど、影響力は大きくお近づきになりたい貴族は多い。
もしかして、そのお礼を言うためにわざわざ僕をお茶会に誘ったの?
ヴィートはロランドがうちに滞在しているからお茶会に誘うのを遠慮していたと言っていたのに、なんで急に誘われたのか不思議だったんだ。
「私が思うよりずっと、大きなことだった」
「そうですか」
僕はただ、ロランドがやりたいと思うことを見つけたのなら応援してあげたいと思っただけだ。
「侯爵からも、よろしく頼むと手紙が届いた」
「そうなんですね」
さすが息子を溺愛している侯爵だ。週の半分以上は馬に会いに侯爵邸に通っているし、ロランドは言いたいことを言えるようになったから、自分の考えを伝えたのかな?
まだ何をするか具体的に決まっているわけじゃないけど、これからヴィートに教えてもらいながら色んなことを知って、何ができるか考えていけばいい。
「それで、教えるときはマティアスの屋敷に行けばいいのか?」
「そうですね。その方が安全ですし、うちに来てくれれば助かります」
ヴィートが孤児院のことを教えるという建前を利用して、ロランドを餌に盛大にお茶会を開いたり、余計なことをするとは思っていないけど、貴族というものはどこからともなく情報を仕入れて、無理に突撃してきたりすることもある。
「いつ頃行けばいい? ロランド様はお忙しいだろう?」
「忙しくはありませんよ。使用人の仕事のお手伝いをしたり、僕の仕事先の手伝いをしてくれたり、それ以外は時間が取れると思います」
「は? お前はロランド様に、花売りなどさせているのか? バカなのか?」
「いつにも増して口が悪いですね」
ルキオと婚約したことを大々的に発表してからは、ロランドを指名しての配達はほとんどない。僕の手が回らない時に手伝ってもらうくらいだ。
やっぱり侯爵が貴族のみんなに送った手紙には、うちの息子を利用するような奴は潰すみたいなことがヴェールに包まれて書かれていたのかもしれない。
「店頭に立っているわけではなく貴族の屋敷に花を運ぶ仕事で、ロランド様も楽しいと言っていたし、僕が無理にさせているわけではありません」
ラルフ様が「やれ」と言ったことは内緒にしておこう。
「それでいつ行けばいいんだ?」
「いつでも、ヴィートの時間があれば明日でもいいですよ」
「明日だと!? 急に訪れるのは失礼だろ」
「大丈夫ですよ。友達のフェリーチェ様なんてほぼ毎日うちに来ていますし」
「分かった。父上と相談して早めに連絡する」
また連絡してから来るのか。
侯爵家のロランドに変なことは教えられないから、教える内容も親子で相談するのかもしれない。ヴィートって真面目だよね。
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