僕の過保護な旦那様

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二章

341.黒幕とお昼寝

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 コンコン
「うわ、すごい殺気だね」
 膠着した空気の中、扉を開いて顔を出したのはエドワード王子とイーヴォ隊長だった。イーヴォ隊長はあいつを呼びに行っていたのか。

「お前の仕業だな? なんとかしろ。俺は帰るがうちの家族にちょっかいを出すなら命はないと思え」
 え? エドワード王子の仕業ってどういうこと? 僕にも分かるように説明してください。頼れるのはフェリーチェ様だけだ。フェリーチェ様ー!

「みんなシルくんの年齢知らないんでしょ? シルくんは一年や二年じゃ成人しないよ。だってまだこれくらい小さいからね」
 フェリーチェ様は席を立って僕たちの横まで歩いてくると、腰の辺りを手で示した。おじさん騎士たちが青い顔のまま驚いている。

「ろくに調べもせず、目の前に人参ぶら下げられてまんまと引っかかっちゃったね。ロンターニ隊長やレオーニ隊長がここにいない時点で気づいてもいいものだけどね。実に浅はかで滑稽だ」
 人参ぶら下げて引っかかった? まさかあいつはシルを餌に使ったの? ふつふつと怒りの感情が湧き上がってくるのを感じた。

「権力を肥やしにぶくぶくと太った使えない人材の炙り出しご苦労様。じゃあ私はシュテルター隊長たちと一緒に帰るね。そうだ王子様、夜道には気をつけて」
 一緒に帰るのはいいけど、フェリーチェ様がエドワード王子に向けた最後の一言が怖くて、僕は背中がゾクッと震えた。
 僕たちが部屋を出る直前、ラルフ様とフェリーチェ様から同時に強い殺気が放たれて、エドワード王子が床に崩れ落ちたのを見た。イーヴォ隊長も自業自得だと思ったのか、助ける手を伸ばしたりはせず静かに扉を閉めた。
 その程度で済んだんだからありがたく思ってほしい。

「お前たちは知っていたのか?」
 ラルフ様がイーヴォ隊長とフェリーチェ様を睨みつけた。
「俺は団長に『シルくんについての会議が連日開かれているからシュテルター隊長を連れてきて解決してくれ』と言われただけだ」
 イーヴォ隊長は申し訳なさそうに言った。エドワード王子の企みは知らなかったようだ。

「シルくんの報告書が騎士団で回ってるって聞いて怪しいとは思っていたけど、別件で動いてたから時間がなくて確証したのはさっき。シュテルター隊長が来るって聞いたからあのくだらない会議に参加してみたけど、あれはどうかと思うね……」
 別件ってのは気になるけど、フェリーチェ様も忙しかったんだから仕方ないと思う。
「そうか」
「あの程度の老害くらい自分でなんとかすればいいのに」
 あの集まった人たちは権力だけで隊長の地位に就き、仕事もせず口だけ出す人たちだったんだろう。彼らを排除するためにシルの名前が使われたことは許せない。

「私はあいつには一度痛い目に遭ってもらうのがいいと思うけどね」
 フェリーチェ様がまた黒い笑顔になっている。
 でも僕もそう思う。何度か小さな仕返しはしてきたけど、シルを使ったことは絶対に許さない。

「そういうことは俺ではなくお前の方が得意だろ。俺にはあいつの首を切り落とすくらいしかできん」
「うーん、それなら私に任せてくれる?」
「好きにすればいい」
 首を切り落とすのはやめてほしい。あいつが死のうが痛かろうがどうでもいいけど、ラルフ様があんな奴のせいで反逆罪や王族殺しの汚名を着せられるのは我慢できない。

「そうだ、面白そうな行事があるから、ちょっとみんなで行ってみない? ルーベンとタルク様も誘ってさ」
 ルーベンとタルクを誘うの? 領地に帰ってしまって寂しいと思っていたんだ。久しぶりに会えるなら嬉しい。それに面白そうな行事ってなんだろう? みんなで楽しめるならいいんじゃない?
 あいつのことは僕には何もできることが無いしフェリーチェ様に任せて、僕は楽しい計画に乗ろうと思う。

「考えておく。あとで詳細を聞かせろ」
 ラルフ様がすぐに了承しなかったのは、僕がまた迷子になって危険な目に遭うのを恐れているからだろうか?
 もう勝手な行動はしませんから、どうか僕もその面白い行事に連れて行ってください。

「マティアス、行きたがっているのは理解しているが、対策を考えるから少し時間をくれ」
「分かりました」
 僕が勝手にいなくならないよう対策を考えるの?
 そこまでされるほど信用されていないのだと思うと、ちょっと悲しくなってくる。

 対策ってのはいつ纏まるんですか?
 僕はラルフ様からの知らせを待った。
 あの後すぐに、敷地から出ないことを条件に、やっと僕はラルフ様から解放された。というか、ラルフ様がその対策とやらで忙しくて、僕に構っている暇がなくなったんだ。今日もシルを連れて、何をしているのか知らないけど忙しそうにしている。

 僕はもうそろそろ必要になると思って、虫除けのハーブを摘みに庭に出た。
 厩舎ではピグロとリーノが一緒に馬の世話をしている。ホープは本当に元気になった。今ではピグロを乗せて庭を歩けるほどだ。そろそろ駆け足の練習をさせようかと言っていたから、僕が馬に乗れるようになるよりもホープの全快が先かもしれない。

「リーノも一緒にお昼寝するー?」
「私は昼寝などしない。そんな時間があれば鍛錬する」
「春の午後って眠くなるよねー。その眠い時に横になって意識を手放すの、最高に気持ちいいよー! 半刻くらいでもスッキリするからさ」
 ピグロがなぜかリーノにお昼寝を勧めている。リーノは断っているけど、今日は休みなんだからお昼寝したっていいと思う。僕も春の昼下がりにお昼寝するのは好きだ。

 リーノはピグロと仲良くなったから、少しは肩の力が抜けると思っていたけど、まだ真面目でちょっと堅苦しい騎士のままだ。もう少し肩の力を抜いてもいいと思うんだけど。
「リーノは休みなんだから、お昼寝くらいしてもいいんじゃない? 僕もこんな暖かくて心地いい日はソファーでうとうとすることがあるよ」
 僕が言ってみたけど、リーノは首を縦に振らなかった。

「うーん、昼寝が無理なら俺が昼寝してる間はリムと一緒に寛いでたらー?」
 例に漏れずポポクッションの虜になってしまったリムが、クッションにゆったりともたれている。
「そうだな。それはいいと思う。リムと同じ時間を共有するのは悪くない」
 素直にお昼寝すればいいのに、まだリーノは「騎士とはこうあるべきだ」という呪縛から抜け出せないようだ。

 だけど、昼寝を終えたピグロを見つけて一緒に厩舎へ向かうと、リーノがリムにもたれて眠っていた。いつもはキリッとしている眉が下がって、寝顔はまだあどけない。昼下がりの心地よさには抗えないよね。
「リーノはいつも頑張ってるから、もう少し寝かせてあげよー」
「それもそうだね。じゃあ起きるまで僕の作業手伝ってくれる?」
「いいよー」
 僕はピグロと一緒に虫除けオイルの製作を進めた。

 
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