【完結】可愛く転生したのに、僕は生まれ変わっても好きなものを好きと言えない

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 草木が生い茂った森を抜けると、目の前には聳え立つ岩壁が見えた。登るしかない。ロッククライミングなんてしたことないけど、必死に岩にしがみついて登っていった。あと少しだ。
 殿下、必ず生きていてください。生きてさえいれば、僕がなんとかするから。

 カーンッ
 剣を打ちつけたような音が僅かに聞こえた。殿下はきっと生きていて、まだ諦めていないのだと分かった。僕が助けます。
 岩をよじ登って、ようやく巣の入り口についた。

 殿下はワイバーンに最後の力を振り絞って抵抗していた。いつも使っている大きな剣ではなく、刃渡が二十センチほどの短剣で必死に抵抗している。起き上がることもできず、必死に転がりながら避けて短い剣を振り回しているのが見えた。
 ワイバーンにとっては玩具で遊んでいるような感覚なのかもしれないけど、明らかに劣勢だった。

「今助けるから! 死なないで!」
 無我夢中で魔法を飛ばして、ワイバーンを全て氷漬けにすると、殿下に近づいてヒールをかけた。大丈夫。まだ助かる。
 殿下の大きな体を抱き起こすと、背中に触れた時、生温かいぬるりとした感触があった。

「リアン……俺を置いて、逃げろ」
「嫌だ! 僕は殿下を連れて帰る!」
 いいよ、僕のこと愛してなくても生きていてくれればいい。だから神様……。

「俺は今度こそもう……こんな時に言うのは卑怯だけど、最後に言わせてくれ。……リアン、愛してる。傷つけてごめん」
「嘘……殿下、やだ目、閉じちゃダメ。僕も愛してる」
 なんでそんなこと言うの? 最後だから? こんな別れの言葉嫌だよ。僕は必死にヒールをかけ続けた。どんどん魔力が削られていく。

「間に合ったか? これ、なんなんだ? ワイバーンが全部氷漬けになってるぞ」
「リアン! いるか? ポーション持ってきたぞ」
 友達の声が聞こえた。追いかけてきてくれたの? こんな危険なところに?

「ここです!」
 僕がが叫ぶと走ってくる足音が聞こえた。腕の中で今にも止まってしまいそうにか細くなっていく殿下の呼吸。必死に意識を繋ぎ止めようと声をかけ続けた。
「意識はあるか? 飲ませられるか?」
 友達が持ってきたポーションは紫だった。みんなありがとう。

「飲ませる! 貸して!」
 僕は血で真っ赤に染まった手でポーションを友達から奪い取って、口移しで殿下に飲ませた。喉がゴクッと音を立てたのが分かった。まだヒールはかけ続けたままでいる。どうか間に合って……。

 呼吸は止まっていないけど、殿下は完全に目を閉じてしまった。いつ呼吸が、心臓が止まってしまうのかと怖くてたまらなかった。
「殿下! お願い、起きて……」
 洞窟の中には、僕の殿下を呼ぶ声だけが響いていた。

 しばらくすると長いまつ毛がピクピク動いて、殿下は目を開けた。
「天国でもリアンに会えるなんて夢みたいだ」
「死んでないから! 勝手に死ぬな! 僕のこと愛してるなら、死なないで……」
「うん、ごめん」
 よかった。戻ってきた。嘘でもいい、殿下は僕に最高の言葉をくれた。

「殿下の意識が戻ったなら撤退するぞ、ここにいるワイバーン五体は凍っているが、まだ四体が戻ってくるかもしれん」
「殿下のこと、背負ってもらえませんか?」
「分かった、背負っていこう」
「俺も手伝うぞ」
 ここにくるだけでも大変だったのに、背負って山を降りろなんて頼んでいいのか少し迷った。でも友達は当たり前のように了承してくれた。

「ヤバいぞ、残りのワイバーンが戻ってきた!」
 入り口で見張りをしていた友達が僕たちのところに駆け込んできた。
 当たり前だが、彼一人で戻ってくるワイバーン四体を相手にするなんて無理だ。通常ワイバーンはたくさんの騎士で囲んで集中攻撃を喰らわせながら倒す。ここにいる騎士は三人が戦闘職で一人が救護班、そして一人では動けない殿下と僕だ。
 みんなはせっかく助かったのに、もう終わりだと青い顔をしている。

「僕がやります」
 命より大切なものなどない。僕は迷わず前に出て、巣の奥へと進んでくるワイバーンを氷漬けにした。他にいないといいんだけど。一応確認したと言われていた九体は全て氷に閉じ込めた。

「これ、他のもリアンがやったのか?」
 殿下が言ったけど、僕はどう答えていいのか分からなかった。
「さ、さぁ……」
 実に苦しい誤魔化し方だ……。

「リアン、強いな。俺の愛する男はこんなに格好いいのか」
 そう言われて急に現実が押し寄せてきて、ビクリと体が揺れた。なかったことには、できませんよね?

「リアン、堂々としていろ。お前はまた俺を救ったんだ」
 殿下はそう言ったけど、僕はそう気楽に考えることはできなかった。
 みんなに見られた。これで僕の『戦いに参加せず救護班で活動する』という騎士団での立ち位置は終わった。

「この状態ならワイバーンを安全に倒せる。俺は先行して戦える騎士連中を呼んでくる!」
「ダメ……」
 僕は駆け出そうとした友達を引き留めていた。

 
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