43 / 44
伝えたい
43.
しおりを挟む「どうしたリアン」
「騎士なのにそんなこと言っちゃダメだって分かってるけど、前線に送り込まれるのが怖い……言わないで……」
こんなこと言うべきじゃない。でも……戦うのは怖い。逃げたい。手が震えて、こんなことを言う騎士は失格だとみんなに軽蔑されるのではないかと思ってみんなの顔が見れなかった。ごめんなさい……。
「じゃあどうする? このまま放置したら、いずれは氷が溶けてワイバーンは復活するんだろ?」
そうだよね、そうしたら、またみんなを危険に晒すことになる……。次は、本当に死者が出るかもしれないのに、それでもいいから黙っていてくれなんて、言えなかった。
「いいぞ。俺がお前らと倒したことにする。いいか?」
殿下がそう言ってくれた。
「え! 俺たちだけじゃさすがに九体は……」
一体ずつ氷を溶かして戦わされるのかと思ったのかもしれない。友達が呟いた言葉に僕は覚悟を決めた。みんなを守るためだ。
「僕がやります」
僕は凍らせたワイバーンの、首元だけ氷を溶かして、魔法を……。
できなかった。集めた魔力が魔法にならずにプシューっと消えた。
生き物の命を奪うことが怖くて手が震えていたのは分かっていた。魔法を発動しようとした時、首の血管が脈打つのが見えて、それでまだ生きてるんだと思ったら魔法が消えてしまった。
「リアン、トドメは俺たちがやるから、首元だけ氷を溶かしてくれればいい」
震えて上手く魔法を発動できない僕に、友達が言ってくれた。
「いいの?」
「だが本当に俺たちの手柄にしていいのか?」
「うん、むしろお願い。こんなこと頼んでごめんね」
こんなこと頼むんだから、功績くらいもらってよ。
「分かった、やるぞ。これで後で確認されても俺たちがやった証拠にもなる」
「殿下の剣も借りてやっておくか」
「すまんな、俺のリアンの我儘で」
なんでさっきから殿下は『俺のリアン』とか『俺の愛する男』とか言ってくるんだろう。助けてくれた感謝?
「いえ、俺たちはリアンの盾ですから」
「みんな、ありがとう」
こうしてワイバーンを倒し、死闘を繰り広げたふうを装ってワイバーンの死体をズタズタにしたりして、僕たちは殿下を連れて帰った。途中で友達がたくさん合流してくれたから、まだ動けない殿下を安全に運ぶことができた。
「よかった、生きていて、今度こそ本当にもうダメかと思いましたよ殿下。てっきりワイバーンの餌になったのかと」
すっかりその存在を忘れていたけど、今回は遠征についてきていたナタールさんが駆け寄ってきた。
「わざとだわざと。ワイバーンの巣に行って戦うためだ」
殿下の目が泳ぎまくっている。殿下は自信満々に、「俺たちがやったことにする!」なんて言ったけど、無理な気がしてきた。
「彼らも手伝ってくれてドーンとやってバーンとな」
ワイバーンの死体は、ポーションを飲んだり治癒魔法で治療されて動ける騎士たちが、総出で回収に行った。
ワイバーンの素材は武器や防具だけでなく、薬にもなるそうだ。
殿下は野営地に戻ってくるまでは元気だったけど、戻ってきて安心したのか、血が流れすぎて貧血になったのか、団長専用の天幕で眠っている。ナタールさんがついていてくれるから大丈夫だろう。
「どれも首を一突きにしたのが致命傷ですか……」
ワイバーンの死体を検分していた副団長に訝しげな表情を向けられると、めちゃくちゃわざとらしく四人は目を逸らした。そして僕に注目が集まった。
「フロリアン、説明できるかね?」
やっぱりそうなりますよね。副団長と数名の隊長に囲まれると、もう誤魔化すことはできないと思った。
「…………はい。僕が、やりました」
結局隠すことはできなかった。 なんで僕だって分かったの? 初めから知ってたの?
翌日になると「ワイバーンの巣まで一緒に行って洞窟を潰してくれ」と言われて、できないとは言えず、五割くらいの力でドーンとした。
ふぅ、これでやっと終わりだ。
戻ってくる途中でも、戻ってからも、副団長にジロジロ見られているのが気になった。
「な、何か?」
「フロリアンはあんなものぶっ放しても随分余裕そうだな」
しまった……。巣となっていた洞窟を潰すと、岩壁は身体強化を使ってササっと下り、終わったのだと思って足取り軽く歩いて野営地まで戻ってきてしまった。少しくらい疲れた演技をするべきだった。
「いえ、あー、フラフラするかも、もう、ま、魔力がないみたいだ…………」
「嘘つけ」
ですよね……、僕も嘘がつけない男だったようだ。
*
>>>殿下と秘書
「俺はとうとうリアンに愛を伝えたぞ!」
「そうですか」
「祝賀会を開かねばならん」
「大袈裟です」
もっと早く伝えておけばこんなに拗れることもなかったのに、今朝までの殿下はもういつ死んでもいいと思っているほどに落ち込んでいた。殿を買って出て、ワイバーンに攫われたと聞いた時には、とうとう死にに行ったのだと思ったほどだ。
「リアンはキスしてくれたんだ。みんなの前で」
「は? 殿下の勘違いなのでは?」
彼は人前でそんなことをするような男ではない。控えめな彼がそのようなことを……?
ん? ナタールは思い当たることがあった。
「殿下、それはポーションを口移しされただけでは?」
「それもあるが、リアンの柔らかい唇が触れたんだ。それは立派なキスという行為だ! 俺はしばらく目を閉じ感動を噛み締めていた」
殿下がこれでは、二人の関係はまた拗れてしまうのではないかとナタールは小さくため息をついた。
556
あなたにおすすめの小説
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【8話完結】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!
キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。
今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。
最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。
だが次の瞬間──
「あなたは僕の推しです!」
そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。
挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?
「金なんかねぇぞ!」
「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」
平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、
“推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。
愛とは、追うものか、追われるものか。
差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。
ふたりの距離が縮まる日はくるのか!?
強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。
異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕!
全8話
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?
銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。
王命を知られる訳にもいかず…
王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる?
※[小説家になろう]様にも掲載しています。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる