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夏休み編
呆れて口が塞がらない →side S
しおりを挟む一週間も、どっちの顔も見てないなんてどうしちまったんだ。
いつもツルんでいる、ダチの長谷川東流と日高康史が夏休みに入ってからというもの、いつも立ち寄る店やゲーセンにも姿を全くみせなくなった。
俺も最後の夏の全国大会の前で、2人に構ってやれなかったのもあるが、音信不通が一週間になるとどっちか一人ならまだわかるが、どっちもなんておかしすぎると不安になる。
やっと大会も終わったってのに、まったく顔をみない。
ヤツらが旅行にいくとかいう話も聞いてないし、二人だけでいくとか、俺を誘わないとかありえない。
ありえないと思ってるくらい、2人との付き合いは長い。
中1から5年ちょいも一緒にいるのだ。
2、3日だったらそんなに気にもしないが、一週間になると流石に気になってくる。
東流はともかくとして、康史の携帯に電話をかけても全く出る気配はない。
変な事件に巻き込まれてなければイイんだが、奴らは2人して単細胞なので、何も考えず突っ込んでいくのである。
今までも本職さん絡みの喧嘩に巻き込まれたりしていたのだ。
自分は遠くから応援するだけで、まったく喧嘩にはかかわらなかった。
かかわれない俺の事情もあるが、そんな事情も二人はよくわかってくれている。
「まさか……もうセメント漬けとかで東京湾に沈められてたりしねえよなァ……まさかな」
ひどい不安に苛まれながら、康史のマンションまでようやくたどり着くと合鍵を差し込んだ。
康史は一人暮らしを始めた時に、俺と東流にと合鍵を渡してくれたが滅多に俺は使うことがなかった。
大体二人のうちどちらかと一緒にくることがほとんどなのだ。
不安なまま玄関を開けると、なにやら人の声がする。
なんだ…………いるのか。
生きてるなら、顔ぐらい出せよ。まったく無駄に心配して損した。
ほっとしたら急にイラッとして、むかついてきた。
寝室の方から、掠れた喘ぎと息遣いが聞こえてくる。
オイオイ、夏の昼間っから…………AV鑑賞かよ。
康史のヤツは、モテるクセにホントに頭悪すぎだろ……。
康史はアイドル張りのイケメンで、本当に女子によくもてているし、とっかえひっかえ遊びまくりの羨ましい奴である。
俺からしたら、ただのSMフェチ野郎なのだが。
俺は呆れながら、声が響くガチャっといつもの調子で寝室の中に入り、
「おい、康史、いーかげんAV鑑賞なんかしてねえで、プールにでも……いこ………ォ………」
ぜ、と言いかけて俺は目の前の光景にフリーズした。
「イクッ、ンッぁ、あ、イ、、、くっーー、ヤ………スっ」
勿論、プールに行くという返事ではない。
目の前のベッドの上、俺の親友二人は裸で絡み合いの真っ最中だったのだ。
取っ組み合いではなく、一目見てわかるみだらじみた絡み合い。
それも、東流の脚を掴んで康史が激しく腰を振っているのだ。
「……!!う、おい、な、なにしてんの……おまえ……っら」
漸く、ありきたりの動揺した言葉をかけるのが精一杯だった。
しかも、地元じゃ鬼だ悪魔だと恐れられてい
る東流のアナルに、イケメンでオンナったらしの康史がちんこを突っ込んでる状況とか、まるで悪夢としか思えなかった。
フリーズすること、約2分弱。
俺は、康史の下で荒い呼吸をつきながら身体を震わす東流の姿を凝視していた。
「ッ、をい……ッ、……ヤス…………抜け……よ」
3人の中でいち早く正気に戻ったのか東流が腕を伸ばして、康史を投げ飛ばすように引き剥がすと、軽く深呼吸をしていつもと変わらない表情で俺に視線を向けた。
「悪ィな、セージ。ちっとヤスとセックスしてた。ちょっくらシャワー浴びてくっから、そこ座って待ってて?」
まるでゲームしてたってくらいの何気ない口調でさらっと言って、くいっとソファーを指差す。
「あ、……ああ……わかっ、た」
頷くと、東流はバリバリと自分の髪を掻き乱してベッドから降りると、スルッと俺の横を抜けて浴室へと入っていった。
俺はまだぼんやりしながら、東流が指差したソファーに腰を下ろすと、すぐ横に置いてある冷蔵庫から勝手にコーラを取り出しキャップをあけた。
「……誠士、オレから説明するよ」
康史は東流が出て行った扉を見やると盛大にため息をついて、タオルで簡単に体を拭いてからスエットの下を履き部屋のソファーに座り直した。
「オマエら、モテるのに、ホントどーしたんだ?この暑さで脳みそ沸騰しちゃった?」
コーラを飲みながら、俺はなんとかいつものようにからかうような言葉を口にした。
コーラを飲んでも、まだ緊張で喉が乾いてくる。
異常に仲が良くて、中学の時から東流に弁当を作ってくるような康史だし、抜いてやってるうちにお互いに興奮したとか、そんなオチなのかもしれない。
「オレは……ずっとトールに片思いしてた」
ボソリとつぶやいた康史の言葉に俺はむせそうになって、コーラの蓋をしめた。
「え……。康史……マジなの。二人のお遊びとかじゃねえのか、今のは」
晴天の霹靂いや、でも、どこかで……そうなのかもしれないとは考えたこともあった。
それを覆してきたのは、派手な康史の女遊びだったけど。
どうやら康史のほうはマジらしい。
と、すると今までの派手な女遊びはカムフラージュか。
康史はアーモンド色の綺麗な髪に、アイドル張りに整った顔でモデルのように適度に筋肉のついた体つきをしている。
本当に康史は、すこぶる女にモテるやつなのだ。
わざわざ男を選ぶ必要などないはずなのに。
しかも、東流は男の俺でも憧れるような、全身から屈強さが溢れ出るような男だ。
色を抜きまくって色素がほとんどない髪で、吊り上がった目は豹のようでいつでも目の前の相手を威嚇しているような男だ。
逆ならありかもしれないが、抱きたいと片思いする男とは到底思い難い。
「もう俺ら高3だし、思いを遂げるならこの夏しかねえと思って、先週、トールをオレは強姦した」
康史の告白に、俺は自分の耳を疑った。
強姦……とか、それは犯罪だろ。
その前に東流は地元じゃ知らないやつがいないくらい腕が達つ。
簡単に強姦できるシロモノではない。
「勿論、ガチでいったら殴られて終わりだから、不意打ちで殴ってスタンガンで体の動きを封じて気絶させた。トールはスタンガン使われたって気づいてねえっぽいけど…………」
「ちょ、待って。マジで強姦したのか、アイツを」
強姦した関係にしては、さきほどまでの東流に怒りの感情などは見えなかった。
さっきの様子から言って、セックスしてたことにも特に罪悪感も嫌悪感もなにもなさそうだった。
「オレの計画だと、強姦して夏休み中ずっと監禁して調教しようと思ってたんだ」
頬を掻きながら、うすら怖いばかりの犯罪計画を話し出す親友に、俺は背筋が凍った。
「康史、マジ、こええんだけども。東流、だぞ。間違ったら殺されるぞ」
「実際、東流になら殺されてもいいかなって思ってたんだ。思いを遂げられるなら、後で殺されてもいいかなって」
本音なのだろう。
そこまでの片思いを親友が、もうひとりの親友にしてるだなんて、中学から一緒にいるのにちっとも気がつかなかった。
気づいてはいたのかもしれないが、見ないふりしてたかもしれない。
「少しだけでもオレのモノになってくれるなら、オレの命やってもかまわねえなってさ」
男に恋愛感情をもったことがないからわからないが、康史の本気はなんとなく分かった。
「……東流は?強姦されて怒ってねえの?」
「よくわかんねえけど、怒んなかったな。泣かれたケド…………好きだからヤったって言ったら、なんか許してくれた」
泣かれたって……あの東流が泣くのか。
感情すら筋肉でできていると思っていた。
信じられないようなことばかり聞かされ、思考回路が停止しそうだ。
「そん……で、付き合うことになって、それからずっと部屋に閉じこもって毎日セックスしてたわけだ。悪いな、報告しないで」
「猿かよ、てめーらは…………」
そんな報告されてもなあ、どう反応したらいいのかマジで困るけど。
どうしていいかなんて、現場を見ても信じられず、いまだってとまどっているし。
強姦された相手を許して、付き合うって東流の思考回路は、相変わらず意味がわからないし、まったくわかりたくもない。
まあ、東流も少なからず康史を好きだったってことなのだろう。
そりゃ、昔から、東流が康史を滅茶苦茶大事にしてたのは、充分知ってる。
それなら、これは祝福すべきだな。
康史からは、いいよる女の子を紹介してもらえば、なにより俺もハッピーになれるってもんだし。
ん、こころから祝福しよう。
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