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夏休み編
聞けない顛末 →side Y
しおりを挟む目を覚ますと、オレは真っ白な病室のベッド上にいた。
頭を動かすことが出来ず、視線だけで周りを見回すと、ベッドの端っこに頭をくっつけて東流が眠っていた。
オレの頭には包帯が巻かれていて、なぜここにいるのだろうと一瞬考え込んで、そして、絶望的な記憶と映像が溢れ出した。
オレは、奴らに殴られて.......。
視線の先にある寝ている東流は、大きな怪我の様子は見えない。
だけど、絶対に無事ではないはずだ。
ガクガクと指先が震えている。
東流は、オレの気配に気づいたのか、ゆっくりと目を開いて、少し眠たそうな表情を浮かべ、目を開いているオレに気づくとほっとしたように、上体を起こして立ち上がって顔を覗き込む。
「頭とか痛くねえか?.......脳震盪で意識なかなか戻らねえから、心配したぞ」
いつものように、優しく響く低い声でオレの額を大きい掌で撫でる。
「顔に傷が残んなくて、本当に良かったけどな。足は骨折してるぞ」
東流は、動けるようになるまでは入院することになるとか、色々説明してくれているが、まったく頭に入ってこない。
「オレが.......悪いんだ。ルームサービスっていうから、油断しちまって……………ゴメン」
ホテルの扉を開けた瞬間に、なだれ込んできたやつらに頭を殴られ、体中を蹴られ殴られ意識を失ったのは記憶にある。
あの時、オレはブラックアウトしたままの東流をベッドに拘束していた。
意識がないまま、あの部屋で拘束されていた東流がどうなったかなんて、簡単に想像つく。
想像はつくのに、…………東流本人にどうなったかを、聞けない。
聞くのが、怖かった。
聞いて、オレに何ができるのかもわからない。東流が触れないことをオレが不用意に触れて、いいのかもわからない。
東流の表情はいつもと変わらない。
あまりにもかわらなすぎるのが、逆に演技のように思える。
聞くのがこわい。
東流のことだ、もしかしたら拘束を自分で外して応戦して片付けたかもしれない。
何も、彼には被害が及ばなかったのかもしれない。いや、そうあって欲しい。
「トール…………そんで、あのよ……あの時は……」
問いかけようと言い淀むオレの態度から、何を聞きたいか分かったらしい表情で、東流は銀色になった髪を掻いて気にするなっていう表情をした。
応戦、なんかできるわけない、よな。
「あーな…………あん時は意識ぶっ飛んでたからよォ。クスリでよく覚えてねえからさ、オマエは気にせず早く怪我治せ」
東流は嘘をつくときや、意図しないことをする時はいつもガリガリと髪を掻く癖がある。
だから、あの時のことを覚えてないっていうのは完全に嘘だろう。
奴等なら、絶対にあの状態の東流を見つけたら、陵辱して輪姦するだろう。
そして、もしもオレが奴らならそれをネタにユスるかもしれない。
「トール……ヤツらからその後は何も言ってこねえのか?」
すぐに報復できないのがもどかしい。
東流に何もなかったわけがないのは分かる。
東流が言わなくても誤魔化されても、どうしても分かってしまう。
「何も?…………何もねえよ。オマエ痛めつけて、俺に報復して気ィすんだんじゃねえの」
自分の髪を掻きあげて、大丈夫だと言う東流の顔は、いつも以上にオレを安心させようとしてか、優しく見える笑みを浮かべてくる。
痛々しいくらいにみえる、まるで穏やかな表情。
こういう顔するときは、意地でも言う気がないってことなのだろう。
「オレは、トールがすげえ大事だ。だから……起きたことはちゃんと言ってくれよ」
東流は目を開き、一瞬だけ彼自身も意識してはいないくらい分からないくらい泣き出しそうに顔を歪めたが、さっとすぐにもとの表情を作った。
「…………俺には、そんな大事にされるような価値ねえよ」
消えいりそうな声で呟いて、思い余ったように椅子をたつと、オレをまっすぐ見つめる。
「価値.......?!」
価値がないって…………どういうことだ?
聞き出そうと口を開きかけると、制すように東流はガタガタとパイプのベットを握って無意識に揺らし、オレを上から覗き込む。
「あーいや、大事にされるようなモンじゃねえってこと。大丈夫だ。タンクローリーでももってこなきゃ、俺は潰されねえからよ」
冗談でもいうように、オレに言葉を返すと、大きく体を伸ばしてさてとと、バッグを掴んだ。
「ゴメン。俺…………治療費稼ぐのに、日雇いのバイトいれちまったから、暫く見舞いこれねえ。…………だから、ヤス、早く治せよ」
東流はガシガシと自分の頭をかき乱すと、後ろ手で手を振って病室を出て行った。
………ホントに…嘘つきだな…… 。
まずは、足治さないと……何もできない。
嘘までついて、一体何を守ろうとしているのだろう。
陵辱されたことが悔しいのか。
まさか、一人でカチコミに行くんじゃないだろうな。
吊られて動けないように固定された脚をみやる。
こんな状態じゃ、オレは彼に、何もしてやれない。
一緒に報復しに行くといっても、ただの足でまといにしかならないだろう。
一人で行かせてしまったことに、オレは悔しくてただ拳を握り締めていた。
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