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忘れえぬひと
※side Searashi
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一生スキだと西覇へあの時に告げた言葉には、嘘はなかった。
ただ、どうしても彼に面と向かって離れることを言う勇気もなく、自分も決心が揺るがない自信がなかった。
彼に行くなと言われたら…………そう一言言われてしまえば、絶対に決めたことを挫けさせてしまうことは、自分のことだから分かっていた。
だから、何も言うことができず、何も伝えずそのまま置いてきてしまった。
好きすぎて、傷つく姿を見たくないだなんて、完璧な俺のエゴだ。
漸く戻ってきたときには、もう彼はあの街にはいなかった。そう聞いても、不思議と空は繋がってて、この世は一緒だから、それでも彼が生きているならそれでいいと思ってはいた。
だけど、アイツの実家の前をぐるぐる徘徊するストーカーまがいの俺っていうのもいた。
本当に、女々しいくらい、アイツに執着していた。
だから、仕事で訪れたこの大学で出会えたのは、本当に奇跡の瞬間で運命だと思った。
荒野先生がいなければ、その場で抱きしめていた自信はある。
だけど、返ってきた彼の視線も言葉も………予想した以上にひどく冷たいものだった。
信用するまいという意思が、ひしひしと伝わってくる。
半ば強引に車に乗せてしまったが、隣でもビシビシと俺に向ける不信の念が漂っている。
「何故…………あの時、何も言わずに姿を消したんです」
言葉は丁寧だが、怒りや恨みのような感情は言葉の端々から伝わってくる。
怒らないはずはないと思うんだけど、やっぱり好きなヤツに冷たくされるのは堪える。
「弱気になった。……西覇が……死んだらどうしようってさ…………病院で看ながらずっと思ってたら、俺がいなけりゃ傷つくようなことねえンだろうなあって思って……決めた」
ハンドルを握って、自然と車を自宅マンションのほうへ走らせる。
修羅場になるなら、店とかより自宅の方がまだいい。
ちらっと横目で西覇を伺うと、難しい表情をして眉を寄せている。
10年経っても、やっぱりすっきりとした綺麗な顔だなと思う。
「あん時………覚えてねえかもだけど……俺は、オマエがいないこの世で生きられる気がしねえんだって言ったよな……」
勾配のある丘を登り、ゆっくりとハンドルを返してマンションの地下駐車場へと降りていく。
「なんだかんだ言って……俺が色々弱かったから、オマエを置いてった」
駐車場で車を止めると西覇は、俺を咎めるように見返す。
「ここは?」
「今の俺の自宅」
「……人目がないと、オレ、貴方に何するかわかりませんよ」
感情を抑えたような冷たい表情で、俺を眺める。だけど、ネコはかぶれていないようで、オレと一人称で自分をかたる。そんな時は、彼はいつでも本音だった。
俺はそんなに強い人間じゃない。
だから、そんな目をされると胸がつきつきと痛くなる。
「殴られるのも、全部覚悟の上だ。それでも、俺はずっと昔のままのキモチなんだ」
「本当に…………勝手な人ですね。じゃあ、オレも勝手にさせてもらいます」
ふうっとため息を漏らして、西覇は俺から目を反らして助手席の扉をあけると、駐車場からエレベーターのほうに向かう。
「…………今更、貴方を許せるわけがないでしょう……」
ぼそりと呟く言葉が胸に刺さる。
もう10年経っていて、何もかもが終わったことなんだと西覇の口調から感じ取れる。
「ははっ、だよな……。自分でもムシがいい話だと…………思ってる」
開いたエレベーターに乗り、8階のボタンを押す。
暫く無言の重苦しい空気が漂う。
「………………許して欲しい?」
扉が開き、アタマ半分低い西覇は俺に詰め寄ると上目づかいで、俺の目を切れ長の鋭い視線で見上げてくる。
「……できることなら……」
ふわっと香る懐かしい西覇の匂いに俺は思わずその背中に腕を回そうとし、ぐっとその腕を捻り上げられる。
「触るな……」
低い声が俺の耳に響き、発せられた冷たい言葉にショックを受けて俺は俯いた。
もう、あの頃の俺にだけは優しかった西覇は、いないのだろうか。
「………………そんな顔しないで、先輩。そんな顔をされても、僕、もう人を好きになる自信ないんです…………だから、貴方の体だけ、僕にください」
静かに耳元で告げられた言葉に、俺は目を見開き感情がないままの表情をただ、じっと見返していた。
一瞬、何を言われているかも全く分からなかった。
「貴方のせいで、オレは人を好きになれなくなりました。だから、責任とってオレにその体をください……そしたら許しますよ」
静かに責める言葉に、俺は頷いていた。どうしても頷かずにはいられなかった。
俺がそれだけのことはしたのは分かっている。そんなのは自業自得だ。
許されようだなんて、本当にムシがいい話だ。
エレベーターが8階につくと、それでも体だけと限定されたことに思いのほか心はショックを受けているのか、俺は緩慢な動作で自分の部屋の扉にキーカードを押し込んで開けた。
「……10年前からずっと……俺はオマエのもんだから……」
何をいったところで、無駄とは思いつつも言わずにはおれない。
俺は、西覇とつきあってからら、他の相手と付き合ったこともない。俺の中では別れてはいなかった。
そりゃ、この年齢になるまでには、何人も声はかけられたが全部断ってきた。
「それは感動したほうが、いいところ………ですかね」
俺の言葉に、何の感情すらなく冷たく返ってくる言葉が何より胸を締め付ける。
だけど、これは自業自得。
きっと、これ以上に西覇は苦しい思いをしたに違いない。
急に好きな人に、何も言わずに消えられたら。
俺なら半狂乱になる。…………それだけのことをした。
玄関へ招きいれ靴を脱ぐと、ソファーに上着を脱いでかける。
「西覇は、ビールでも………飲むか」
冷蔵庫に向かおうとする俺の腕を、西覇は掴んだ。
「いや、いいです。まず、…………先輩、全裸になってください」
西覇は、名刺を渡した時に一度だけ俺の名を呼んだだけで、それ以降は俺の名前を口にすらしてくれない。
名前を呼ぶことすら…………拒否されるのか。
いきなり全裸になれといわれて、俺の決心は揺らぐ。
結局、西覇とだって記憶しているのは、1度しかセックスはしていない。
それっきり、俺は誰かと肌を合わせたことがない。
「できない……ですか?いいですよ、また、オレから逃げればいいです」
試すような西覇の言葉に、焦る。
「……できる……って」
「でも……先輩、今日貴方を抱いてしまったら、オレ、貴方をもう逃がさないと思いますよ。セックス漬けにして、オレから離れられないような体に作り変えてしまおうと思ってます。どうします?」
「……うるせえ。……もう、逃げねえって……」
俺は、有言実行とばかりにワイシャツを脱いで、中のシャツを脱ぎ、ベルトを外してスラックスとボクサーパンツを一緒に脱ぐと西覇に裸を晒す。
「……鍛えたんですね。筋肉、昔よりついてる」
「ああ…………もう、あんな目には合わせたくないから」
腹筋を撫でる手つきに、俺はびくっと身を竦める。
「四つんばいになって、ちょっと作ってみた薬あるから試してみていいですか」
「……クスリ……は………怖い」
随分昔の嫌な記憶が戻ってきそうで怖かった。
よつんばいになって腰を浮かせると、まるで検分するように西覇の手が俺の下肢に触れる。
「大丈夫。オレがついてますから……ずっとしていないなら、クスリで緊張をほぐさないと」
「……好きにしろ……」
西覇は着ていた白衣のポケットからアンプルを取り出し、キャップを外すとゆっくり俺のアナルに埋めて液体を注いでくる。
「……10年も何もしてないからですかね。処女みたいにきゅっと締まってる。」
つぷうっと異物感を覚え、ゆっくり人差し指が内部に埋没していくのを感じる。
西覇は俺の亀頭の下へきゅっとシリコンのリングを巻きつける。
「……っつはあ………っッンハッ」
呼吸が速くなり鼓動がどくどくと音を立てる。
クスリのせいか……。
「これは、罰です。だから……ね。先輩は射精できません。これからイクのはお尻でだけです。」
耳元で優しい口調で囁かれると、何か愛されていると錯覚して思わずこくこくと頷いてしまう。
クスリで熱をもってくる腰を揺らして、俺はみっともなく脚を開いて西覇の指を求めてしまう。
西覇は指だけで、決してその体を重ねてはこない。
抱きしめることすら、俺には許されないという絶望感と、たまらなくやってくる快感の波に俺は身を任せて考えることをやめた。
ただ、どうしても彼に面と向かって離れることを言う勇気もなく、自分も決心が揺るがない自信がなかった。
彼に行くなと言われたら…………そう一言言われてしまえば、絶対に決めたことを挫けさせてしまうことは、自分のことだから分かっていた。
だから、何も言うことができず、何も伝えずそのまま置いてきてしまった。
好きすぎて、傷つく姿を見たくないだなんて、完璧な俺のエゴだ。
漸く戻ってきたときには、もう彼はあの街にはいなかった。そう聞いても、不思議と空は繋がってて、この世は一緒だから、それでも彼が生きているならそれでいいと思ってはいた。
だけど、アイツの実家の前をぐるぐる徘徊するストーカーまがいの俺っていうのもいた。
本当に、女々しいくらい、アイツに執着していた。
だから、仕事で訪れたこの大学で出会えたのは、本当に奇跡の瞬間で運命だと思った。
荒野先生がいなければ、その場で抱きしめていた自信はある。
だけど、返ってきた彼の視線も言葉も………予想した以上にひどく冷たいものだった。
信用するまいという意思が、ひしひしと伝わってくる。
半ば強引に車に乗せてしまったが、隣でもビシビシと俺に向ける不信の念が漂っている。
「何故…………あの時、何も言わずに姿を消したんです」
言葉は丁寧だが、怒りや恨みのような感情は言葉の端々から伝わってくる。
怒らないはずはないと思うんだけど、やっぱり好きなヤツに冷たくされるのは堪える。
「弱気になった。……西覇が……死んだらどうしようってさ…………病院で看ながらずっと思ってたら、俺がいなけりゃ傷つくようなことねえンだろうなあって思って……決めた」
ハンドルを握って、自然と車を自宅マンションのほうへ走らせる。
修羅場になるなら、店とかより自宅の方がまだいい。
ちらっと横目で西覇を伺うと、難しい表情をして眉を寄せている。
10年経っても、やっぱりすっきりとした綺麗な顔だなと思う。
「あん時………覚えてねえかもだけど……俺は、オマエがいないこの世で生きられる気がしねえんだって言ったよな……」
勾配のある丘を登り、ゆっくりとハンドルを返してマンションの地下駐車場へと降りていく。
「なんだかんだ言って……俺が色々弱かったから、オマエを置いてった」
駐車場で車を止めると西覇は、俺を咎めるように見返す。
「ここは?」
「今の俺の自宅」
「……人目がないと、オレ、貴方に何するかわかりませんよ」
感情を抑えたような冷たい表情で、俺を眺める。だけど、ネコはかぶれていないようで、オレと一人称で自分をかたる。そんな時は、彼はいつでも本音だった。
俺はそんなに強い人間じゃない。
だから、そんな目をされると胸がつきつきと痛くなる。
「殴られるのも、全部覚悟の上だ。それでも、俺はずっと昔のままのキモチなんだ」
「本当に…………勝手な人ですね。じゃあ、オレも勝手にさせてもらいます」
ふうっとため息を漏らして、西覇は俺から目を反らして助手席の扉をあけると、駐車場からエレベーターのほうに向かう。
「…………今更、貴方を許せるわけがないでしょう……」
ぼそりと呟く言葉が胸に刺さる。
もう10年経っていて、何もかもが終わったことなんだと西覇の口調から感じ取れる。
「ははっ、だよな……。自分でもムシがいい話だと…………思ってる」
開いたエレベーターに乗り、8階のボタンを押す。
暫く無言の重苦しい空気が漂う。
「………………許して欲しい?」
扉が開き、アタマ半分低い西覇は俺に詰め寄ると上目づかいで、俺の目を切れ長の鋭い視線で見上げてくる。
「……できることなら……」
ふわっと香る懐かしい西覇の匂いに俺は思わずその背中に腕を回そうとし、ぐっとその腕を捻り上げられる。
「触るな……」
低い声が俺の耳に響き、発せられた冷たい言葉にショックを受けて俺は俯いた。
もう、あの頃の俺にだけは優しかった西覇は、いないのだろうか。
「………………そんな顔しないで、先輩。そんな顔をされても、僕、もう人を好きになる自信ないんです…………だから、貴方の体だけ、僕にください」
静かに耳元で告げられた言葉に、俺は目を見開き感情がないままの表情をただ、じっと見返していた。
一瞬、何を言われているかも全く分からなかった。
「貴方のせいで、オレは人を好きになれなくなりました。だから、責任とってオレにその体をください……そしたら許しますよ」
静かに責める言葉に、俺は頷いていた。どうしても頷かずにはいられなかった。
俺がそれだけのことはしたのは分かっている。そんなのは自業自得だ。
許されようだなんて、本当にムシがいい話だ。
エレベーターが8階につくと、それでも体だけと限定されたことに思いのほか心はショックを受けているのか、俺は緩慢な動作で自分の部屋の扉にキーカードを押し込んで開けた。
「……10年前からずっと……俺はオマエのもんだから……」
何をいったところで、無駄とは思いつつも言わずにはおれない。
俺は、西覇とつきあってからら、他の相手と付き合ったこともない。俺の中では別れてはいなかった。
そりゃ、この年齢になるまでには、何人も声はかけられたが全部断ってきた。
「それは感動したほうが、いいところ………ですかね」
俺の言葉に、何の感情すらなく冷たく返ってくる言葉が何より胸を締め付ける。
だけど、これは自業自得。
きっと、これ以上に西覇は苦しい思いをしたに違いない。
急に好きな人に、何も言わずに消えられたら。
俺なら半狂乱になる。…………それだけのことをした。
玄関へ招きいれ靴を脱ぐと、ソファーに上着を脱いでかける。
「西覇は、ビールでも………飲むか」
冷蔵庫に向かおうとする俺の腕を、西覇は掴んだ。
「いや、いいです。まず、…………先輩、全裸になってください」
西覇は、名刺を渡した時に一度だけ俺の名を呼んだだけで、それ以降は俺の名前を口にすらしてくれない。
名前を呼ぶことすら…………拒否されるのか。
いきなり全裸になれといわれて、俺の決心は揺らぐ。
結局、西覇とだって記憶しているのは、1度しかセックスはしていない。
それっきり、俺は誰かと肌を合わせたことがない。
「できない……ですか?いいですよ、また、オレから逃げればいいです」
試すような西覇の言葉に、焦る。
「……できる……って」
「でも……先輩、今日貴方を抱いてしまったら、オレ、貴方をもう逃がさないと思いますよ。セックス漬けにして、オレから離れられないような体に作り変えてしまおうと思ってます。どうします?」
「……うるせえ。……もう、逃げねえって……」
俺は、有言実行とばかりにワイシャツを脱いで、中のシャツを脱ぎ、ベルトを外してスラックスとボクサーパンツを一緒に脱ぐと西覇に裸を晒す。
「……鍛えたんですね。筋肉、昔よりついてる」
「ああ…………もう、あんな目には合わせたくないから」
腹筋を撫でる手つきに、俺はびくっと身を竦める。
「四つんばいになって、ちょっと作ってみた薬あるから試してみていいですか」
「……クスリ……は………怖い」
随分昔の嫌な記憶が戻ってきそうで怖かった。
よつんばいになって腰を浮かせると、まるで検分するように西覇の手が俺の下肢に触れる。
「大丈夫。オレがついてますから……ずっとしていないなら、クスリで緊張をほぐさないと」
「……好きにしろ……」
西覇は着ていた白衣のポケットからアンプルを取り出し、キャップを外すとゆっくり俺のアナルに埋めて液体を注いでくる。
「……10年も何もしてないからですかね。処女みたいにきゅっと締まってる。」
つぷうっと異物感を覚え、ゆっくり人差し指が内部に埋没していくのを感じる。
西覇は俺の亀頭の下へきゅっとシリコンのリングを巻きつける。
「……っつはあ………っッンハッ」
呼吸が速くなり鼓動がどくどくと音を立てる。
クスリのせいか……。
「これは、罰です。だから……ね。先輩は射精できません。これからイクのはお尻でだけです。」
耳元で優しい口調で囁かれると、何か愛されていると錯覚して思わずこくこくと頷いてしまう。
クスリで熱をもってくる腰を揺らして、俺はみっともなく脚を開いて西覇の指を求めてしまう。
西覇は指だけで、決してその体を重ねてはこない。
抱きしめることすら、俺には許されないという絶望感と、たまらなくやってくる快感の波に俺は身を任せて考えることをやめた。
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