瀬をはやみ

怜悧(サトシ)

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忘れえぬひと

side Hasegawa

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ゆっくり焦らして何度も指だけで追い詰めて絶頂へと追いやった。
身体は限界を越していたのに、逃げることもせずに甘い声でオレの名を呼んでいた。
ようやく体液にまみれて床に倒れこんだ意識のない彼の体を眺めおろす。
汚してしまった。
相変わらず綺麗に艶やかな髪も、あの頃より筋肉質な体も本当に綺麗だったのに……。
こんなことがしたかったんだっけ……。
許せない気持ちばかり思いだしてしまう。
洗濯機の近くの棚からタオルを手にしてぬるま湯で濡らしてもってくる。

オレがかけた冷たい言葉に傷つきながらも、あの頃のような目を変わらずに向けてくる彼を、オレはついつい試してしまっていた。

そっと体液を拭って、体中を清める。
ただただ目の前にいるこの人が怖くて、意気地無しで抱くことさえできなかった。
ただ、彼を辱めるだけで精いっぱいになって、オレは体をつなげることができなかった。

すっかり、オレは臆病になっちまってる。

誰も信じることが、できなくなってしまった。
多分、あの時成春はオレのことを考えて、オレの前から消えることを選択したのはわかった。
迎えに行った時に、力がないことをまざまざと感じて成春の気持ちも理解できたはずだった。
理解できるのと……納得するのはわけがちがう。
あれから、どんなに忘れようと頑張っても、どんなに頑張ってもできなかった。

「………」

ぎゅうっと意識のないその体を抱きしめる。
愛している。
成春が言っているのと同じように、オレの心もその気持ちは今も変わらない。
ずっと変えられなかった。
それなのに、それを口にすることがどうしてもできない。
10年間誰のものでもなかったという、その言葉には嘘はないだろう。
まるで処女のように、初めて抱いた時よりずっと堅く拒んだアナルがその証拠だろう。
重たい成春の体をなんとか抱き上げて、寝室へと運ぶ。
オレが、留学していた間も待っていてくれたといっていた。多分嘘はないだろう。
高校の時も、会わないように避けていた時でさえ、オレのことをずっとつけていたと聞いたこともあった。
気質的に、そういうストーカーチックなノリもあるのは知っている。
あの高校に彼と仲がいい相手などはいなかったと思うが、何かツテを辿ったりする手段を思いつかないあたりが、ほんとうに不器用な人だなと思う。
寝室のドアを開いて部屋の中に入る。
綺麗に整頓されていて、生活感はあるが成春とどうよう飾らない感じがするシンプルな部屋だ。
少し大きめのベッドに成春を横たえると、ベッドの上に置いてあるものにオレは目を奪われた。

なくしたと思っていた。
あの時、最後に一緒にいた日にかけていたオレの伊達眼鏡が、大切そうに、ケースに入れてほこりも被らないようにして置いてあった。

ずっと、持っていたのか。
……本当に……バカな人だ……。

10年も経ったら、オレの心なんて変わってるかもしれないのに、ずっと持ち続けて待ってるなんて。

許して欲しいのだと、心から訴えている表情に……オレのキモチもほどけかけている。
だけど……。
あの時のように、この人が急に消えたらなんて思うと怖くて仕方が無い。

スキだと口に出すことが……。
本当に怖い。

あの時の気持ちを忘れることなんて、できやしねえのに……。

「………せいは……」

呼ばれて焦って振り返ると、成春は寝言を言ったらしくもにゃもにゃと口を動かしている。
愛らしいしぐさに思わず唇をその唇へと落とした。
いい匂いがする。
「……貴方は……大馬鹿……だ」
成春の匂い……。
こんなにも胸がきゅうと掴まれるように痛い。

何の夢を見ているのか、柔らかい笑みを刻んですやすやと眠っている。
胸の中に広がるのは、たまらなくなるほどの安らぎと愛しさ。
手に入れたいと……こころから……。

「バカは………………オレの方か……」

オレはその頬に伸ばしかけた掌をぐっと握り込んで、自分の胸元に抑え込んだ。
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