瀬をはやみ

怜悧(サトシ)

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ときは(常磐)なるひと 

side Hasegawa

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目の前で涙を零す彼を、オレは見ていることができなかった。
冷たい言葉で突き放すようにわざとしていたのは、オレ自身だったのに、この人の涙は見たくなかったのだ。
あの頃とまったく変わらず、純粋すぎる言葉をオレに差し出す人。
筋を通さないとと勝手に決めて、オレと距離を置いて俺を見つめ続けるとか、本当に少女マンガかなにかのような恋愛をぶつけてくる。
しかも、オレの相手に悪いからと、泣いて身をひこうとしてくる。
好きじゃないと前置きしたにもかかわらずだ。
どこまで純情な人なんだろう。

「………恋人がいるなら……諦めるしかないだろう」

「何故、それでも奪おうとか考えてくれないんですか」
「俺にそんな資格ない」
震える拳を握って俯いている背中を抱きしめたくなる。
でも、それじゃ何度も繰り返すだけだ。
何度でも、彼はオレから逃げるだろう。
「資格なんか、必要ないんですよ。欲しければ奪えばいいんです」
「……俺は……オマエが好きなんだよ」
変わらない眼差しを向けてくる人。
もう一度その手に入れられるなら、絶対に今度は離す事はできない。
「信用できない……。先輩の体を作り変えて、オレから離れられないようにしてしまったら、また好きになれるかもしれないけど……もし、オレが貴方から離れたら…貴方が追って追いすがるくらいに……」
絶対オレから離れられないように。
そこまでしないと信用することが、もうできない。

「いいよ……。そんなことで、オマエが俺をもう一度好きになってくれるなら。オマエの好きに作り変えていい」
本当に少しもぶれずに変わらない人は、そう言ってオレの目をじっと見つめる。
「バカな人だ。オレはアンタを調教するって言ってるんですよ?分かってます?」
思わずいらついて手を伸ばして先輩の肩を掴む。
真っ直ぐな目許が、僅かに赤く染まりオレを見返してくる。

「俺はずっとオマエのもんだ。好きにしてくれ」
変わらない、ずっと変わらない気持ちのままの彼の表情に、オレの心はまたゆっくりと動き始めた。
この人はまったくあの頃からキモチも心も変わっていない。
悪くいえば、成長すらしていないよいな気がする。
あの時も資格がないとか、そんなやりとりをしていたのを思い出す。

いつまで経っても、全く変わらない不器用な人だ。
自分を捧げて許されるのなら、それでいいとさえ考えている。
あまりに単純で、考えていることなど手に取るようにわかるのに、どうして信用してあげることができないのだろう。
われながら、自分の気持ちの狭さに笑いたくなる。

あの時、彼を取り戻そうと、四国までいこうとオレなりにはあがいた。
結局はいろんなトラブルでたどり着けず、諦めるしかないと、オレもそこで諦めてしまって、迎えにいかなかった。
迎えにいったら、何か変わったのだろうか。

……もしとか、たとえばとか、こうしていたらとかそんな考えは愚鈍のきわみだということは分かっている。
それでも、今でも考えてしまう。

「貴方の気持ちはわかりました。……冷たいことしか言えなくてごめんなさい。それでも僕は、前のように貴方を好きになるかわからないですよ」

必死な表情を見つめて、昔から変わらない綺麗な髪にそっと触れる。
艶をもった綺麗な髪。あの時とは違う色をしているけれど。
たった二回だけ、抱いた綺麗な肢体。
忘れることなどできないし、誰を抱いても思い出された。

「そんなこと………分かってンよ。また……出会えたなら………もう、離れないって決めてた」
必死で訴える真っ直ぐな目も、何もかも変わっていない。
「決めてた……わりにあっさり諦めようとしてたじゃないですか」
「あっさり……じゃない」
オレのいもしない恋人に対しての罪悪感。
それだけで諦められる人に安心なんかできない。
だけど……。オレが離さなきゃ問題のない話だろう。
オレはあの時のような子供ではないから。

「それでも、もし、離れたくなったとしても、今度は何も言わずに消えるのだけはやめてください。」
あの絶望感は今でも忘れられない。
退院して、学校にいったところ転校を知り、実家にいくと引っ越した後だといわれた。
頼み込んで成春の母親から住所を聞き出して、迎えにいこうと思った。

「離れないよ」
「……簡単に言わないでください。後が……怖い」
オレはすっかり臆病になっている。

何もかもなくした、あの日に戻りたくないと……。
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