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ときは(常磐)なるひと
side Hasegawa
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ちゃっかりとオレの隣に腰を降ろした実のアニキに、康史さんは、すぐさまキッチンに戻り甲斐甲斐しく新しいカップにコーヒーを淹れている。
アニキに飲まれてしまった俺の換えのコーヒーと一緒に、目の前へアニキの分のコーヒーと好きなビーフジャーキーを入れた皿を出してくる。
コーヒにジャーキーは合わない気もするが、アニキの味覚はバカなので大丈夫なのだろう。
いつまで経っても自信がないと言っているのを裏付けるように、いつまで経っても手を抜くことをしらない。
好きなもの、してほしいことをすべて把握して、自然にそれを提供する。
これじゃ、何をされても文句など言えるわけがない。
「オマエが来るなんて珍しいなァ」
暢気に長い足を組んで、ビーフジャーキーを齧りながら、アニキはオレを不思議そうに見下ろしてくる。
今は、甘栗色の髪をしているが、昔は真っ白に脱色をしていた。
でも、鋭い目つきは生まれた頃から変わらない。
一度配線がちぎれてしまうと、誰も止められないくらいの暴走をすることも、オレは知っている。
長距離の運送の仕事をやめて、今は母の店を改装してショットバーを経営している。
アニキは、ヤクザだった父親に顔も言動も似ているし、それ以上に危険な要素が沢山あるが、そうならないのはひとえに、康史さんのためだけのような気がする。
「ちょっと相談ごとがあって、康史さんに聞いてもらってた」
「ふうん……それも珍しいな」
腕を組んでくちゃくちゃと肉を食みながら、何か面白がるような顔を向けてにっと笑う。
「高校の時のあの子と再会したみたいよ」
康史さんは、アニキの目の前に座ってコーヒーを口へと運ぶ。
アニキは複雑そうな表情を浮かべてオレを見る。
先輩に逃げられたときに、オレは追いかけようとアニキに四国までバイクを出して欲しいと頼んだ。
あの時会えていたら、今のオレは変わっていたかも知れない。
だけど、かなわなかった。
途中でならずものにからまれてしまってオレが捕まり、助けにきたアニキとなんとか逃げ出して、戻ったのだ。
四国に連れていけなかったことを、アニキがオレに対して凄く負い目にしているのも知っている。
「まだ……オレを好きだと………言っていて……」
「それで、何を悩む必要があるんだ」
心底不思議そうにオレを見て首を傾げるアニキの方が、本当にオレは摩訶不思議だった。
それは悩まない方が、不思議ではないのだろうか。
「悩まない?普通悩むだろ」
「だってよ…………オマエ、そいつのことがずっと好きじゃんよ。悩む必要はねえだろ、ソレ」
ビーフジャーキーを指で引き裂き、口に運びながら、何のことはないとばかりに言うアニキを、ふいをつかれたようにオレは眺めた。
一度裏切られた人を信じるのが怖くないのだろうか。
「………怖くないのか?アニキは」
「何がよ?わかんねえけど、…………俺に怖いモンはねえよ」
相変わらずの答えに、そうだよなーと考え直し、目の前で失笑している康史さんを見返した。
「聞く相手が間違いだよ、西覇」
「そうみたいですね……」
もう一度あんな思いはしたくないキモチでいっぱいだ。
だけど、先のことなんて誰もわからない。
あんな思いをするかどうかなんてわからない……。
その可能性が高いというだけで、オレは諦めるのだろうか。可能性なんて、実際にはわからない。
今なら、今度彼にどこに逃げられても追いかけていける。
「男ならよ、スキだったら力ずくでも手に入れろ」
コーヒーをすすりながら、物騒な表情で言うアニキにオレは肩を竦めて茶化すように言った。
「アニキは、力づくでモノにされたんだもんな」
「おう。この俺を力づくだなんて考える、ヤスの気合はすげえだろォ」
オレの言葉などまったく意に介した様子もなく、からから笑うアニキは本当に幸せそうだ。普通にこれは、惚気られてんだろうな。
誰もが恐れていたアニキを、多少の器具や薬は使ったにしても襲おうと考えるとは、康史さんの綺麗な顔の中身はそれどおりの人ではないと思う。
「気合ってねぇ……オレなりに、色々必死だったんだけどね……」
康史さんも苦笑浮かべながら、愛しそうにそんなアニキを眺めている。
まったく、のろけられているだけなんだが、ホントによかったなと思う。
確かに、アニキにすら見抜かれているくらいオレはカレを長年想ってきた。
ほかに恋人と呼べるような人もつくれないくらいに。
「……そうだね………。オレ、気合たりてないのかな……」
「まあ、セイハはさ、いろいろ考えすぎじゃねえか?頭イイからかもしれねえけどさ」
オレの肩をバシバシ叩きながら、アニキはにっと唇の端をあげて笑う。
「欲しいって思ってンなら、手ェ伸ばして掴み取れよ。……怖がってンじゃねえ」
耳元で囁かれて、アニキを見ると、アニキはじっと目の前の康史さんを眺めながら目を細める。
「俺は欲しいものは、絶対に手に入れる主義だ」
背中を押すように、力を込めるアニキにはオレが何を欲しがっているか、きっと………わかっている。
オレは、今でも……。
あの人を欲しいとおもっている。
たとえ裏切られても………。
無理やり諦めたけれど、オレは、ずっと欲しかった………んだ。
アニキに飲まれてしまった俺の換えのコーヒーと一緒に、目の前へアニキの分のコーヒーと好きなビーフジャーキーを入れた皿を出してくる。
コーヒにジャーキーは合わない気もするが、アニキの味覚はバカなので大丈夫なのだろう。
いつまで経っても自信がないと言っているのを裏付けるように、いつまで経っても手を抜くことをしらない。
好きなもの、してほしいことをすべて把握して、自然にそれを提供する。
これじゃ、何をされても文句など言えるわけがない。
「オマエが来るなんて珍しいなァ」
暢気に長い足を組んで、ビーフジャーキーを齧りながら、アニキはオレを不思議そうに見下ろしてくる。
今は、甘栗色の髪をしているが、昔は真っ白に脱色をしていた。
でも、鋭い目つきは生まれた頃から変わらない。
一度配線がちぎれてしまうと、誰も止められないくらいの暴走をすることも、オレは知っている。
長距離の運送の仕事をやめて、今は母の店を改装してショットバーを経営している。
アニキは、ヤクザだった父親に顔も言動も似ているし、それ以上に危険な要素が沢山あるが、そうならないのはひとえに、康史さんのためだけのような気がする。
「ちょっと相談ごとがあって、康史さんに聞いてもらってた」
「ふうん……それも珍しいな」
腕を組んでくちゃくちゃと肉を食みながら、何か面白がるような顔を向けてにっと笑う。
「高校の時のあの子と再会したみたいよ」
康史さんは、アニキの目の前に座ってコーヒーを口へと運ぶ。
アニキは複雑そうな表情を浮かべてオレを見る。
先輩に逃げられたときに、オレは追いかけようとアニキに四国までバイクを出して欲しいと頼んだ。
あの時会えていたら、今のオレは変わっていたかも知れない。
だけど、かなわなかった。
途中でならずものにからまれてしまってオレが捕まり、助けにきたアニキとなんとか逃げ出して、戻ったのだ。
四国に連れていけなかったことを、アニキがオレに対して凄く負い目にしているのも知っている。
「まだ……オレを好きだと………言っていて……」
「それで、何を悩む必要があるんだ」
心底不思議そうにオレを見て首を傾げるアニキの方が、本当にオレは摩訶不思議だった。
それは悩まない方が、不思議ではないのだろうか。
「悩まない?普通悩むだろ」
「だってよ…………オマエ、そいつのことがずっと好きじゃんよ。悩む必要はねえだろ、ソレ」
ビーフジャーキーを指で引き裂き、口に運びながら、何のことはないとばかりに言うアニキを、ふいをつかれたようにオレは眺めた。
一度裏切られた人を信じるのが怖くないのだろうか。
「………怖くないのか?アニキは」
「何がよ?わかんねえけど、…………俺に怖いモンはねえよ」
相変わらずの答えに、そうだよなーと考え直し、目の前で失笑している康史さんを見返した。
「聞く相手が間違いだよ、西覇」
「そうみたいですね……」
もう一度あんな思いはしたくないキモチでいっぱいだ。
だけど、先のことなんて誰もわからない。
あんな思いをするかどうかなんてわからない……。
その可能性が高いというだけで、オレは諦めるのだろうか。可能性なんて、実際にはわからない。
今なら、今度彼にどこに逃げられても追いかけていける。
「男ならよ、スキだったら力ずくでも手に入れろ」
コーヒーをすすりながら、物騒な表情で言うアニキにオレは肩を竦めて茶化すように言った。
「アニキは、力づくでモノにされたんだもんな」
「おう。この俺を力づくだなんて考える、ヤスの気合はすげえだろォ」
オレの言葉などまったく意に介した様子もなく、からから笑うアニキは本当に幸せそうだ。普通にこれは、惚気られてんだろうな。
誰もが恐れていたアニキを、多少の器具や薬は使ったにしても襲おうと考えるとは、康史さんの綺麗な顔の中身はそれどおりの人ではないと思う。
「気合ってねぇ……オレなりに、色々必死だったんだけどね……」
康史さんも苦笑浮かべながら、愛しそうにそんなアニキを眺めている。
まったく、のろけられているだけなんだが、ホントによかったなと思う。
確かに、アニキにすら見抜かれているくらいオレはカレを長年想ってきた。
ほかに恋人と呼べるような人もつくれないくらいに。
「……そうだね………。オレ、気合たりてないのかな……」
「まあ、セイハはさ、いろいろ考えすぎじゃねえか?頭イイからかもしれねえけどさ」
オレの肩をバシバシ叩きながら、アニキはにっと唇の端をあげて笑う。
「欲しいって思ってンなら、手ェ伸ばして掴み取れよ。……怖がってンじゃねえ」
耳元で囁かれて、アニキを見ると、アニキはじっと目の前の康史さんを眺めながら目を細める。
「俺は欲しいものは、絶対に手に入れる主義だ」
背中を押すように、力を込めるアニキにはオレが何を欲しがっているか、きっと………わかっている。
オレは、今でも……。
あの人を欲しいとおもっている。
たとえ裏切られても………。
無理やり諦めたけれど、オレは、ずっと欲しかった………んだ。
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