瀬をはやみ

怜悧(サトシ)

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君がためをしからざりし命さへ

※side Searashi

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「イジワルして、ごめんなさい。そんな顔しないで大丈夫ですよ」
そう言って、西覇は動きを止めた。
俺の身体を抱く西覇の体温は高く温かいのに、俺の心は急速に冷えきっていって、体がカタカタ震えてしまう。
頭では、分かっている。
西覇がこんなことだけでは、許してはくれないことなど。
「セイ、ハ?なんか、ダメだった?」
中途半端に熱をもった身体が、震えて仕方がないのは寒いからなのか、恐怖なのか。
必死に問いかけるが、俺を抱いたまま西覇は横に首を振った。
気を抜いたら、泣き出してしまいそうだ。
大の男が、こんなことで泣くなんてありえない。
必死に縋るようにその目を見ると、優しい手つきで俺の背中を撫で、タオルでゆっくりと汚れた身体を拭う。
これは終わりの合図だ。

「成春さん、駄目じゃないです。駄目なのは、僕の方です」

期待、していた。
欲しいとちゃんと伝えたら、あの時のように抱いてくれると。

「もう、俺、じゃ、駄目ってことか?」
服を着替えさせられて、最後通牒を突き付けられたかのように感じてカタカタと体が震えてくる。

浅はかすぎんじゃねえか、俺は。
自分が、したこと忘れてねえだろ。

「違いますよ。少し話をしましょう」

その声は、ひどく優しくも聞こえる。
駄目なら駄目とすぐにいってくれりゃ、いい。
分かって、る。
メゲるのはお門違いだから、何を言われてもされても構わないのに。
どうして、こんなに落胆しちまってんだろう。

「西、セイ、ハ」
「そんな顔しないで、成春さん。僕はちゃんと、話をしたいだけだから……このままは良くない」
不安でいっぱいの俺の顔を覗き込むと、眉を上げてリビングへと背中を押して向かう。

いいかげん。女々しすぎんだろ。

大丈夫。
そんな、期待してなんか、なかった、よな。

頭の中で、これからおこる最悪な別れまでシュミレートしておく。
こころの損傷が激しくならないように、防衛策だ。
西覇は、俺をソファーに座らせて横に自分も座る。

「10年前、退院するとメールしたのに、返事もなくて。退院してきたら、貴方の姿は学校にはなかった。僕は親父がヤクザだし、僕と一緒にいたら、貴方も危険だというのはちゃんと考えていた」

西覇は俺の手をとって軽く握ると、ゆっくりと話し出した。
俺を責めるでもない目でじっと見据える。
「俺は.....。俺の危険はどうでも良くて.....。でも、セイハがいなくなったらって考えるとこわくて.....セイハに話したら、きっと決心が鈍ると思った」
「.....僕も貴方に会って、きちんと説明して貰おうと四国に行こうともしたんです。結局たどり着けなかったけれど」
俺の手を握る西覇の手の平は、ひどく暖かい。
「だけど、どこかでオレから逃げた貴方を恨んで……詰ってやりたいとも思ってた。.....オレ、器はちいさいんだよ」
ぽつりと鼻先で笑って呟いた言葉は、本心。
本心を告げる時、西覇は言葉遣いが悪くなる。
「だけど、こうやって再会しちまったら、貴方を責めるとか恨むとかそんな気持ちより、もっと、もっと、貴方と一緒にいたいと考えてしまうようになってきてる」
静かに告げると、ギュッと指が食い込むような強さで手を握られる。
二度と離すかという強さに、俺は強く握り返した。

「セイハ、、、」

「このまま、何も言わずに貴方を抱いたら、違うと思ったから途中でやめたんだ」

西覇は、メガネを外して俺を射るような目でじっと見返した。

「成春さん、オレは貴方を忘れられない。今でも好きです。オレとずっとこれから一緒に生きてくれる覚悟ありますか」

静かな問いかけは、まるでプロポーズのように聞こえた。


決定的に拒絶の言葉を予想していた俺は、西覇の顔を凝視するしかなかった。
予想もまったくしてない、言葉だった。
「……一緒に、いたい。 セイハと一緒に、俺はいたい、誓う!」
俺は食いつくように、西覇の腕を掴んだ。
思いもつかない言葉に必死に期待をのせる。
「一度は逃げた貴方を信用したわけじゃない。アンタは凄く弱い人だから。だけど、アンタがどんな風に逃げても、オレはもう逃がさない」
静かなだけど、強い言葉で囁きながら西覇は俺の背中を抱き寄せて端正な顔を近づけてくる。

「……俺はずっと……一生、オマエしかスキじゃない」

何度もいつも思っていた言葉。くりかえし、くりかえし。
10年以上、ずっと。
忘れようとはしなかったし、できなかった。
「馬鹿な人ですね。僕に出逢わなければ、きっと貴方は幸せだったのに」
言葉とは裏腹に、西覇は俺がずっと見たかった昔のような優しい笑顔を向けて、俺の顎を掴むと唇を重ねて貪るかのように舌を吸いあげる。
脳みそまで痺れるかのような直接的な刺激に、鼻から熱い息が漏れる。
全身を苛むような、痺れと熱に俺は唇を動かして西覇の舌を食み、チュッチュと吸いあげる。
せわしなく俺のシャツとスラックスを剥がし、西覇はさっきまで慣らしていたアナルの周りを指で辿る。
指の刺激にたまらず、腰を押し付けるように揺らすと、西覇は唇を離して俺を見下ろす。

「そんなに経験ないはずなのに、いやらしい。10年間、ずっとオナニーしてたの?」
意地悪な顔で浅いところに指を差し込み、俺のペニスの裏筋を指でなぞる。
「ンッ、っ、セイ、ハ、、そこじゃ、…………イ、ヤダ」
ゆっくりゆっくり括約筋を拡げられ、浅いところばかりをいじられ、じれてたまらない。
「教えてください。成春さんの、10年をオレは知りたいです」
耳元で囁かれ、ギュと穴が指を咥えたまま締まる。
「っ、っ、ハァ、ンッ、セイハと、してるの想像して、抜いてた、よ」
告白を促され、答えると羞恥で全身が熱くなり、ペニスから我慢汁がだらだらとあふれる。
「こんな風に、指も入れてた?」 
3本指を差し込んで、ぐぷぐぷと動かして、肝心な箇所には触れてくれず、俺は脚を開いて我慢出来ずに腰を突き出す。
西覇は指をすこし引いて、俺の痴態を楽しむように追い詰めてくる。
「教えてください、こんなに腰を突き出してどうして欲しいの?」 
俺の本心を暴くように見つめられると、身体が溶けてしまいそうになる。
「セイ、ハ、や、もっ、奥、さわって、なか、ほしい、ほしいっ」
「やらしいですね。アナルにぶちこまれたくて仕方がない顔してるね。先輩そんなに欲しいの?」
意地悪な言葉にも、俺は頷いてしまう。
疼いて疼いてたまらない。
あの時のように、抱いてほしい。
ググッと指が奥を突きあげる。俺は腰を揺らして快感に腰を浮かし、 
「っ、っハッ、セイハ、ァア、イ、イク」
「まだ、駄目ですよ」
キュッと先っぽを握られて、俺の絶頂を阻止する。

「指でいいんですか?成春さん、オレにどうしてほしいのか、ちゃんと教えてください」

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