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第六話:魔獣の咆哮、そして血染めの防衛線
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西の森から響き渡った不気味な地響きと、急速に暗転した空の色は、ミモザ村に平和な視察の終わりと、悪夢の始まりを告げていた。
「……来るぞ!総員、戦闘準備!」
レオンハルト辺境伯の鋭い号令が、広場に響き渡った。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、西の森の木々を薙ぎ倒し、おびただしい数の異形の影が、雄叫びを上げながらミモザ村めがけて突進してきた。
それは、まさしく魔物の大群だった。
小鬼のような姿をしたゴブリンの群れ、豚のような顔に巨大な棍棒を振り回すオーク、そして、血走った目で涎を垂らす、狼の姿をした凶暴な魔獣、森狼(フォレストウルフ)。
それらが、土煙を上げ、地軸を揺るがすほどの勢いで迫ってくる。
「ひぃぃぃっ!ま、魔物だぁーっ!」
「助けてくれぇ!」
村人たちは、その恐ろしい光景を目の当たりにし、一瞬にしてパニックに陥った。
恐怖に叫び声をあげて逃げ惑う者、その場に座り込んで泣き出す子供、なすすべもなく立ち尽くす老人。
平和な村が一転して、阿鼻叫喚の地獄絵図と化そうとしていた。
しかし、その混乱の最中、レオンハルト辺境伯は微塵も動じることなく、冷静沈着に指揮を執った。
「狼狽えるな!騎士たちは私に続け!村の入り口で防衛線を張る!女子供、老人たちは村の中央の集会所へ避難しろ!男たちは、鍬でも棍棒でも何でも良い、武器になるものを手に取り、女子供を守れ!」
自ら長剣を抜き放ち、黒馬に跨った辺境伯は、わずか数騎の供回りの騎士たちと共に、村の入り口へと駆け出した。
その背中には、絶望的な状況にも屈しない、絶対的な指導者としての威厳と覚悟がみなぎっていた。
「グリューネヴァルトの騎士たる者、民を見捨てて死ぬことは許さん!一人でも多くの命を救い、そして、生き延びるのだ!」
辺境伯の檄が、恐怖に打ち震える騎士たちの心を奮い立たせる。
彼らは雄叫びを上げ、主君に続いて魔物の群れへと斬り込んでいった。
フィリアもまた、この未曾有の危機を前に、ただ傍観しているわけにはいかなかった。
彼女の心の中では、かつて王宮で叩き込まれた、王族としての責務、民を守り、導くという教えが、鮮やかに蘇っていた。
「マーサさん、皆さん、落ち着いてください!私が誘導しますから、子供たちとご老人を連れて、集会所へ!」
フィリアは、恐怖で顔を引きつらせるマーサや村の女性たちに、毅然とした声で呼びかけた。
その声には、不思議なほどの落ち着きと力強さが宿っており、パニックに陥っていた人々を少しだけ我に返らせた。
フィリアは、まず泣き叫ぶ子供たちを抱きかかえ、老人たちの手を引きながら、村の中央にある石造りの頑丈な集会所へと避難を開始した。
その途中、逃げ遅れた村の若者が、オークの棍棒の一撃を受けて倒れ、足を血に染めているのを発見する。
「しっかりして!」
フィリアは即座に駆け寄り、自分の着ていたワンピースの裾を躊躇なく引き裂くと、慣れた手つきで若者の傷口を強く縛り、止血を施した。
その的確で迅速な応急手当は、かつて王宮で負傷した兵士の手当てを見学し、書物で医療の知識を学んでいた経験が生かされたものだった。
「ありがとう……フィリア……さん……」
若者は、痛みに顔を歪めながらも、フィリアに感謝の言葉を述べた。
フィリアは、彼を他の村人に託すと、再び避難誘導に戻った。
そして、集会所へ人々を誘導しながらも、彼女の頭脳は目まぐるしく回転していた。
(このままでは、いくら辺境伯様たちが強くても、数の力で押し切られてしまう……何か、何か手はないの……?)
王宮の書庫で読んだ、古代の戦術書の一節。
森の中で行われた、少数部隊が多数の敵を打ち破ったという戦いの記録。
その中に、地形を利用した罠や、敵の混乱を誘う陽動作戦についての記述があったことを、フィリアは思い出した。
「そうだわ……!」
フィリアは、避難がある程度完了したのを見届けると、集会所の入り口を守っていた数人の若い村の男たちに声をかけた。
「皆さん、ただ隠れているだけでは、いずれ魔物の餌食になるだけです!私に考えがあります。少し危険かもしれませんが、村を守るために、力を貸していただけませんか!」
彼女の真剣な眼差しと、その言葉に込められた強い意志に、若い男たちはゴクリと唾を飲み込み、そして、力強く頷いた。
フィリアは、彼らに村の周辺の地形を利用した簡易的な落とし穴の作り方や、油を染み込ませた布を松明にして、魔物の注意を引きつける陽動部隊の役割などを、手早く指示した。
それは、付け焼き刃の戦術かもしれない。
しかし、何もしないよりは万倍もましだった。
一方、村の入り口では、レオンハルト辺境伯と騎士たちが、獅子奮迅の戦いを繰り広げていた。
辺境伯の振るう長剣は、閃光のように煌めき、次々と襲い来るゴブリンやオークを薙ぎ払っていく。
その剣技は、まさに達人の域に達しており、一騎当千の勇ましさだった。
騎士たちもまた、主君の武勇に鼓舞され、死力を尽くして戦っていた。
しかし、魔物の数はあまりにも多く、その勢いは一向に衰える気配がない。
ゴブリンの鋭い爪が騎士の鎧を裂き、オークの棍棒が盾を砕く。
負傷者が一人、また一人と増えていき、防衛線は徐々に後退を余儀なくされていた。
「ぐっ……まだ来るか……!」
レオンハルト辺境伯も、肩で荒い息をつき、その額には脂汗が滲んでいた。
その時、一体の巨大な森狼が、騎士の一人を突き飛ばし、防衛線を突破して村の中へと侵入してきた。
その牙は、避難の列の最後尾にいた、小さな子供へと狙いを定める。
「危ないっ!」
フィリアが叫んだ瞬間、レオンハルト辺境伯は、まるで黒い疾風のようにその子供の前へと躍り出て、身を挺して森狼の鋭い牙を受け止めた。
ゴリッという鈍い音と共に、辺境伯の左肩の鎧が砕け散り、鮮血がほとばしる。
「辺境伯様っ!」
騎士たちの悲痛な叫び声が響いた。
レオンハルトは、激痛に顔を歪めながらも、怯むことなく森狼の首を一閃のもとに斬り落としたが、深手を負った左腕からは力が抜け、長剣が手から滑り落ちそうになる。
その隙を逃さず、別の方向から襲いかかってきた数体のオークが、辺境伯へと殺到した。
「おのれ……!」
騎士たちが駆けつけようとするが、他の魔物たちに阻まれ、間に合わない。
ミモザ村は、今まさに魔物の蹂躙される寸前の、絶体絶命の危機に陥っていた。
村人たちの間には、もはやこれまでかという絶望の色が濃く広がり、フィリアもまた、一瞬、血の気が引くのを感じた。
しかし、彼女の青い瞳の奥に宿る、諦めを知らぬ不屈の光は、まだ消えてはいなかった。
(まだ……まだ終わらせない……!)
フィリアは、唇を強く噛み締め、この窮地を打開するための一手を、必死に模索し始めた。
「……来るぞ!総員、戦闘準備!」
レオンハルト辺境伯の鋭い号令が、広場に響き渡った。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、西の森の木々を薙ぎ倒し、おびただしい数の異形の影が、雄叫びを上げながらミモザ村めがけて突進してきた。
それは、まさしく魔物の大群だった。
小鬼のような姿をしたゴブリンの群れ、豚のような顔に巨大な棍棒を振り回すオーク、そして、血走った目で涎を垂らす、狼の姿をした凶暴な魔獣、森狼(フォレストウルフ)。
それらが、土煙を上げ、地軸を揺るがすほどの勢いで迫ってくる。
「ひぃぃぃっ!ま、魔物だぁーっ!」
「助けてくれぇ!」
村人たちは、その恐ろしい光景を目の当たりにし、一瞬にしてパニックに陥った。
恐怖に叫び声をあげて逃げ惑う者、その場に座り込んで泣き出す子供、なすすべもなく立ち尽くす老人。
平和な村が一転して、阿鼻叫喚の地獄絵図と化そうとしていた。
しかし、その混乱の最中、レオンハルト辺境伯は微塵も動じることなく、冷静沈着に指揮を執った。
「狼狽えるな!騎士たちは私に続け!村の入り口で防衛線を張る!女子供、老人たちは村の中央の集会所へ避難しろ!男たちは、鍬でも棍棒でも何でも良い、武器になるものを手に取り、女子供を守れ!」
自ら長剣を抜き放ち、黒馬に跨った辺境伯は、わずか数騎の供回りの騎士たちと共に、村の入り口へと駆け出した。
その背中には、絶望的な状況にも屈しない、絶対的な指導者としての威厳と覚悟がみなぎっていた。
「グリューネヴァルトの騎士たる者、民を見捨てて死ぬことは許さん!一人でも多くの命を救い、そして、生き延びるのだ!」
辺境伯の檄が、恐怖に打ち震える騎士たちの心を奮い立たせる。
彼らは雄叫びを上げ、主君に続いて魔物の群れへと斬り込んでいった。
フィリアもまた、この未曾有の危機を前に、ただ傍観しているわけにはいかなかった。
彼女の心の中では、かつて王宮で叩き込まれた、王族としての責務、民を守り、導くという教えが、鮮やかに蘇っていた。
「マーサさん、皆さん、落ち着いてください!私が誘導しますから、子供たちとご老人を連れて、集会所へ!」
フィリアは、恐怖で顔を引きつらせるマーサや村の女性たちに、毅然とした声で呼びかけた。
その声には、不思議なほどの落ち着きと力強さが宿っており、パニックに陥っていた人々を少しだけ我に返らせた。
フィリアは、まず泣き叫ぶ子供たちを抱きかかえ、老人たちの手を引きながら、村の中央にある石造りの頑丈な集会所へと避難を開始した。
その途中、逃げ遅れた村の若者が、オークの棍棒の一撃を受けて倒れ、足を血に染めているのを発見する。
「しっかりして!」
フィリアは即座に駆け寄り、自分の着ていたワンピースの裾を躊躇なく引き裂くと、慣れた手つきで若者の傷口を強く縛り、止血を施した。
その的確で迅速な応急手当は、かつて王宮で負傷した兵士の手当てを見学し、書物で医療の知識を学んでいた経験が生かされたものだった。
「ありがとう……フィリア……さん……」
若者は、痛みに顔を歪めながらも、フィリアに感謝の言葉を述べた。
フィリアは、彼を他の村人に託すと、再び避難誘導に戻った。
そして、集会所へ人々を誘導しながらも、彼女の頭脳は目まぐるしく回転していた。
(このままでは、いくら辺境伯様たちが強くても、数の力で押し切られてしまう……何か、何か手はないの……?)
王宮の書庫で読んだ、古代の戦術書の一節。
森の中で行われた、少数部隊が多数の敵を打ち破ったという戦いの記録。
その中に、地形を利用した罠や、敵の混乱を誘う陽動作戦についての記述があったことを、フィリアは思い出した。
「そうだわ……!」
フィリアは、避難がある程度完了したのを見届けると、集会所の入り口を守っていた数人の若い村の男たちに声をかけた。
「皆さん、ただ隠れているだけでは、いずれ魔物の餌食になるだけです!私に考えがあります。少し危険かもしれませんが、村を守るために、力を貸していただけませんか!」
彼女の真剣な眼差しと、その言葉に込められた強い意志に、若い男たちはゴクリと唾を飲み込み、そして、力強く頷いた。
フィリアは、彼らに村の周辺の地形を利用した簡易的な落とし穴の作り方や、油を染み込ませた布を松明にして、魔物の注意を引きつける陽動部隊の役割などを、手早く指示した。
それは、付け焼き刃の戦術かもしれない。
しかし、何もしないよりは万倍もましだった。
一方、村の入り口では、レオンハルト辺境伯と騎士たちが、獅子奮迅の戦いを繰り広げていた。
辺境伯の振るう長剣は、閃光のように煌めき、次々と襲い来るゴブリンやオークを薙ぎ払っていく。
その剣技は、まさに達人の域に達しており、一騎当千の勇ましさだった。
騎士たちもまた、主君の武勇に鼓舞され、死力を尽くして戦っていた。
しかし、魔物の数はあまりにも多く、その勢いは一向に衰える気配がない。
ゴブリンの鋭い爪が騎士の鎧を裂き、オークの棍棒が盾を砕く。
負傷者が一人、また一人と増えていき、防衛線は徐々に後退を余儀なくされていた。
「ぐっ……まだ来るか……!」
レオンハルト辺境伯も、肩で荒い息をつき、その額には脂汗が滲んでいた。
その時、一体の巨大な森狼が、騎士の一人を突き飛ばし、防衛線を突破して村の中へと侵入してきた。
その牙は、避難の列の最後尾にいた、小さな子供へと狙いを定める。
「危ないっ!」
フィリアが叫んだ瞬間、レオンハルト辺境伯は、まるで黒い疾風のようにその子供の前へと躍り出て、身を挺して森狼の鋭い牙を受け止めた。
ゴリッという鈍い音と共に、辺境伯の左肩の鎧が砕け散り、鮮血がほとばしる。
「辺境伯様っ!」
騎士たちの悲痛な叫び声が響いた。
レオンハルトは、激痛に顔を歪めながらも、怯むことなく森狼の首を一閃のもとに斬り落としたが、深手を負った左腕からは力が抜け、長剣が手から滑り落ちそうになる。
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「おのれ……!」
騎士たちが駆けつけようとするが、他の魔物たちに阻まれ、間に合わない。
ミモザ村は、今まさに魔物の蹂躙される寸前の、絶体絶命の危機に陥っていた。
村人たちの間には、もはやこれまでかという絶望の色が濃く広がり、フィリアもまた、一瞬、血の気が引くのを感じた。
しかし、彼女の青い瞳の奥に宿る、諦めを知らぬ不屈の光は、まだ消えてはいなかった。
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