幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第46話 本気で殺される瞬間

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 さきほどまでのふざけた雰囲気を感じさせない彼女の様子に、私は今度こそ「ガウェインが殺される」と本気で感じた。
 私の心臓がドクンとなる音が静寂に響く。
 疲れ切って私の足元で転がるワタアメも「もきゅ……」と弱く鳴くのみで、もはや私たちに為すすべはなかった。

「さあ、この男を殺したらメルヴィナちゃんはどんないい声で鳴くのかしら!!いやん、ちょっと考えたら興奮してきちゃったね」

 ガウェインの傍にまで歩いてきたウサギは、邪神教という言葉がこれほどまで似合う瞬間はないほどの邪悪な笑みを浮かべる。
 悪という言葉が良く似合う姿で、何やら高速で詠唱して「氷の剣」を右手に作り始めるウサギ。
 そして彼女は、ピキピキと空気中の水分を凍てつかせる音を立ててツララのような武器を完成させる。
 一瞬チラリと私の方を見てニコリと笑い、ウサギはガウェインに鋭い氷を振りかざそうとした。

「それじゃあ、死のうね」

 その様子を見た私とワタアメは「あ、ガウェインが死ぬ」と妙に冷静にその様子を眺める。
 氷の剣はだんだんと弧を描いてガウェインの首筋をめがけて振り下ろされていく。
 ゆっくりと動く世界の中、スローテンポでドクンと心臓が高鳴るのを感じた。



「……ククク、メルヴィナちゃん……あの子が憎い?あなたの騎士を殺そうとするウサギが憎い?」


 
 私は聞き覚えのない声に、ゾクリと心臓を鷲掴みされるような錯覚を覚える。
 それに加えて、視界はフルカラーから白と黒の二色の世界へと変わった。
 時が流れるのが遅くなった世界などではなく、完全に時間が止まった状態である。
 ガウェインもウサギもワタアメも動くことはなく、白黒の木の葉一枚動くことはない世界だった。

「私の力を貸してあげてもいいのよ……?」

 またしても聞こえてきた声に、私は幻聴でなかったと気づく。
 その声は、目の前のウサギなど可愛く思えるほどに邪悪な悪魔の囁きであった。
 この声は何なのか、なぜ世界が白黒に見えるのか、分からないことだらけである。
 だが、なんとなくだが声の主は私の「体の中」にいるのではないかと感じた。
 以前に私が謁見の間で「魔力」を暴走させたときと同じ高揚感を体内に感じるのである。

「あなた……もしかして……」

 私は体内にいるかもしれない何者かに声をかける。
 あくまでも予想に過ぎないのだが、もしかしたら声の主はとんでもない生き物かもしれないと私は思った。
 いや、この状況で私に力を貸してくれる存在など思い当たる奴は一人しかいない。
 
「ご名答よメルヴィナちゃん!」

 私の声に対して嬉しそうに答えるのは、若い女の鈴のように奇麗な声であった。
 しかし、美しい声とは裏腹に彼女の魔力は恐ろしく凶悪なものである。
 そんな邪悪な生き物が私の体内にいるわけだが、そいつの正体はおそらく私の想像通りの存在であるに違いない。
 現に私の思考を読み取った彼女は、私の予想に対して「正解」と答えているのだ。

「そうよ、私はアルテミシア。太古の昔に滅ぼされたはずの魔女よ」

 やはりこの美しい声の主は、古に生きた恐怖の魔女「アルテミシア」のものであった。
 アルテミシアとは、現代では「魔力過多症」として一部の有識者に知られている。
 つまり、病気の一種として扱われているのだが、その由来となった凶悪な魔女がここで言う「アルテミシア」なのだ。
 
「私の魔力を封じ込めているこの「制御魔法陣」を緩めてくれるだけでいいのよ」

 どうやら、アルテミシアが今まで私の中でおとなしくしていたのにも理由があったようである。
 かつて私が誕生した際に王国一の医師であるゲンジが、死に際の私に施した「制御魔法陣」によって押さえつけられていたというわけだ。
 
「そんなことできるのかしら……?」

 彼女の提案は、どう考えてもアルテミシアが私の身体を乗っ取るための「罠」であると分かる。
 しかし、このままでは無駄死にしてしまうことは確定であった。
 せめてガウェインとワタアメの命だけでも救いたいと思った私は、アルテミシアの提案に乗ることに決める。
 
「メルヴィナちゃんもさっき「私の魔力」を使おうとしたでしょう?その要領で魔力の限界を制御している部分をぶっ壊しちゃえばいいのよ」

 簡単に言うと「制御魔方陣」をぶっ壊せという話であった。
 ただ、アルテミシアが言うには「成長」をつかさどる部分の術式を壊すと、私の命に影響が出るという。
 なので、うまいこと「魔力量」の制御部分だけを壊すらしい。
 私が体内の魔力を感じて、アルテミシアに命ずるだけで「意識」を彼女に預けることができるという。

「ただ、それって一時的とは言え「乗っ取り」になるわけよね?」

 そうなのだ。
 それをやってしまうと、私が私として意識を取り戻す保証などないのである。
 しかも、意識を預ける相手は「アルテミシア」であり、数千年と復活を待ちわびた古の魔女なのだ。
 私の問いかけに対して「大丈夫よ、私を信じて」と全く信用ならないことを言うアルテミシア。

 まあ、彼女の申し出を断っても待っているのは「全滅」なので、私に選択権など初めから無いのであった。
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