幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第69話 魔王妃の修行

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 結論から行くと人狼たちは「完敗」であった。
 組手に勝敗があるのかと聞かれると怪しいのだが、これは誰の目に見ても明らかに部下たちの「負け」である。
 大戦期の魔物達の圧倒的暴力による一瞬の出来事だった。
 以前見たシグマとニャルラによる道中の雑魚狩りよりも遥かに一方的な試合である。

「二人の動きを目で追うのがやっとだったわ……」

 私の漏らした感想に足元に佇むワタアメが「もきゅ……」と反応するのだった。

 地獄のような組手が終わった後、息も絶え絶えな人狼たちを医師のラティスが処置していく。
 自分で攻撃しておきながらも、傷ついた人狼の治療をするとはなんという「マッチポンプ」だろうと私は密かに思うのだった。
 一方のオーキンスも人狼たちに戦闘中の動きについてあれこれと指導をしている。
 巨体でガサツそうな見た目ではあるが、彼も思いのほか理路整然とした説明をしていた。

「オーキンスもあれでいて意外と教えるのはうまいのよね……」
 
 私はつるつるとした自らの可愛い顎を撫でながら、感心したように独り言つ。
 隣に立つロキも「一応料理長ですし、後輩の指導も仕事の内ですからねえ……」と倒れている部下たちの方を渋い顔で見ながら答える。
 部下たちの普段の訓練の様子も、ラティス達の実力もどちらもよく知っているロキの心境は複雑だろう。
 まあ、規格外の化け物たちのバトルに巻き込まれた部下の人狼たちが一番悲しそうな顔をしているのだが。
 
「次は師匠もやりますか?」

 人狼たちにアドバイスを終えたオーキンスがこちらを振り返りいい笑顔をしている。
 私はそんな彼に対して高速で首を横に振るのだった。
 こんなところでまだ死ぬわけにはいかない。

----

 激しい組手によって空中に舞っていた砂がだんだんと落ち着いていく。
 空気も澄んで倒れた人狼たちの体力も回復してきたころ、私はラティスとオーキンスが見守る中でロキから指導を受けていた。

「姫さんの訓練は主に2つ任されてます」

 顔の前でピースサインをするロキが私に説明する。
 彼の話によると、魔王から私に課せられたトレーニングは「近接戦闘」と「魔力操作」の2点であるらしい。
 それを聞いた私は「近接戦闘……」と苦い表情を見せるのだった。
 そんなことを言われると、今さっき目の前で見せられた光景がフラッシュバックしてくる。

「いやいやあんた、それは児童虐待でしょうが冷静に考えて」

 ロキの提案に対してマジの拒絶をする私であったが、横で笑うラティスは「大丈夫大丈夫!」と楽しそうにしている。
 ラティスと並び立つオーキンスも「前魔王妃には俺達も敵わなかったなあ」と遠い空を見つめていた。
 指導教官のロキも「アルテミシアの能力が発揮できれば問題ないはずです」とやる気満々である。

「うそでしょ……?ねえ、うそだよね……?」

 肉弾戦の訓練からは逃れられないのかと絶望的な顔をして肩を落とす私。
 そんな私の様子を見たロキは「姫さん、さすがにいきなり組手はやらないので安心してください」と青い顔の私をフォローするのだった。


----


 その後もしばらく困惑していた私が正気に戻ったのは、部下の人狼たちが完全に復活した頃であった。
 なんだかんだ理由を付けて逃げ出そうと思っていた私であったが「頑張って魔王様のお力になりましょうよ~姫さん~」という半ば諦めかけのロキの言葉によって我に返ったのである。
 
「……そうよね、魔王やアドルたちのためにも私が頑張らないと」

 ようやく俯いたままの顔を上げて、私はロキに説明の続きを求めるのだった。

 ロキの説明によると近接戦闘の訓練では「歩行術」と「体力トレーニング」を行うということであった。
 歩行術は以前にガウェインがシグマから教わっていたやつである。
 グレイナル山脈を越える際に道中でトレーニングを重ねていたやつだ。
 たしか、あの時のシグマの説明では「戦争のように長期的で広域的な戦い」で役に立つパッシブスキルのようなものだったはずである。
 つまり、簡単に言えば「疲れないための身のこなし方」というわけだ。

「でも、それって今の魔王軍では教えてないくらい高度な技なんじゃなかったかしら?」

 私は足元でおとなしくしているワタアメを拾いあげながら、ロキに疑問を投げかけるのだった。
 昔の大戦期には多くの魔物が身に着けていたという歩行術を今の魔物達が使えないことにはそれなりの理由があるはずである。
 長期間の調査活動があまりない現在でも、使えた方が便利なことは言うまでもない。
 
「ええ、ですがそれにも理由があるんですよ」

 頭をかきながら少し目線を横にやりながら渋い表情で答えるロキ。
 ひとまずその理由を聞かなければなるまいと彼の言葉を待つ私であったが、帰ってきた言葉は意外なものであった。

「悲しいことに、魔王軍の魔物たちは『ココ』があまりよろしくなくてですね……」

 自分の頭を指差しながら、魔王妃である私に申し訳なさそうに言うロキ。
 以前書庫でアドルが見せた表情によく似たものを見た私は「あっ……」とすべてを察するのだった。
 
 

 
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