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第70話 ビリビリ粒々
しおりを挟むロキの口から「魔王軍の頭の悪さ」というワードが出てきた時に、私は何となく理由を察したのであった。
おそらく「歩行術」とは論理的な動作の積み重ねによって効力を発揮する類の技なのだろう。
なので、一つ一つの動作がもたらす意味を良く把握しておかないとあまり効果がないはずである。
「つまり、私の知能を持ってすれば決して難しくはないってことかしら?」
私はロキの言う理由とやらを推測して返答する。
対するロキは「ご明察」と軽くほほ笑むのだった。
ロキによると、歩行術の訓練には少し準備が必要らしくラティスとオーキンスが打ち合わせを始める。
既に歩行術をマスターしているという「人狼隊」のメンバー達は、訓練の準備と聞いてキョトンとしていた。
私はそんな彼らの様子を見て「あれ?なんかいつもとやり方が違うの?」と不思議に思っていると、ラティス達の話し合いが終わったらしい。
こちらに向き直ったラティスとオーキンスは手のひらに「光る粒」のようなものを載せている。
「姫さん、料理長達の持ってる「魔力粒」を俺が今から言う部位に着けてください」
ロキから指示を受けた私は恐る恐るオーキンス達から「魔力粒」と呼ばれたつぶつぶを受け取る。
そして、頭から足にかけてあらゆる部位に粒を張り付けていった。
過去に読んだことのある人体の本によれば、ロキに指定された部位はどこも重要な場所だと考えられる。
粒が張られたのは心臓などの重要な臓器の周辺、骨と骨を繋ぐ関節や筋肉の起始点と停止点、その他大きな血管が通る場所などであった。
随分昔に読んだ本に書いてあったことなので細かいことはよく覚えていないが、私は何となく彼らの意図を察する。
「もしかして、これは魔力の流れを監視するためのものかしら……?」
私は全身に光る粒が装着されているのを見渡しながら言う。
恐らくこれは生前で言うところの「モーションキャプチャー」用の器具のようなものだろう。
私の予想が正しければ、可視化が難しい魔力の流れを何らかの方法で分かりやすく第三者によって分析するための手段である。
豪華なお菓子のように光る粒まみれになった私を見たワタアメは「もきゅもきゅ!」と楽しそうに跳ねていた。
「さすがだね魔王妃様。でもね、これはそれだけじゃあないんだ」
ニコニコと笑いながら私を褒めるラティスであったが、彼の口ぶり的にこの粒はまだ他にも機能を備えているらしい。
魔力の粒を初めて見るという人狼たちも「いったいどんな効果があるんだ……!?」と緊張の面持ちで私達を見ていた。
一同の緊張が高まる中で、ラティスが「試しに撃ってみるね?」と怪しい発言をする。
それに対してオーキンスが「あまり強くやると逆に疲れるから気を付けろよ」とラティスの背中を叩いていた。
「……んんっ!!……あああぁ!!」
ラティスが指を鳴らすと同時に、突然私の全身に電流が走ったかのような危険な快楽が流れる。
一瞬頭の中が真っ白になるほどの恐ろしい心地よさに、私も見ていた人狼たちも「何が起こった!?」と困惑するのだった。
私や人狼たちに比べて魔力感知が得意なワタアメは何が起こっているのか理解したらしく、その場で興奮気味に跳ねている。
そして、数秒もないわずかな時間が過ぎると私に流れる謎の力は消えていった。
「……はぁ……はぁ……これってもしかして……」
まだ少し体に残る快感の残滓を感じながら肩で息をする私は、ラティス達にこのビリビリの正体を尋ねる。
半笑いでピクピクと体を痙攣させながら涎を垂らしている私の様子を見て、ギョッとしている人狼たちも何が起きたのか気になっているようだった。
ニコニコと笑うラティスは地面に膝をついて、私の口元の涎をハンカチで拭く。
その様子は年の離れたお兄さんと小さな妹といった構図であった。
「これはね、全身のダメージを回復させる魔法だよ」
立ち上がって私の頭を撫でながらそう言うラティス。
何が起こるかは知っていたらしいオーキンスも「師匠は魔力量が多いから、ちょっと凄いことになっていたな……」と驚いている様子であった。
教官であるロキも「本当にこれを連発で使用しても大丈夫なんすか?」と半信半疑でラティスに尋ねている。
なんだか、すごく嫌な予感がしてならない。
「あと、今のは結構弱めに試してみたんだけど……」
少し申し訳なさそうに言うラティスから、あのビリビリに悪意はなかったことが感じられた。
だが、気になるのはロキが言っていた「連発」という言葉である。
そもそも、短期間で隊長格並とは言わないが「そこそこに強くなれる」なんていう怪しい話なのだ。
絶対に何かしらのトリックがあるはずなのである。
「まあ、威力を調節しながら使っていくから大丈夫だよ」
屈託のない笑顔で私達に「大丈夫」と言うラティス。
「回復」と「連発」というワードで何をさせられるのか私はだいたい予想できた。
「全然大丈夫じゃないわよ……」
私はこれから始まるであろう「天国と地獄のような訓練」を予期して意気消沈するのであった。
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