乙女ゲームに転生し悪役令嬢と婚約したが婚約者が可愛すぎる件

来栖さや

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あき、おはようございます」

「おはよう、楓。その制服もすごく似合ってる」

「もう……。暁はいつもそう言うんですから」

「仕方ないだろ。楓が可愛いからなに着ても似合うんだよ。ああでも、中等部の制服の時よりも高等部の制服の方が大人っぽい感じがする」


そう、俺たちは今15歳。そして今日は七扇学園高等部の入学式だ。ついにあの乙女ゲームのい舞台へと足を踏み入れなければならないのだ。それもあり、俺は前日から緊張状態……。などということはあるはずもなく、愛しい婚約者である楓との高校生活を心待ちにしていた。

楓はゲームで見たようなフワッとした黒髪に子どもの頃よりも暖かく感じられるラベンダーの瞳という大変可愛らしく成長した。勿論、背は俺の方が高い。


「暁も、すごく似合っています」

「惚れ直した?」


冗談まじりに聞いてみると、楓は顔を背けた。


「冗談はやめてください」


楓が冷たく突き放してくる。こういうところはゲームの悪役令嬢と少し似ているかもしれない。
まぁ、これは楓の照れ隠しなんだが。顔が赤くなっているし。


「はぁ、朝から見せつけないでくれないかな暁人。楓もこんな奴の婚約者だなんて大変だよね」


俺と楓の時間をぶち壊したのは、初等部の頃からの付き合いにもなる瀬戸口杏里せとぐちあんりだった。コイツも攻略対象者の一人で男のくせに女みたいに可愛い顔をしている。楓との時間を邪魔してくる奴だが、数少ない信頼できる友人だ。まぁ、笑顔で毒を吐いてくるような奴ではあるが。


「おはようございます、杏里さん。そういうところも含めて私は暁のことが好きですから。それにしても、今日は一人なんですね」


楓の言葉に、杏里はあからさまに顔をしかめる。まぁ、わからなくもないが。
正直それよりも、さらっと口にしたことの方が気になる。まぁ、それを追求すると楓は逃げるのだろうが。だがやはり、楓に好きといってもらえるのはかなり嬉しい。


「ちょっと、楓。姉さんと僕をセット扱いしないでくれる?姉さんには僕も困ってるんだからさ。ちなみに、今日は僕たちの入学式のための準備で早くからきているはずだよ。まぁ、あれでも生徒会長だしね」


杏里は先ほどの楓の一部の発言を聞き流すことにしたようだ。
杏里と杏里の姉、麗華さんは1歳違いの姉弟で、麗華さんは杏里をかなり可愛がっている。まぁ、いわゆるブラコンというやつなのだろう。杏里は迷惑そうにしてはいるが案外シスコンだ。


「あ、でも姉さんに暁人が代表挨拶をするって言ったらすごく張り切っちゃってさ。本当は代表挨拶の後に生徒会長の挨拶だったのに、順番逆にしてたんだよね。楽しみだね、暁人!」


満面の笑みで同意を求めてくる杏里に俺は顔を引きつらせた。俺は、麗華さんに気に入られている。それはもう、嫌になるくらいのレベルで。何故ってそれは麗華さんの可愛がり方に問題があるからだ。

例えば今回の件。これは多分、麗華さんの善意だ。あぁ、きっと自分の挨拶も替えて俺にプレッシャーをかけてくるんだろう。少なくとも、中等部ではそうだった。これが悪意であったのならばまだ良かった。怒ることができるのだから。それに、喧嘩を買えばいいだけなのだから。だが、麗華さんは違う。完全なる善意だ。そう、少しでも俺が目立つように、という要らない善意だ。だからこそ、やりにくい。


「嘘だろ……。勘弁してくれ!なんで言いやがった、杏里!」

「あ、暁……」


楓が俺の制服の袖を引っ張った。可愛いが、今はそれよりも杏里だ。麗華さんに言われれば、どうなるかなんて簡単に予想がつく。最悪の方向で。


「お前、麗華さんにだけは言うなって言っただろうが!」

「ふーん?」


近くで声が聞こえた。クリアでよく響く、麗華さんの声が。


「あ、姉さん。もう仕事はいいの?」

「杏里!うんうん、もう大丈夫だよ!ごめんね、せっかくの入学式に一緒に登校してあげられなくて」


麗華さんの声のトーンが一気に明るくなった。恐るべし杏里。いや、ここは恐るべしブラコン、が正しいのか?


「別にいいってば、姉さん。それより、ほら。暁人に話があったんじゃないの?」

「あぁ、そうだった。ちょっと待っててね杏里。それで、暁人くん?代表挨拶の件、私に言ってくれなかった理由、勿論教えてくれるわよね」


麗華さんの笑顔が怖かった。変な汗が吹き出してきたんだが。麗華さんの圧、前よりもひどくなってる気がするのは俺だけだろうか。


「暁人くん?」


さらに麗華さんの笑顔が深くなった。嫌な汗が流れる。経験上言えるのはこれだけだ。今の麗華さんには絶対、逆らってはいけない。これ以上酷くなる前にさっさと言った方がいい。


「……麗華さんを驚かせたかったし、遅くなっても俺から言いたかったんだ。入試の時、勉強見てくれたし」


エスカレーター式の学校だとはいえ、入試は当然ある。多少、外部受験より進みやすくはなるが。その勉強を麗華さんが見てくれたのだ。それには感謝している。


「……そう、なら仕方ないわね。でも、それなら合格の報告をしてくれた時に教えてくれれば良かったじゃない」


それはそうなんだが。まさか言えるわけもない。本当は、麗華さんが変なプレッシャーをかけてくるからいえませんでした、だなんて。


「暁人、一番に報告するのは楓にって決めてたから仕方ないって姉さん。その後は会う機会もなかったし。暁人のことだから言う時は直接会って、とかって決めてたんじゃない?」


杏里が助けてくれた。まぁ、一番に報告するのは楓に、ってのは当然だが。
……なにはともあれ、持つべきものは友人だ。元はと言えば、杏里が麗華さんに教えたことが悪いのだが。


「もういいわよ。けど、次からはちゃんと言いなさいよ。あと、生徒会に入ること。いいわね?」

「えっ……。れ、麗華さんそれはちょっと。楓との時間が減るので」


さらっと生徒会に入れようとしたぞ、この人。そんな軽くていいのか。
当然断るが。そんな、楓との時間を潰されるようなことを誰が好き好んでするものか。


「楓ちゃんも一緒にどう?特典は、そうね。生徒会の役員なら昼食時に生徒会室を使ってくれて構わないわ。生徒会室なら中等部の頃につきまとっていた子たちは入れないから静かに過ごせるわよ」


それはなんとも魅力的な……。だが、楓も生徒会の役員に巻き込むことを考えるとやはり悩む。


「暁、入りませんか?」

「楓はいいのか?生徒会の役員になると放課後とかにあまり時間取れなくなるだろ?」

「私は暁といられるだけで十分ですから」


可愛すぎかよおい。なんだこの天使。俺の婚約者は世界一可愛い。


「じゃあ、決まりね」

「あれ、姉さん僕は?」

「杏里はもう登録が終わっているから安心していいわよ。私が杏里を一人にするなんてあるはずがないじゃない」

「あ、うん。そうだよね……。姉さんだもんね。はぁ、また僕は知らないうちに生徒会に入ってるんだ……」


杏里の疲労感満載の表情を見て、俺は哀れみの目を向けた。

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