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しおりを挟む「さあ、暁人くんは私と一緒に舞台裏に行くとして……。二人は体育館の場所はわかるかしら?」
「楓、大丈夫か?もし何かあれば杏里を盾にしてでも逃げろよ」
「体育館の場所なら大丈夫。盾にはならないけど、楓は僕に任せて暁人は挨拶のこと考えたら?」
「暁は心配し過ぎです。私は大丈夫ですから。暁の挨拶、ちゃんと見てますね」
俺の心配は当たり前だと思う。それくらい楓は可愛い。ただでさえ容姿が整いすぎているというのに、表情がコロコロ変わるしその柔らかい雰囲気も男を惹きつける。本人がそれを自覚していないのが余計にタチが悪い。
「杏里はお姉ちゃんに何もないのかしら?」
麗華さんが杏里に何かを期待するような目で問いかけた。それに対し、杏里は顔をしかめ、麗華さんから視線を逸らす。
「別に、姉さんなら言う必要なんてないでしょ。そういうところは信用してるし」
「ああ、もう可愛いわね!ふふ、聞いた?信用してるですって!」
麗華さんが上機嫌で怖い。そんな麗華さんを放置して、杏里は楓を連れ体育館へと行ってしまった。いや、正直この状態の麗華さんと二人きりにはされたくないんだが。
「いた!麗華!いくら弟さんが入学したからって早々に仕事を放り出していくのはやめてください!しかも、挨拶の順番を変えるだなんて……」
体育館とは反対の方から走ってきたのは赤いネクタイのメガネをかけた男の先輩だった。制服のリボンやネクタイは学年ごとに分かれていて、今年の一年が紺、二年が赤、三年が濃い緑となっているので先輩は二年なのだろう。
「司、私はなにも杏里に会うためだけにきたわけじゃないわよ?杏里のところへ行けば、ついでに暁人くんにも会えると思ったのよ。予想通り、暁人くんは捕まえられたし、丁度戻ろうと思っていたの」
俺はついでらしい。それは良いとして、捕まえたってなんだ。確かに、麗華さんが来なければ楓と体育館へ行こうとしていたが。俺の扱いが、というよりも杏里以外の扱いが雑すぎはしないだろうかこの人。
「ってことは、その一年生が主席の天宮暁人くん?」
「一年一組の天宮暁人です。よろしくお願いします、先輩」
外面の笑顔を貼り付け挨拶すると先輩は興味深そうに俺を見た。
「二年三組の水城司です。君とは同じ苦労人同士、仲良くできそうですね」
疲れ果てた表情を見せる水城先輩に、思わず麗華さんを見た。苦労人にされたくないんだが。麗華さんの被害にはあいたくないし、出来る限り緩和剤である杏里と行動した方がいいのかもしれない。
*
俺たちは体育館の舞台裏で待機していると、すぐに麗華さんの挨拶となった。本来ならばもっと後らしいが、麗華さんのわがままでこのタイミングとなったらしい。
麗華さんは流石生徒会長と言いたくなような凛とした姿で登壇した。その姿を見ていると、先程までの周りを振り回す自由奔放な様子が嘘のように思えてくるのだから不思議だ。
しかも、さりげなく俺へのプレッシャーをかけ、ハードルを上げてくるという嫌がらせまで自然にやってのけている。本気でやめてもらいたい。
麗華さんが挨拶を終え、戻ってくるといつもの麗華さんに戻っていた。
「さ、次は暁人くんの挨拶ね。新入生代表として、素晴らしい挨拶をしてくれると期待せて聞いているわ」
「そうやってプレッシャーかけてくるのやめてもらいたいんですが……。まぁ、楓にいいところを見せられるように善処しますが」
「はぁ、本当暁人くんは楓ちゃん一筋よねぇ」
どこか呆れたような麗華さんを無視して俺は一歩踏み出した。舞台裏とは違い、壇上はかなり眩しい。目が悪くなりそうだ、などと思いつつも外面の笑顔を貼り付け、背筋を伸ばす。女子生徒からの視線が痛いのは気のせいだと思いたい。
中央までくると、今度は見渡すふりをして楓の姿を探す。楓は左の中央辺りにいた。その姿に自然と笑みが零れる。
楓が可愛い。天使すぎる。中学の時よりもずっと大人っぽくなり、綺麗になった楓は周囲の男どもの視線を集めていてとても目立つ。だから、心配だったのだ、などと思いつつも笑顔で新入生代表の挨拶を終えた。
「暁人くん、お疲れ様。完璧な挨拶だったわよ。本人は楓ちゃんに見惚れていたようだけれども?」
「楓は可愛いですから。それに、あれだけ目立っていれば自然と視線も行きます。可愛いですから」
「可愛いって二回言ったわね……」
「本当のことですから」
麗華さんがうんざりしたような表情を見せるが楓が可愛いのは本当なので仕方ない。ってか、やっぱりわざとハードル上げてたのかこの人。
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