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第3章 幼女、王都へ行く
幼女、帰路につく
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「それじゃあ気をつけてね。また会えるのを楽しみにしてるわ」
「うん。元気でね、シエル」
「ミリアもね」
王都滞在の最終日。
私はシエルと別れのハグをして、ラーオンへ向かう馬車へと乗り込んだ。
といっても、王都へはそのうちすぐに来ることになるだろうね。
ニノの遺した手記は、学者たちにとって大きな研究の1つだった。
その謎が解けたからには、彼らの研究時間を無駄にしないよう、事実を正式な形で発表する必要がある。
私が死に際に痛感したことだけど、研究を生業にする者にとって人生はあまりにも短い。
だからこそ、学者たちが他の研究へと移れるように、真実を明かさなければならないのだ。
そしてこれは、私の正体が大っぴらになることも意味する。
もちろん、それっぽい話を作って偽の事実を伝えることもできるけど、私の研究者のプライドにかけてそんなことは出来なかった。
シエルが資料と報告書をまとめて提出したことで、図書館及び学院の学者たちの間で大騒ぎになっているらしい。
そのうち、私にも関係各所からお呼びがかかるだろうとのことだった。
しかし、資料の精査や学者同士での会議など時間がかかるため、一旦はラーオンに帰ることにしたのだ。
今の私は冒険者協会ラーオン支部所属の冒険者だしね。
「何だか思ってた旅行とは違ったなぁ」
イリナが口を尖らせながら、それでも楽しそうに呟く。
私もリリスも、本当だよねと笑った。
元はといえばイリナは休暇、私たちは図書館で本を読んで死んでいた間のことを知ろうくらいの軽い感じだったのに、謎解きからの戦闘からの転生の真実という詰め込みまくりの旅になってしまった。
王都の美味しいものも食べきれていない。
かろうじて、友人へのお土産は買うことが出来たけど。
「ラーオンに帰ったらゆっくり休もうっと」
そう言いながら、イリナは目を閉じて座席にぐったりともたれかかる。
考えてみれば、イリナとリリスは手記を取りに行ったから私より倍の距離移動してるんだよね。
おまけにしっかり戦闘もしたし、そりゃ疲れるよ。
私たちを連れてこなければ、イリナは普通にのんびりと旅行を楽しめたかもしれない。
でも私は、イリナが誘ってくれなければ助手たちからのメッセージに触れることが出来なかった。
このお礼は、また改めてちゃんとしないと。
「ミリア、王都に帰ったら何する?」
イリナを起こさないよう、小さな声でリリスが尋ねてきた。
私は少し考えてから答える。
「んー、まずはちょっと休む。それから行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所?」
「うん。むしろ行かなきゃいけない場所って感じかな」
「どこ?」
「孤児院だよ」
「孤児院?」
「そう。記憶を取り戻すまでの間、私が暮らしていた場所。優しいお母さんが2人いて、友達もいる。みんな血は繋がってなくても本当の家族みたいなんだ。でも私、記憶が戻って混乱している状態のままに飛び出してきちゃったから、ちゃんと別れが言えてないの」
リスターニャのことは、小さな子供でも大半が知っている。
私がその生まれ変わりだと知れば、子供ながらに見る目が変わってしまうかもしれない。
正式に発表され広まる前に、もう一度会って、子供と子供として遊びたいのだ。
2人のお母さんにも、元気だよという報告と感謝を伝えたい。
「そっか。それはちゃんと言わないとね」
「うん。何か手土産も持って行かないと」
何がいいだろう。
6歳の幼女が現金を包んでっていうのもアレだしな。
おもちゃとか絵本とか……街のお菓子なんかもいいかもしれない。
まあ、ゆっくりと考えることにしよう。
「血は繋がってなくても家族かぁ。いいなぁ」
リリスが感慨深げに呟く。
そういえば彼女の前世、アレイアがダークエルフになったきっかけは実の兄だった。
少し寂しそうなリリスの肩を、私はそっと優しく抱き寄せる。
「私たち、親友だしもう姉妹みたいなものでしょ?」
「ふふっ。そうだね。ミリアお姉ちゃん」
「え?私が姉?年齢的にはリリスの方が……」
「ふふふ。何か言った?」
怖い怖い。
笑顔が怖いよ、リリス。
「これからも姉妹仲良く、だね」
「うん。お姉ちゃん」
私とリリスは手を繋いで、おでこをこつんと合わせる。
何とも言えない幸せな気持ち……
「お客さん!盗賊です!」
御者の声が響く。
えー。今めっちゃいいところだったのに。
盗賊ってのは空気が読めないもんだね。
「え?あ?寝てらっしゃる?お客さん!お客さん!」
唯一戦力になりそうなイリナが爆睡しているのを見て、御者が猛烈に焦り始める。
仕方ない。いっちょやったりますか。
「行ける?」
「もっちろん」
リリスと笑顔で頷き合い、停止した馬車から降りて御者席の左右に立つ。
進行方向には道を塞ぐ4人の盗賊。
「お……お客さん?」
戸惑う御者に、私たちは両隣から笑いかけた。
「「安心して!」」
盗賊たちは余裕の表情をしている。
そりゃ、相手が幼女2人じゃ油断するよね。
でもその油断が命取り。
数秒後、盗賊たちは気を失って地面に転がっていた。
「これは……」
唖然とする御者に私たちはVサインで応える。
「「一応、冒険者なので!」」
一応、前世大賢者のつよかわ幼女なので。
一応、前世ダークエルフの長のつよかわ幼女なので。
一応、私たちは最強のつよかわ姉妹なので。
……やっぱ年齢的にリリスが姉だと思うんだけどなぁ。
あの笑顔が怖いからもう言わないけど。
※第3章これにて完結です!
ここまで付き合ってくださりありがとうございました!
引き続きこの作品をよろしくお願いします!
「うん。元気でね、シエル」
「ミリアもね」
王都滞在の最終日。
私はシエルと別れのハグをして、ラーオンへ向かう馬車へと乗り込んだ。
といっても、王都へはそのうちすぐに来ることになるだろうね。
ニノの遺した手記は、学者たちにとって大きな研究の1つだった。
その謎が解けたからには、彼らの研究時間を無駄にしないよう、事実を正式な形で発表する必要がある。
私が死に際に痛感したことだけど、研究を生業にする者にとって人生はあまりにも短い。
だからこそ、学者たちが他の研究へと移れるように、真実を明かさなければならないのだ。
そしてこれは、私の正体が大っぴらになることも意味する。
もちろん、それっぽい話を作って偽の事実を伝えることもできるけど、私の研究者のプライドにかけてそんなことは出来なかった。
シエルが資料と報告書をまとめて提出したことで、図書館及び学院の学者たちの間で大騒ぎになっているらしい。
そのうち、私にも関係各所からお呼びがかかるだろうとのことだった。
しかし、資料の精査や学者同士での会議など時間がかかるため、一旦はラーオンに帰ることにしたのだ。
今の私は冒険者協会ラーオン支部所属の冒険者だしね。
「何だか思ってた旅行とは違ったなぁ」
イリナが口を尖らせながら、それでも楽しそうに呟く。
私もリリスも、本当だよねと笑った。
元はといえばイリナは休暇、私たちは図書館で本を読んで死んでいた間のことを知ろうくらいの軽い感じだったのに、謎解きからの戦闘からの転生の真実という詰め込みまくりの旅になってしまった。
王都の美味しいものも食べきれていない。
かろうじて、友人へのお土産は買うことが出来たけど。
「ラーオンに帰ったらゆっくり休もうっと」
そう言いながら、イリナは目を閉じて座席にぐったりともたれかかる。
考えてみれば、イリナとリリスは手記を取りに行ったから私より倍の距離移動してるんだよね。
おまけにしっかり戦闘もしたし、そりゃ疲れるよ。
私たちを連れてこなければ、イリナは普通にのんびりと旅行を楽しめたかもしれない。
でも私は、イリナが誘ってくれなければ助手たちからのメッセージに触れることが出来なかった。
このお礼は、また改めてちゃんとしないと。
「ミリア、王都に帰ったら何する?」
イリナを起こさないよう、小さな声でリリスが尋ねてきた。
私は少し考えてから答える。
「んー、まずはちょっと休む。それから行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所?」
「うん。むしろ行かなきゃいけない場所って感じかな」
「どこ?」
「孤児院だよ」
「孤児院?」
「そう。記憶を取り戻すまでの間、私が暮らしていた場所。優しいお母さんが2人いて、友達もいる。みんな血は繋がってなくても本当の家族みたいなんだ。でも私、記憶が戻って混乱している状態のままに飛び出してきちゃったから、ちゃんと別れが言えてないの」
リスターニャのことは、小さな子供でも大半が知っている。
私がその生まれ変わりだと知れば、子供ながらに見る目が変わってしまうかもしれない。
正式に発表され広まる前に、もう一度会って、子供と子供として遊びたいのだ。
2人のお母さんにも、元気だよという報告と感謝を伝えたい。
「そっか。それはちゃんと言わないとね」
「うん。何か手土産も持って行かないと」
何がいいだろう。
6歳の幼女が現金を包んでっていうのもアレだしな。
おもちゃとか絵本とか……街のお菓子なんかもいいかもしれない。
まあ、ゆっくりと考えることにしよう。
「血は繋がってなくても家族かぁ。いいなぁ」
リリスが感慨深げに呟く。
そういえば彼女の前世、アレイアがダークエルフになったきっかけは実の兄だった。
少し寂しそうなリリスの肩を、私はそっと優しく抱き寄せる。
「私たち、親友だしもう姉妹みたいなものでしょ?」
「ふふっ。そうだね。ミリアお姉ちゃん」
「え?私が姉?年齢的にはリリスの方が……」
「ふふふ。何か言った?」
怖い怖い。
笑顔が怖いよ、リリス。
「これからも姉妹仲良く、だね」
「うん。お姉ちゃん」
私とリリスは手を繋いで、おでこをこつんと合わせる。
何とも言えない幸せな気持ち……
「お客さん!盗賊です!」
御者の声が響く。
えー。今めっちゃいいところだったのに。
盗賊ってのは空気が読めないもんだね。
「え?あ?寝てらっしゃる?お客さん!お客さん!」
唯一戦力になりそうなイリナが爆睡しているのを見て、御者が猛烈に焦り始める。
仕方ない。いっちょやったりますか。
「行ける?」
「もっちろん」
リリスと笑顔で頷き合い、停止した馬車から降りて御者席の左右に立つ。
進行方向には道を塞ぐ4人の盗賊。
「お……お客さん?」
戸惑う御者に、私たちは両隣から笑いかけた。
「「安心して!」」
盗賊たちは余裕の表情をしている。
そりゃ、相手が幼女2人じゃ油断するよね。
でもその油断が命取り。
数秒後、盗賊たちは気を失って地面に転がっていた。
「これは……」
唖然とする御者に私たちはVサインで応える。
「「一応、冒険者なので!」」
一応、前世大賢者のつよかわ幼女なので。
一応、前世ダークエルフの長のつよかわ幼女なので。
一応、私たちは最強のつよかわ姉妹なので。
……やっぱ年齢的にリリスが姉だと思うんだけどなぁ。
あの笑顔が怖いからもう言わないけど。
※第3章これにて完結です!
ここまで付き合ってくださりありがとうございました!
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