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1章 初級冒険者

第24話 潜む者たち

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何事もなく過ぎてくれるといいなぁとか考えていたこともありましたが、その甲斐あってか特に何も起こることはなく警備の仕事も3日目になりました。
まぁ日常的に行われている夜警の交代要員ですしね、そうそう事件なんて起きるものじゃないよね?
とは言え油断するわけにはいかないので今日も今日とてしっかり警戒しているわけですが。

「それにしても誰も来ないっスねー。」

「そうですね、今日で三日目ですけど僕たち以外の人を一度も見かけていませんね。」

「まぁ、警備や護衛なんて基本的にこんなもんよ。確実に襲われるって分かってるような依頼も......ないことはないがな。」

襲われることが分かっている、警備や護衛......命がけだよね......。
まぁ冒険者は基本命がけの心構えでいるのか......。

「食事にも注意を払わないといけないし、油断どころか気を一瞬たりとも抜けないからな。要人護衛だとターゲットだけを狙う暗殺者もいれば、まずは護衛からってのもいるし、護衛もターゲットも纏めて一気にってのもいるからな......。金額的には結構貰えるが、割に合ってるとは言いづれぇなぁ。」

「なるほど......。よほど自信がなければ受けたくない類の依頼ですね......。」

「守るのは難しいからな......その場では守れてもって事も少なくはない......。」

殺される理由のある人が1回狙われて防がれたらおしまい、なんてありえないだろうし......。
逆に乗り込んで黒幕を捕まえる的な話はよくあるけど......普通無理だよね......。

「依頼を受けるときはよく考えてってことですね......。」

「まぁそうも言ってられないこともあるけどな......特に理由がないなら避けたほうがいい依頼なのは確かだ。」

「依頼料に釣られないように気を付けるっス。」

「護衛や警備ってことならグルフを連れてきたいですね。」

「いや、そりゃあいつがいれば大抵のことは何とかなるだろうが......護衛対象が恐怖で死ぬかもしれんぞ。」

「グルフって誰っスか?」

「ケイのとこの番犬だよ。」

俺が答える前にレギさんがクルストにグルフの事を答える。
いや、番犬ってわけじゃ......いや、今も森で荷物見てもらっているんだからあながち間違ってはないか......。

「番犬って、そんな獰猛なやつなんスか?」

「いや、獰猛ってわけじゃないが......。」

「グルフはいい子ですよ。ちょっと体が大きいから威圧感があるだけです。」

クルストさんにグルフについてちゃんと説明する。
レギさんはグルフに苦手意識があるのかちょっと表情が渋い。
誤解は解けたはずなんだけどな......。

「あれはちょっと体が大きいとか、そんなレベルじゃねぇだろ......。」

「へーおっきい犬っスか!シャルちゃんみたいにちっこいのも可愛いと思うっスけど、デカいのも好きっス!今度会わせてほしいっス!」

「えぇ、是非。彼も喜ぶと思います。あ、でもグルフは犬じゃなくて狼ですよ。」

レギさんが納得いってなさそうに呟いているがクルストさんの耳には入らなかったようだ。
仕事が終わったらクルストさんを連れてグルフに会いに行ってみようかな。
そんな話をしていた時だった、俺の横で伏せていたシャルが何かに反応したように顔を上げる。

『ケイ様、何者かがこちらに近づいて来ています。数は......10です、恐らく5分程でここに到着すると思います。』

ここまで5分かかる距離でもシャルは知覚できるの......?
誰か来ることよりそっちのほうがびっくりなんだけど......。
とりあえずシャルを抱き上げて小声で話す。

「どっちの方角から?」

『右手側から近づいて来ています。もし回り込んでくるようであればまたお知らせいたします。』

「分かった、シャルはそのまま警戒しておいてくれるかな?」

『承知いたしました。』

レギさんに伝えて指示を仰ごう。
必ずしも悪人とは限らないけど警戒は必要だ。

「レギさん、右手の方から誰かが近づいてきています。十人くらいでが目的地がここかどうかは分かりません。」

「よく分かったな?確かか?」

「間違いありません......今五人ずつに分かれました。」

シャルからこちらに近づいてくる人達の情報がリアルタイムで入ってくるのでそれをレギさんにそのまま伝える。

「よし......クルスト左手の方を注意しておけ。にーちゃん、相手に気づかれないようにどこかに隠れられるか?」

「まだ距離があるので大丈夫です。倉庫の屋根でいいですか?」

「登る暇があるならそれでいい。無理そうなら向こうの路地に伏せてくれ。」

「屋根の方が全体が見えるので上がります。......別れた五人が倉庫を挟んで反対側に回り込んでいます。残った方は今は動いていません。」

「ここを中心に動いてるなら間違いなさそうっスね......たとえ近くの倉庫が狙いでもばっちり目撃者っスから......。」

「準備しておくに越したことはない。相手の人数は倍以上、暗いとは言え飛び道具もあるかもしれない。言うまでもないだろうが油断はするなよ。」

「「了解|(っス)」」

「左右両方の集団が動き始めました、やはりこちらに向かってきています。3分もしないうちに目視できると思います。僕はそろそろ移動するので、気を付けてください。」

「あぁ、そっちもな。うまいこと奇襲しかけてくれや。」

レギさんに一度頷くと急いで倉庫脇の路地に飛び込みそこから一気に倉庫の屋根へと跳ぶ。
遅れて屋根へと上がってきたシャルとマナスに声をかける。

「シャル、マナス。頼みがあるんだ。これからの戦闘、極力手を出さずに見守っていてくれないかな?俺たちの誰かがやられそうになる、もしくは襲い掛かって来たやつらが逃げ出そうとする時までは戦闘に参加しないで欲しいんだ。」

『......ケイ様に危険が及びそうになった場合、私は何をおいてもそれを排除させていただきます。......ですが実戦の経験を積みたいと考えておられるのも理解出来ます......。』

シャルにとって、神子である俺を守ることは母さんから命じられた最上位の使命なんだろう。
それを曲げてくれと頼んでいるんだ。
やすやすと受け入れられるものではないだろう......。
それでも早いうちに実践というものを経験しておきたいのだ。
訓練と実戦は違う、突然実戦に放り込まれた時に身体が動きませんでは困るどころではない。
まぁ、シャルとマナスに見守られているという保険がある状態での実戦だ。
甘すぎると思えなくもないが、普通に日本で暮らしていたら他人を殴ることすらめったにないと思う。
実際俺はこの歳まで他人を殴ったことはない。
そんな俺がいきなり刃物を持って立ち会うのだ、いきなりまともに動けると考えるほうがどうかしていると思う。
シャルにマナスという安全マージンがあり、前もって覚悟を決める余裕のある実戦の機会だ。
実戦と呼ぶには甘すぎるかもしれないけど、これ以上恵まれた状態での初陣は正直思いつかない。
だからこそ、シャルに何とか認めてもらいたいのだ。

『......かしこまりました。ぎりぎりまでケイ様の御意思に従います。ですが本当に危ないと思った時は全力で敵勢力を排除させていただきます。』

「ごめんね、ありがとう。シャル。マナスも宜しくお願いね。」

マナスは了解といった様子で一度跳ねた。

「多少の怪我は回復魔法の練習になるからね。でも、頑張ってシャルに心配かけないように動くから、後で講評してくれると嬉しいな。」

『......採点は厳しめに行きますよ。』

「あはは、怖いなぁ。っとそろそろかな?」

眼下に広がる道の左右からそれぞれ四人の人間が死角に身を潜めつつ近づいてくるのが見える。
こそこそと動いている様だが、上からは丸見えだしレギさんもクルストさんも気づいている様だ。

「一人ずつ少し離れた位置に配置しているみたいだね。逃げられるのは避けたいな......さっきの今で悪いんだけど......シャル、マナスと二人で戦闘が始まったら後方に配置されてる奴を無力化出来る?」

『今のうちに片方に移動してしまえばマナス一人で戦闘中に両方とも無力化出来ると思います。私はケイ様の傍を離れるわけにはいきませんので......。』

「マナス一人で......?それは危ないんじゃ......?」

『いえ、マナスの能力であれば問題ないと思います。』

「マナス、出来る......?無理はしないで欲しいんだけど......。」

そう問いかけるとマナスは一度跳ねると、分裂してそれぞれ屋根を移動していった。

『そういえば、彼は分裂出来るのでしたね。これなら時間的にも余裕だと思います。』

マナスの事は心配だけど、こっちも集中しないとダメだ。
下ではレギさんが近づいてきた人達に声をかけていた。

「おい!そこでこそこそと動いているやつ。隠れているつもりらしいが、見えているぞ!変な事を考えているとしても今すぐここから離れるなら見逃してやる!だがもしその場から一歩でも近づいてくるようなら容赦はしねぇぞ!」

この警告で引いてくれるならいいけど、その雰囲気はないなぁ。
2人の警備に対して8人の襲撃者、襲う気満々で来たならそりゃ引かないよね......。
俺の考えを肯定するようにレギさん達からは死角になっている部分から武器をぶら下げた襲撃者が出てくる。
手に持つ剣を見た瞬間、心臓が一度大きく鳴った気がした。
大丈夫だ、落ち着け、緊張している場合じゃない......。
下で動きがあってからが俺の出番だ、ゆっくりと深く息を吐く。
さぁ、初めての実戦だ......!

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