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1章 初級冒険者

第34話 悩める者たち

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View of レギ

「......ま、待て、にーちゃん、一人で行くのは......危険すぎる......。」

走り出そうとするにーちゃんを止めようとするも、俺の声は弱弱しく聞こえたかどうか怪しい。
聞こえなかったのか、にーちゃんは俺にガキ共を託すとダンジョンの奥へと駆け出して行ってしまった......。
このダンジョンで遭遇した魔物はコボルト、恐らくコボルト系列が生み出されているのだと予想出来る。
そういう意味では危険度の低いダンジョンとも言える。
コボルトは単体ではあまり強くない......寧ろ弱い魔物だ、初級や下級の冒険者でも難なく倒せる。
彼らが怖いのは群れになった時だ。
集団で襲い掛かられると経験を積んだ冒険者であっても一人ではかなり危険だ。
しかしこのダンジョンは洞窟であるが故、大規模な群れで一斉に襲い掛かるというのは無理がある。
だがそのコボルト相手に俺は後れを取った、上位種ですらないただのコボルトにだ。
肩は食いちぎられ、腹は爪で貫かれた。
辛うじて相手を殺すことは出来たがそれまでだった。
我ながら情けないとは思うが......ダンジョンで果てるのは悪くないように思えた。
だが俺には成し遂げねばならない誓いがある、それを果たすことが出来ないことに悔しさや申し訳なさ、そして自身に対する怒りにその情けない心は塗りつぶされた。
しかしそれも一瞬の事、俺は流れていく血と共に意識を手放した。
だが俺の生はそこで終わることはなかった。
どうやったのか皆目見当もつかないが、俺はにーちゃんに治療されて一命を取り留めた。
いや......それどころではない、完全に傷の全てが癒えている。
何が何やら分からないが、今はもう呆けている場合ではない、俺が立ち上がらなければここにいるガキ共を殺してしまうことになる。
震える体に力を込めて立ち上がる。
怪我の影響は全く感じられない、ただ体が震え力がうまく入らない。
そんな自分に苛立ちが募るが今はそれでいい。
どんなものでもいい、今はガキ共をダンジョンの外へ連れていくだけの力に変えられるのならば怒りも情けなさも受け入れる。

「待たせてすまねぇ、とりあえずダンジョンから出るぞ。」

「レギ、大丈夫?」

怯えながらも俺の心配をしてくるガキを見て力がこもる。
あぁ本当に俺は情けない......。

「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけたな。よし、一度ダンジョンから出るぞ。」

そう言いながら頭を撫でると、少しだけ安心した様子を見せる。

「で、でも!レギ!まだリノが奥に!」

「分かっている。だがまずお前たちの安全を確保しないと俺も動けねぇ。ダンジョンの魔物は外までは出てくることは出来ない、だからまずはお前たちを外に送る。その後で俺はもう一度ダンジョンに引き返してリノを連れて帰る。お前たちはこのスライムと一緒に村に戻って村長にこの話を伝えてくれ。これはお前たちにしか出来ない大事な仕事だ、やってくれるか?」

「......わかった。」

「よし、頼んだぞ。俺とあのにーちゃんで必ずリノを連れて戻るからな。」

力強く頷いたガキ共をみて笑みが零れてしまう。
あぁ、こんな小さなガキ共ですら怖がりながらも他人を心配して、自分に出来ることを全力でやろうとしている。
ここで動けず何が誓いだ。

「よし、ガキ共入り口に向かうぞ。その後のことは任せた。こっちは任せてくれや!マナス、村までガキ共の事しっかり守ってやってくれ!」

了解したと言わんばかりに大きく跳ねるスライム。
まだ体の震えは収まらない、だが先ほどまでとは打って変わって体に力がみなぎっている気がする。
俺たちは慎重に、だが迅速にダンジョンの入口へ向かった。



View of ケイ

くぼみの奥で泣いていたリノちゃんを何とか外に出すことが出来た。
いや、全然話聞いてくれなくてちょっとこっちも泣きたくなった。
レギさんの名前を出したり、シャルを見せたりして何とかこっちの話を聞いてくれたのだ。
リノちゃんは前に村でレギさんが子供たちに囲まれていた時にいた子で、なんか石とかをレギさんにあげようとしていた子だ。
助けに来たのがレギさんだったらもっと簡単に助けられたんだろうなぁ......。

「ケイー、みんなはー?」

自己紹介をしてレギさんの友達だと言ったことによりやっとくぼみから出てきてくれたリノちゃんは、泣きはらした目を真っ赤にしながら他の子供達の事を聞いてきた。

「みんな大丈夫だよ。今はレギさんと一緒に安全なところに向かっているよ。」

「そっかー、よかったー。」

「じゃぁリノちゃん、少し暗いから手を繋いでいこうか。入り口までちょっと歩かないといけないからね。」

「はーい。」

リノちゃんは素直に手を繋いでくる。
またパニックになって駆け出したりしたら危ないからね......しっかり捕まえておこう。
レギさん達と別れてからここに来るまでに広間はなかったが分かれ道はいくつかあった。
遭遇した魔物はいなかったけど、別の場所から移動してきているかもしれないし帰りも気は抜けない。
通路で挟まれるような事態は絶対に避けたい......。
慎重に進んで行こう。



『ケイ様。この先の分かれ道の先、まだ少し離れていますがこちらに向かってきている魔物がそれぞれ3匹ずつ、帰り道の方が少し魔物との距離が離れています。』

慎重に進もうと、どうしようもないことはあるよね......通路だし、避けようがないもん......。
しかし困ったな......。
分かれ道の先で戦闘をしてしまうともう一方に背後から襲われる可能性がある。
それだったら分かれ道の手前まで進みそこで迎え撃つか?
通路は狭く、コボルトのサイズでも3匹同時には襲い掛かって来られないはずだ。
天井は高いから上から襲い掛かってくるような奴じゃないといいけど......。
それよりも問題はそれぞれの魔物と少し距離が離れていることだ、彼らの到着を待っている間に他の魔物が後ろから現れないとも限らない。
もしそうなった場合、状況は最悪だ。
分かれ道を一気に突っ込み強行突破を仕掛けた場合はどうだ......?
コボルトであればすぐに倒すことは出来るだろうが、魔物がコボルトとは限らない。
コボルトよりも素早く小さな魔物だった場合、同時に襲い掛かって来られて前線を突破される可能性もある。
俺だけならともかく、今はリノちゃんが一緒だ。
最大限安全に進まなくてはいけない。
突破するだけならシャルにお願いするのが早くて安全だと思う。
しかしシャルにはリノちゃんの傍で護衛をしていてもらいたい。
俺では見知らぬ魔物に襲い掛かられた際、とっさの対応に失敗するかもしれない。
今は失敗していい状況じゃない、やはりシャルにはリノちゃんの傍にいてもらおう。
強行突破か待ち伏せか......せめてマナスの本体がいてくれればどちらを選んでも有効な手が打てただろうに......。
いや、レギさん達の護衛は絶対に必要だった。
いつものレギさんならともかく、ダンジョンに入ってからのレギさんはおかしかった。
そこに気を回さずにレギさんに戦闘を任せた結果、大怪我をさせてしまった。
あれは俺のミスだ。
レギさんの様子がおかしかったのは分かっていたのだから最初からマナスをレギさんに付けておくべきだった。
ダメだ、今は悔やんでいる場合でも無い物ねだりをしている場合でもない......。

『ケイ様、どうされますか?』

「......それぞれの通路の魔物が分かれ道に到着するまでどのくらい時間がかかるかな?」

『近いほうは一分、出口の方は三分といったところでしょうか?ですが戦闘音などに気づいた場合足を速めると思うので......。』

「どちらかの通路に入って戦闘になればほぼ確実に前後から攻撃を受けるか......背後はまだシャルの感知範囲内には魔物はいないんだよね?」

『はい、今はいません。ですが先ほども言いましたが感知範囲が狭くなっているので絶対に安全とは言い切れません。』

「うん、分かった。ありがとう。」

......分かれ道の手前で近いほうを待ち伏せる。
シャル達は少し離れて後方に、片方の集団を急いで処理、相手の合流が早くても通路を利用して多数を相手にしないようにすればいけるか......?
問題は俺の手に負えないような強力な魔物だった場合だなぁ......。

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