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2章 ダンジョン

第49話 状況把握

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「さて!次は私の方の話ね!といっても、私自身についてはよく分からないわ!」

少しだけ暗くなった空気を振り払うように、リィリさんが快活に声を上げる。

「......そうだな、色々聞かせてくれ。」

「りょーかい!とりあえず、私自身の話からだけど......レギにぃと別れた時の崩落で怪我しちゃったのよね、そのまま暫くダンジョンを彷徨っていたんだけど、力尽きちゃって暫く座り込んだの。」

「......。」

レギさんの表情が硬い。
慙愧の念に堪えかねているのだろうが......。

「レギにぃ、いちいち気にしなくていいの。偶々崩落があって偶々レギにぃは出口の方に、私は遠ざかった。それだけの話よ。」

「あぁ、分かっている......。」

マントの下で肩をすくめたのか身じろぎするリィリさん。
骨の体で肩をすくめるってどんな動きになるのか少し興味はあるが......変態って叫ばれそうだから確認するのはやめておこう......。

「とにかく、それで動けなかったわけだけど、その間ずっとヘイルにぃとエリアねぇを迎えに行かないと、レギにぃと合流しないとって考えていたのよね。どのくらいそこで休んでいたのか分からないけど、そんなことばかり考えていたわ。気付いたら体が動くようになったからダンジョンの探索に戻ったのだけど......その時にはこの体になっていたわ。」

なんでその体になってしまったのかは全く分からないのか......原因の様なものもなく、気付いたら......か。

「正直その辺は時間の感覚も曖昧でね......レギにぃ達と会うまでどのくらい時間が立っていたのか分からなかったのよ。」

「なるほどな......それで三十年とか言っていたってわけだ......。」

「いや、それはレギにぃのせいでしょ......そんなおじさんになってたらそのくらい経ってると思うわよ。」

「......。」

レギさんの頭に青筋が浮かぶが何かをこらえるように大きく息を吐いた。

「でも、この体結構使い勝手が良くてね。全然疲れないし、眠くもならないのよ。でも明らかに街に行けるような風貌じゃないし......多分、ダンジョンから出られないと思うし......。それでとりあえず、ここを攻略しようと思ったのよ。攻略してしまえばヘイルにぃ達の遺品を街に返してもらえると思ったから。」

「なるほどな......じゃぁお前が魔物を殺していたのは。」

「えぇ、ダンジョン攻略のついで修練を兼ねて。最近アンデッドを一撃で倒せるようになってね?なんか弱点みたいなものが見えるようになったの。」

「あぁ、魔力核だな。」

「魔力核?」

「アンデッドには必ず魔力核があってそこを攻撃すれば一撃で魔力に還すことが出来るんだ。」

「レギにぃ達も分かるの?」

「あぁ、さっき話したケイの魔法のお蔭でな。例えば......リィリの魔力核は下腹部にあるな。」

次の瞬間マントの下から突き出された剣がレギさんの頬を掠める。
うん、今のは弁護のしようもないくらいレギさんが悪いと思いますよ。

「レギにぃ、その年になってまだデリカシーのデの字すら覚えていないの?私は悲しいよ......。」

突き出された剣がゆっくりとレギさんの首へと近づいていく。

「す......すまん。」

一つため息をつくとリィリさんは剣を納める。
ため息......どうやって......?

「でも、魔力核が見えているならこのダンジョンで敵なしなんじゃないですか?」

気を取りなすように俺から話題を逸らしてみる。

「いえ、下層部に一匹だけ倒せない相手がいるのよ。恐らくそれがこのダンジョンのボスね......フルプレートの鎧を着ていて弱点が狙えないし力押しのタイプでちょっと苦手なのよ......。」

「ボスと戦う必要はないだろ?こっちはヘイルとエリアの遺品の回収が目的だ。」

「......そいつがヘイルにぃの剣を持っているの。」

「......あ?」

底冷えするような怒気が二人から湧き上がってくる。
大切な仲間の形見を魔物に奪われているのだ、その怒りは到底計り知れるものではないだろう。

「それはケジメが必要だが......。」

怒りを飲み込んでレギさんが言葉を発する、だがその言葉は歯切れが悪い......。

「レギにぃがやらなくても、私がやるわ。」

「......だが、ダンジョンのボスを倒せば......。」

ダンジョンのボスを倒す、ダンジョンを攻略するというのは魔力だまりを払うという事。
魔力だまりが払われればそのダンジョンで生み出された魔物は全て魔力へと還る。
つまり、スケルトンであるリィリさんは......。

「何も問題ないわ。自覚はなかったけど私は十年も前に死んでいるの。約束を、誓いを果たすために私はこのダンジョンを攻略する。」

「......分かった。」

レギさんは苦しそうな顔をしている。
魔物になってしまっているとは言え、折角再会できたリィリさんをまた失えと言われているのだ。
すんなりと受け入れられる話じゃないだろう。

「とはいえ、今の私じゃまだ勝てないのよね......。」

「そういえば、さっき魔物を倒すのは修練を兼ねてって言っていたが......相手が動く前に弱点を一撃で貫いていたら練習にならなくないか?」

それもそうだ、魔物同士は基本的に襲い掛かって来ないらしいしアンデッドは動きが緩慢なやつが多いので鍛えるという意味では微妙ではないだろうか?

「あぁ、確かに修練としてはそうなのだけど......なんかね?魔物を倒すとちょっとだけ体が強くなるというか......力が湧いてくる感じがするのよ。」

「力が湧いてくる?どういうことだ?」

「私もよく分からないんだけど......一匹程度じゃ殆ど変わらないのだけど、数をこなすと確実に強くなっていると思うわ。」

魔物を倒して強くなる......レベルが上がるみたいなことはないはずだけど......。

『恐らく、魔物を倒したときに霧散していく魔力を吸収しているのだと思います。それにより保有する魔力が多くなり強さが増しているのだと......。人間と違って魔物は保有する魔力量が強さに直結するので。』

「なるほど、魔力を吸収して......。」

「何かわかったのか?ケイ。」

「えぇ、今シャルが教えてくれました。リィリさんは倒した魔物の魔力を吸収して力を増しているそうですよ。」

「ほぉ、そんなことが出来るのか。」

「えぇ、まぁリィリさんだからこそでしょうが......。」

「本当にその子と意思の疎通が出来ているの......?」

「はい、と言っても僕の力じゃなくてシャルの力ですが。」

「へぇ、凄いわね......今の話もその子が?」

「えぇ、教えてくれました。」

表情が動かないから分からないけれど、恐らく興味深げにシャルと俺をリィリさんが見てくる。

「自分の事だけどあまりよく分からなかったから......教えてくれてありがとう。」

シャルに向かってお礼を言うリィリさんとそれに頷くシャル。

「それで中層に魔物がいなかったのか......。」

「あー、下層も全滅しているわよ。」

「......やりすぎだろ。」

休む必要がないアンデッドだからこそずっと狩り続けて一人でダンジョン内を一掃したのか......。

「入り口付近は冒険者もいるからこの辺から下の階層に掛けて狩っていたのよ。それでもまだボスには勝てないわ。」

「俺たちがいれば......どうだ?」

レギさんの質問にリィリさんが俺たちを見回す。

「そちらの、ケイ君の実力は分からないけれど......私とレギにぃならいい勝負が出来ると思う......。」

「なら問題ない......ケイの腕は確かだ。ボスについて情報はあるか?」

「さっきも言ったけど、鎧を着てヘイルにぃの剣を持っている。速さよりも力で押してくるタイプね。多少鎧の隙間を縫って斬りつけたとしても動きが鈍ることはない......まぁその辺はアンデッドってことね。」

「鎧を着ているアンデッドか......面倒な相手だな。」

「私じゃ多少斬りつけたところでダメージを与えられなかったけれど、レギにぃの武器なら手足を斬り飛ばせるはず。弱点は胸の中心、完全に鎧に包まれているから直接貫くのは無理だと思う。」

「それは確かにリィリじゃ相手が悪いな。」

「だからこそ、魔物を狩り続けて少しでも力を蓄えていたのよ......。」

リィリさんの目的はボスを倒してヘイルさんの武器を取り戻すこと......だからこそ自らを強くするために魔物を狩り続けたのだ。
本人も覚えていないからどれほどの年月かは分からない。
だが日々生み出される魔物を一人で全滅させているのだ。
それはどれほどの執念なのだろう......そしてそれはレギさんも同じだ......。
この二人の思いを......誓いを必ず成し遂げさせたい。
たとえその結果、リィリさんがいなくなってしまうとしても......。

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