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2章 ダンジョン

第54話 いろいろある

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View of リィリ

肩にかかるくらいの長さの栗色の髪が頬をくすぐる。
懐かしい感触だ。
私はリィリ。下級冒険者のリィリ=ヘミュス。
私たちは冒険に失敗してしまった。
何よりも大切だった兄と姉は私の目の前で死んだ。
誰よりも好きだった兄とは逸れたまま再会出来なかった。
そして私は多分一度死んで、何故かスケルトンになった。
ダンジョンに私の全てを奪われた、家族も愛する人も自分の体さえも。
ただ一つだけ嬉しかったのは、どれだけ探してもレギにぃの痕跡がなかったことだ。
レギにぃだけはダンジョンから脱出に成功した。
ならば、せめて大切な人たちの遺品だけでも取り戻そうと誓った。
レギにぃがいつか迎えに来てくれた時に渡せるようにしておこうと。
でも結局それは間に合わなくて、レギにぃが新しい仲間と共に私たちを迎えに来てくれた。
レギにぃ達のお蔭でヘイルにぃの剣も取り戻せて私はそのまま消えていくと思っていた。
それが何故か私は肉体を取り戻してダンジョンの外に出た。
これからきっと色々と大変なことはあると思う。
何しろ人間ではなくなってしまったのだ。
でも今だけは、喜んでもいいかな?
ヘイルにぃ、エリアねぇごめん......もう少しだけ待ってもらっていいかな?
私、もう少しこっちにいられるみたい。
レギにぃと一緒に。



View of ケイ

「あいつの服どうにかしねぇとな......。」

ダンジョンだった洞窟の入り口を見つめているリィリさんの後ろ姿を見ながらレギさんが呟く。
今俺たちは洞窟を抜け初日に野営をした場所で休んでいた。

「そうですね......村で何か購入できるといいんですけど。」

スケルトンであった時は気にならなかったけど今のリィリさんは......そのちゃんとある。
いや、何がって言われるとあれだけど......とりあえずちゃんとある。
まぁそういうわけで今の恰好のままだと色々まずい。
人里なんてもってのほかだろう......。

「僕が先に村に行って何か調達してきますよ。なので後から二人でゆっくり来てください。」

「すまねぇな、ケイ。」

「大丈夫ですよ。マナス、レギさんの所に分裂体残してもらえるかな?」

マナスが分裂したのを確認出来たので俺は近くの村へ向かって歩き始めた。
ここから村までは半日もかからないが着くころには夕暮れ時かな......?
少し急がないと服を手に入れるのは難しくなりそうだ。

「ちょっと今から村に向かうと時間がぎりぎりかもね。」

空を見上げながら隣を歩くシャルに話しかける。

『そうですね......であれば、ケイ様。』

「なに?シャル。」

『私にお乗りください。村の近くまで走ります。』

そう言うとシャルが二メートルほどの大きさの狼へと変身した。
いや、こっちが本当の姿か......。

「あ、なるほど。シャルに乗せてもらえばすぐに村までたどり着けるね。」

俺はシャルの背に乗る。
相変わらず騎乗というよりしがみつく感じになるけど......。
ちなみにマナスは俺の背中にくっついている様だ。

『それでは走ります。何か不都合があったら言ってください。』

「うん、ありがとう、シャル。よろしくね。」

シャルが駆け出し、景色が飛ぶように後方へ流れていく。
身体強化魔法が使えるようになってかなり素早く動けるようになったとは思っていたけど、シャルに比べるとまだまだみたいだね......。

「やっぱりシャルはすごいね。まだまだ遠く及ばないや。」

『いえ!ケイ様であればすぐにこの程度の速度で動けるようになれます!』

「そうかなぁ。」

『はい!間違いありません!』

シャルが勢い込んで太鼓判を押してくる。
シャルは俺への採点が甘いからなぁ......。

「じゃぁシャルの期待に応えられるように頑張るよ。」

シャルにしがみついた状態のままではあるけれどシャルの背中を撫でる。
最近は魔力操作の練習ばかりだから少し身体強化魔法に込める魔力を増やす特訓もしておこうかな......。

「帰ったらまた魔法の練習するから付き合ってね、シャル。」

『はい!承知いたしました!』

なんだかシャルの機嫌がすごくいい気がする......。
やっぱり久々に太陽の下に出るから気持ちいいのかな?
元の姿で思いっきり走れるってのもあるか......。
ずっと子犬状態だったからなぁ......たまにはこうしてのびのびとさせてあげたほうがよさそうだ。
そんなことを考えていると背中にくっついていたマナスが目の前に回り込んできてアピールするようにプルプルしだした。
これは多分......。

「うん、マナスもよろしくね。」

マナスが大きく跳ねるとそのまま俺の背中に再度張り付く。
さて、シャルのお蔭で恐らく一時間もあれば村までたどり着けるだろう。
暫く拠点にするつもりだったから宿の確保はしてあるけど、部屋は一部屋増やさないといけないね。
服については宿の人に相談してみよう。
そうだ、リィリさんはご飯も食べられるんだからおいしい物を用意してもらっておかないとね。
街に戻ったらギルドへの報告とか魔道具の作成に魔法の練習。
やることはいっぱいあるけれど、そろそろ旅の準備もしないとな......。
欲しかった身分証は得た。
レギさんへの恩を返しきったとは思えないけれど......またあの街にはいくこともあるだろうし、コツコツ返させてもらおう......。
シャルの背中で揺さぶられながらこれからの予定に思いを馳せる。
視線を前に向けると最初の目的地である霊峰が薄っすらと見えていた。



View of ???

おや?
研究に没頭していると視界の隅で魔道具が一つ活動を停止した。
あれは確か......随分昔に試した人工核の監視用でしたか?
随分長く動いていたようでしたが、活動停止しましたか......まぁ当時の成果としては素晴らしいものがありますが、今となっては型遅れですしね。
活動を停止した理由には少しばかり興味はありますが、まぁ冒険者に狩られたって所ですかね?
まぁ多少強いとはいえ、所詮スケルトンでしたしね。
しかし、ここ数年ずっと稼働していた魔道具が動きを止めると随分部屋の中が静かになった気がしますね。
まぁ、型遅れの成果なんてどうでもいいですけど。
今私の手元にはこれがありますから......。
ふふふ......あぁ、ダメですね......手に入れてから結構経ったと思いますが笑いが止まりませんねぇ......。
あぁ、本当に......最高ですねぇ......。
天狼の魔力を宿した宝玉......無限とも思える魔力......はぁ......たまりませんねぇ......。
しかし惜しむらくは天狼が魔力を全て吸い尽くされた状態で崖から落ちてしまったことですね......。
私が現場にいればなんとかサンプルとして回収したのですが......あの部隊の隊長使えませんね......。
しかもあの一回以降、天狼のいる森へたどり着けすら出来ないようですし......まぁ、間違いなく天狼は生存していて結界を張りなおしたのでしょうねぇ。
確か神域とか呼ばれていましたか?
是非そちらも研究してみたい所ですが、入れませんしねぇ......生身だと魔力が濃すぎて一時間もいれば発狂する様ですし......その辺の対策が必要ですねぇ。
一応、他にも神域はありますが......流石に龍王国に潜り込むのは面倒ですね......まぁ一つ部隊でも送り込んでもらいますか......今回は神獣狙いではなく神域のサンプルを回収してきてもらいましょう。
具体的なプランは......うん、ノリで考えればいいですね。
っと考え事はいいとして、今はこれを完成させないといけませんね......ん?
これの動作確認もついでにやらせますか......。
となると実働部隊だけではダメですね、観測班も必要ですし......。
んー思ったより面倒ですねぇ、だれか私の代わりに手続きしてくれませんかねぇ......。

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