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3章 龍王国

第82話 覚悟を決める

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「どういうことじゃ!?どうやってここに来たのじゃ!?」

凄い剣幕で詰め寄ってくるナレアさん。
まぁ気持ちは分かるけど......。

「えっと......いつもよりちょっと急いで移動してきました。」

「答えになっていないのじゃ!どうやって来たのか聞いておるのじゃ!」

俺の事を掴んでがくがく揺さぶる。
シャルはしがみ付いて一緒に揺さぶられているが、マナスはタイミング良く肩の上で弾んで揺さぶりを避けている。
器用だな......。

「ナレアさん、落ち着いて下さい。注目を集めています。」

ナレアさんは手を離すと二歩程後ろに下がり半眼でこちらを見てくる。

「その落ち着き具合を見るに、本当に特別なことはしておらん様じゃな。レギ殿やリィリ殿ももう居るのかの?」

「えぇ、今は別行動中ですが一緒にこの街に来ていますよ。」

「何をどうやったら妾より早くこの街に着けるのじゃ......まだ出発前に会ったお主らが偽物じゃったと言われた方が信じられるぞ......。」

「ちゃんと本物でしたよ。」

「ならば今ここにおるのが偽物じゃな?」

「あの街に居ながらこの街に偽物を準備する方法が思いつかないんですが......。」

「偽物を昨日の夜の内に出発させていたとかじゃな......?」

「そもそも偽物を用意するほうが難しくないですか?」

「昨日の夜に出発して馬を使いつぶしながらリレーさせれば......。」

「偽物に加えて道中に替えの馬の用意も必要じゃないですか......出来たとしても、何のためにそこまでやるんですか......。」

「それはもちろん......。」

そこまで言ったところでナレアさんが顔を赤らめながらもじもじしだす。

「わ......妾に......い、いやらしいお願いをしようとしたのじゃろ......?」

「そ!そんなことしませんよ!?」

「次に会った時お前を食べたいと言っておったのじゃ!」

「天下の往来でこの人何言っちゃってるのかな!?」

物凄いことを結構な声量で言い放ったナレアさん。
なんかもう殆ど台詞の原型残ってないし......。
周りの人達からめっちゃ見られてます。

「と、とりあえずナレアさん!移動しましょう、というか移動してください!」

「ど、どこに連れて行くつもりじゃ?ま、まさか!?」

「いや、ほんと、謝るんで勘弁してください。そろそろ衛兵とか呼ばれそうなんです......。」

この人負けた腹いせにわざとこんなこと言っているよね?
まさか!?とか言いながら口元に手を当てていますけど、微妙ににやけているのが見えていますからね?
周りの人たちはチラチラとこちらを見ながらひそひそやっている。
まずい、本当に衛兵とか呼ばれたらシャレにならない。

「まぁ、とりあえずこのくらいにしておいてやるかのう。」

「......酷い目にあいました。」

「うむ、すまなかったのう。まぁ、そう拗ねるでない、これから宿に行くのじゃがケイはどうするのじゃ?」

にやにやとしながら謝ってくるナレアさんだが、一欠けらも誠意を感じない。

「はぁ......丁度宿に戻る所でした。ナレアさんは今到着したのですか?」

「うむ、まさか先を越されているとは思わなんだ。どうやってここに来たのか教えてもらえるかのう?」

「うーん、どうしましょうかねぇ?」

「なんじゃ、そのくらい教えてくれてもいいじゃろ?」

「さっき酷い目にあわされましたしねぇ......。」

「むう、心の狭いやつじゃな。」

「どんどん、教えたくなくなっていきますね。」

「ケチじゃ!」

ナレアさんは興奮すると言動が幼くなるのかな......。

「とりあえず、宿に行きましょうか。ここだと注目されていますし落ち着かないですよ。」

「ふむ、そうじゃな。つい、興奮してしまってのう。済まなかった。」

先程とは違いちゃんと謝っているナレアさん。
どうやら気持ちが落ち着いたようだ。

「いえ、大丈夫です。レギさん達は宿にいないと思いますが宿で話しますか?」

「ふむ、どうせなら皆が揃ってから話をしたい所じゃな。とりあえず荷物を置いたら外に出るとするか。ケイはこの後用事があるかの?」

「いえ、集めた情報を整理するくらいですね。」

急ぐ必要はないし、晩御飯の時に皆で情報を共有しながら整理しても問題はない。

「であれば、一緒に街を回らぬか?妾は何度か来たことがあるのでな、軽く案内してやろう。」

「いいんですか?」

「うむ、少し買いたいものがあるが、そこまで時間のかかる物ではないのじゃ。夜まで少し時間はあるし丁度よかろう。」

「じゃぁお言葉に甘えさせてもらいます。観光できるような場所や面白い場所はありますか?」

「そうじゃなぁ......。」

そんなことを話しながら俺たちは宿に向かう。
幸い部屋は空いていたようで部屋を取ったナレアさんは荷物を置いてすぐに戻ってきた。
戻ってきたナレアさんは先程と服装が変わっている。

「すまんのう、待たせた。」

「大丈夫ですよ。着替えられたのですね。」

「うむ、流石に旅装のままではのう。汗もかいたし砂埃も落としたかったのじゃ。」

「なるほど、あまりその辺は気にしたことがありませんでした。旅装も街着も殆ど同じですし。」

「身だしなみには気を付けるべきじゃ。少しの手間をかけるか否かで他人に与える印象はがらっと変わるのじゃ。」

「そうですね......気を付けます。」

「うむ。ケイのその素直さは美徳じゃの。」

今までのニヤニヤした感じの笑い方ではなく綺麗な笑顔を見せるナレアさん。
いつもそう言う風に笑ってくれるのならこちらも心穏やかでいられるんだけどな......。

「しかし、ケイはその服装で街の外を移動しているのか?随分と軽装のようだが。」

「一応埃避けにマントを被りますけどそのくらいですかね?」

「ちょっと買い物に出かけるといった感じの気楽さじゃのう。今までずっとそうしてきたのだから問題はないのかもしれぬが、気を付けるのじゃぞ?」

「はい、ありがとうございます。」

「うむ、では出かけるのじゃ。」

ナレアさんにが宿から出ていく。
続けて宿を出るとナレアさんが考え込むように顎に手を当てていた。

「どこから行くかのう。荷物になるし買い物は後回しがいいと思うが......。」

「何を買われるんですか?」

「少し旅装が痛んできたのでな。買いなおしておきたいのじゃ。」

繕うのではなく買いなおしなのか......ナレアさんは結構懐事情が良さそうだね。

「それと消耗品関係じゃな。前の街では色々あって準備する前に飛び出してしまったのじゃ。」

......それは随分な計画性で......本当に勢いで勝負を決めていたんですね。

「街の外に出るなら準備はしっかりするべきですよ。」

「ほほ、耳が痛いのじゃ。警告した直後にこれでは格好がつかんのう。」

そういったナレアさんはニッと笑う。

「まぁ僕が言っても説得力がないのかもしれないですけど......。」

「そうじゃな......まぁその件に関してはどっちもどっち。お相子って所じゃの。」

「あはは、そうですね。じゃぁ今後の為にもお店巡りにしましょうか。観光はまた今度案内してください。」

「ふむ、次のデートの約束か?」

「う......そういうつもりじゃなかったんですけど......。」

「つれないのう。もう少し女子を喜ばせるような言動はするべきじゃぞ?」

「そっち方面は......まぁ一応注意しておきます。」

あまり頑張るつもりはないけど......っていうかここ最近こんな話ばっかりだな......。

「それじゃぁ、買い物に行くとするかの。服は当然、お主が選んでくれるんじゃろ?」

「......いつの間にそんな話に?」

「女性の買い物に付き合うなら色々と覚悟しておくことじゃ。ダンジョンよりよっぽど危険と心得よ。」

どうやら知らないうちにダンジョンより危険な場所に足を踏み込んでいたらしい。
女性の買い物は長いってのは聞いたことあったけど......そこまで覚悟が必要な事だとは知りませんでした。
歩き出したナレアさんを追いかけながらこれから俺に襲い掛かる様々なことに戦慄を覚えるのだった。

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