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3章 龍王国

第101話 聖域へ

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聖域に行くには王城の敷地内を通るとのことで、今は城壁の内側を歩いていた。
これが王城か。
聳え立つ城は見上げるばかりで、高さで言えばオフィス街のビル群の方が高いのだろうが重厚というか非常にどっしりとした佇まいをしている。
オフィス街のビルってなんかペラペラな感じを受けるんだよね......曲線が少ないからかな?
まぁ今それはどうでもいい、お城の中を通るわけじゃないのは残念だがそれでも色々と興味深い。
きょろきょろと辺りを見渡してしまっても仕方ないだろう......。

「ケイ、あまり落ち着きない態度だと衛兵に捕まるぞ?もう少し落ち着くのじゃ。」

「う......すみません。」

「ふふ、ケイ様は城に来るのは初めてですか?」

ナレアさんに窘められ、ヘネイさんに笑われてしまった。

「はい、これだけ大きな建築物を見るのは初めてです。築城にはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?とても歴史を感じさせる佇まいだと思います。」

「最初からこの大きさだったわけではありません。長い時間をかけて改築や増築を重ねた結果今の大きさにまでなったのです。龍王国シンエセラは歴史が長いので。」

「なるほど......。」

そう言えば今の王様は七十代目を超えているんだっけ?
良くそれだけ一つの王朝が続くものだね......応龍様がいたからこそ、なのかな?

「このシンエセラは大陸でも最古の国です。その長い歴史は応龍様の加護があればこそ維持されてきました。たとえ王であったとして応龍様のお言葉を無視することは出来ません。人を超越した神獣様がおられたからこそ、国を分かつような内乱等が一度も起こらなかったのです。」

簡単にヘネイさんは龍王国の事を語ってくれる。
その目はとても澄んでいて応龍様への清廉な信仰が伺えた。

「あーケイよ。勘違いするでないぞ?応龍はあくまでもここにいるだけじゃ。人の世界の政治などに口を出すことはない。龍王国が長い歴史を歩んでこられたのはひとえにこの国に住まう者達の努力の結果じゃ。」

「なるほど......。」

ナレアさんの言葉にヘネイさんは微笑むと頭を下げる。

「まぁ、今回のように何かが起こった時に巫女を介して動くことはあるらしいがな。」

「私の代では初めての事です。先代や先々代の頃にもなかったはずですが......。」

巫女さんの任期がどのくらいか分からないけど、少なくともヘネイさんは子供のころから巫女のようだし三代もなかったとなれば数十年はなかったってことかな?
それだけ平和だったのか......今回の事が緊急事態なのか......是非とも今までが平和だったということでお願いしたい。

「普段は街で酒類の購入くらいしか言ってきませんので......。」

平和だった可能性が高くなってきたな。

「ケイ様は考えていることが良く顔に出ていると言われませんか?」

微笑みながら俺を見つめるヘネイさんとニヤニヤしているナレアさん。

「......言われたことはありませんね......。」

言われたことはない、考えていることを言い当てられるのはいつもの事だけど......。

「......ふふ、そうですか。」

「面白いじゃろ?」

「えぇ、とても素敵な方だと思います。」

それはどういう意味ですかね......?
俺は一つ咳払いをすると話題を変えることにする。

「そういえば、ヘネイさん。応龍様は今回起きている事態について何か原因の様なものを御存じなのでしょうか?」

「応龍様からは特に何も......ただ今回の件は看過することが出来ないとのことでナレア様に協力を求めるように言われました。」

「なるほど......応龍様が今回の件を気にされたのは過去にも同じようなことがあったせいかと思ったのですが......。」

「そういう事ですか......確かに応龍様にしては動きが......。」

少しヘネイさんが考え込んでいる。

「まぁ応龍に聞けばわかるのじゃ。わざわざ会いに行くのじゃから面白い話でもあるとよいがのう。」

ナレアさんは応龍様に対してもいつもと変わらない感じで接しそうですね......。
そんなことを考えていると目の前に森が広がっていた。
城の敷地内に森......?

「この森の奥に神殿があり、そこから応龍様の御座します聖域へと入ることができます。森と言っても城の敷地内に作ったものですので大した広さではありません。神殿までもすぐですのでもうしばらく御辛抱お願い致します。」

そういってこちらに一礼したヘネイさんが森へと足を踏み入れる。
道も作っていないんだな......。
自然を貴んでいるのかな......でも城の中に人工的に造った森っぽいんだけど......。
そんなことを考えながらヘネイさんの後をついて行く。
森の中は少しだけ空気がひんやりして、木々や土のにおいがしている。
流石に野生の獣のようなものがいるようなことはなく、その静けさからある種不気味さのようなものを感じた。
木の根によって多少地面はでこぼこしているものの、歩くのに支障は全くない。
不自然な自然というか、自然と人工の狭間というかって感じだね。
森に入ってから会話は途切れていたが、ヘネイさんの言う通りすぐに石造りの小さな建物がみえてきた。
あれが神殿だろう。

「こちらが神殿になります。段になっておりますので足元にお気をつけください。」

そう言ってヘネイさんは神殿の奥へと進む。
ちなみに薄々......というかがっつり気付いていたのだが、この王都はどう見ても霊峰と言われるあの山に隣接していない。
母さんはあそこに応龍様がいると言っていた。
普通に考えて応龍様に俺が来たことを伝えると出て行ったヘネイさんが一時間かそこいらで返って来られる距離ではない。
ヘネイさんと応龍様が遠距離で念話が出来るという可能性もあるけれど、これはもしかすると......もしかしちゃうんじゃなかろうか......?
俺は少しワクワクしながらヘネイさんの後を追う。
神殿に入ってすぐ扉がありヘネイさんが中へと入っていく。
扉の向こうには台座がありその上に何かが置かれているのが見える。

「ナレア様、申し訳ありません。起動して頂いてもよろしいでしょうか?先ほどの往復で魔力がもう殆ど残っていないのです。」

「うむ、ではケイがやるといいのじゃ。ヘネイが急遽往復する事態になったのはケイのせいじゃからな!」

「それは別に構わないんですけど......すみません。ヘネイ様、お手数おかけして。私が起動してもいいでしょうか?」

やはり魔道具のようだ......そしておそらくこれは......。

「申し訳ありません、ケイ様。こちらの魔道具は通常の物とは違いまして......起動に必要な魔力量がかなり多いのです。」

「なに、問題はないのじゃ。ケイの魔力量は妾より遥かに多いのじゃ。」

「な、ナレア様より!?失礼いたしました、ケイ様!侮る様な発言をしまして......。」

「ヘネイ様気にしないで下さい。侮られたとか思っていません、普通の人族の方々じゃ起動できないのは知っていますから。でもこのタイプの魔道具を起動できるってことはヘネイさんもかなり魔力量が多いのですね。」

「それはお主が言うとちょっと嫌味じゃぞ......。」

確かに、言われてみればそうかもしれない......。

「申し訳ありません、ヘネイ様。」

「いえ!謝らないでください、ケイ様。ナレア様!先ほどからお戯れが過ぎるかと思いますが!」

「ほほ、疚しい所があるからそうなるのじゃ。それよりほれ、とっとと魔道具を起動するのじゃ。」

「分かりましたよ......ヘネイ様、よろしいですか?」

「えぇ、宜しくお願いします。」

ヘネイさんが許可をくれたので魔道具に近づき魔力を流し込む。
いつも通り物凄く少量を流し込み、そこからじわじわと流す量を増やしていく。

「慎重じゃのう。もっと一気に流してもいいのじゃよ?」

「初めて魔道具を起動したときに、一気に流し込みすぎて魔晶石が破裂したんですよ。」

「魔晶石が破裂じゃと?」

「えぇ、灯りの魔道具だったのですが。いきなり弾けて......それ以来魔道具に魔力を流すのは慎重に......特に初めて使う魔道具は......。」

微妙にヘネイさんがそわそわしている。

「あ、大丈夫ですよ、ヘネイ様。魔力を流しすぎて壊したのはその一度きりですので。」

「......あの、是非とも慎重にお願いします。代替の効かないものですので......何卒。」

「えぇ、承知しました。」

いつも以上に慎重に魔力を注いでいく。
暫くすると、魔晶石から魔術式の様なものが俺たちの頭上に浮かび上がった。
ゆっくりとその魔術式が俺達に向かっておりてくる。
おぉ......過去最高にファンタジーっぽい演出だ。
そんな間の抜けたことを考えていたら魔術式が俺たちの体をすり抜けて地面に落ち、視界が一変した。

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