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4章 遺跡

第138話 お風呂を目指して

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ナレアさんと神域に行った後、数日を街で過ごした。
神域では応龍様とナレアさんが妙に意気投合して俺に色々と仕掛けてくるのでかなりきつかった......。
しかもテンションが上がった応龍様はうっかり母さんへ渡す手紙を俺に預けるのを忘れていた。
まぁ俺もへとへとだったので忘れていたのだが......ナレアさんが帰り際に言ってくれなかったらそのまま帰っていただろう。
街に戻ってからはナレアさんも魔法を使って悪戯を仕掛けてくることはなかったが、二人で街の外に行って練習をした時は中々散々な目にあった。
元々ナレアさんは地面をへこませる魔道具を使っていたからか分からないけど......地面を操る魔法は俺よりも自在に使ってくる。
......いや、地面だけじゃない。
全体的に応龍様の加護によって使えるようになった魔法はナレアさんの方が一枚上手だ。
魔法の規模や範囲、持続時間なんかは俺の方が魔力が多いので分があるのだが、発動の速さや精密さなんかでは確実に負けている。
特に戦闘で動き回りながらの魔法行使は正直相手にならないレベルだ......。
俺が戦闘中に応龍様の魔法を使うのはまだまだ修練が必要そうだ。
恐らくナレアさんは元々魔術師として複数の魔道具を戦闘中に使ったりしていた分、魔力の使い方が上手いのだろう。
俺が魔力操作を練習する時は部屋の中で集中してやることが殆どだ、走りながらとか剣を振りながらとかそう言った練習はしていない。
身体強化は掛けっぱなしだしね......ここ最近になってようやく弱体魔法を戦闘中にも使うようになったけど......斬り合いの最中に使うというよりは魔法を撃つぞと構えてからの発動が殆どだ。
まぁ課題が見つかったことを良しとしておこう。
咄嗟に使えないと意味がないからね。

「あれ?ケイ君、今日は一人なんだ?」

宿の食堂で色々と考えていたらリィリさんが二階から降りてきた。

「えぇ、今日ナレアさんはヘネイさんの所に行っています。明日から遺跡に向かうと報告するそうです。」

「なるほどー、こっちは準備万端だしね。あーでも用意した水は必要なかったかもね。」

水は俺かナレアさんがいればいくらでも補給が可能だ。
水袋だけあればそれで事足りる。

「そうですね。どこでも水が使い放題って言うのは中々ありがた......。」

そこまで言いかけてふと気づいたことがある。
何処でも水が使い放題......石とか岩とかを出したりもできるし地面と同様に穴を開けたりも出来る......加工も問題ない。
お風呂に入れるのでは......?
いや待て、お湯はどうする?
電気で加熱......ってどうやるんだ?
普通に電気を水に流したら分解されるよね......?
電気によって加熱......何か記憶にある様な......確か金属の棒に何かを巻き付けて電気を流すとか......何かが分かればいける......ダメだ!思い出せない!
いや、いっその事地面から温泉を湧きださせれば!
......無理か、常に温泉が湧き出てくるはずがない......そもそも源泉なんて熱すぎて入れないだろうし......。

「どうしたの?ケイ君。急に黙り込んで。」

そもそも最初からお湯を生み出すことは出来ないか試してみるか。
いや、何となく無理な気がする......。
......魔道具はどうだ?
確かお湯を作る魔道具ってあったよな?

「ケイ君?大丈夫?」

「リィリさん!」

「な、なに?」

リィリさんが珍しく動揺している様な気がするが今はそれどころじゃない。

「お湯を作る魔道具ってありましたよね?あれって高いですか?」

「お、おゆ?......あぁ、お湯ね。料理で使う魔道具だよね?戦闘用に比べたらそんなに高くはないと思うけど......。」

「料理用ってことはそこまで大量の水をお湯にするものじゃないですよね?」

「鍋いっぱいくらいじゃないかな?」

それじゃ小さすぎる......お風呂にたまる頃にはどんどん冷めていっているだろうし......大量に鍋を並べるのもな......。

「ちょっとそれじゃ足りないですね......ナレアさん!ナレアさんはどこですか!?」

魔道具ならナレアさんに相談すればいいじゃない!

「いや、さっきケイ君がヘネイさんの所に行ったって言っていたじゃない。」

「......くっ!」

「ケイ君、どうしたの?何か問題があったの?」

リィリさんが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
俺はなるべく深刻にならないようにリィリさんに話す。

「......いつでも......お風呂に入れる方法を......考えています。」

「......お風呂?」

「......お風呂です。」

「......。」

「お風呂です。」

「レギにぃとかナレアちゃんだったらケイ君の事殴っているかもなぁ。」

リィリさんが呆れたように言ってくる。
何故だろう......お風呂は結構、死活問題だと思うのですが......。
正直濡れタオルで体を拭くのは全然スッキリしないので嫌なんです。
まだ水浴びするほうがいいですが......それも中々難しいので......。

「僕にとっては上から数えた方が早いくらいに優先度が高い事ですが......。」

「確かにケイ君は新しい街とかに行く度にお風呂を探しているよね。」

「リィリさんが美味しいご飯を求めるのと同じくらい、僕はお風呂を求めています。」

「......それは大問題だったみたいだね。さっきの態度は謝るよ。」

リィリさんが真摯な様子で謝ってくる。

「僕が元々いた場所では基本的にお風呂は毎日入る物でしたし、夏場は日に二、三回シャワーを浴びたりしていました。それがこっちに来てからは良くて水浴び、基本的に体を拭くだけです......。」

「......まぁ私達にとってはそれが普通だね。」

「上下水道が街では敷かれているのにお風呂が無いって......。」

「水は生活に必須だからね......そんな大量にみんなが毎日使っていたら水源が枯れちゃうよ。」

「確かにそれはそうだと思います......だからこそ我慢してきました。でも今は違います......生活環境を向上させる時が来たのです!」

「う......うん。ケイ君が何時になくテンションが上がっているのは理解できたよ。でも私もご飯がちゃんと食べられないって考えたら......協力するよ!」

血の涙を流しそうな表情のリィリさんが協力を申し出てくれる。

「ありがとうございます!リィリさん!世界に......は無理ですが、少なくとも僕たちの生活にお風呂を!」

おー!とリィリさんが乗ってきてくれる。
とりあえず大量のお湯を作る方法を相談してみよう。

「普通に火にかけたらどうかな?」

「それだと温度の調節が難しいんですよね。」

火にかけて適温にするって難しいと思うんだよね......ドラム缶風呂ってよく漫画とかで見るけど......あれってドラム缶の淵とかって熱くならないのかな?
底に板を沈めるみたいだけど......。

「お金持ちの家では下働きの人達がお湯を別に作ってお風呂に貯めるみたいだけど......昔聞いたことがあるけど物凄い重労働らしいね。」

上水道があるからって蛇口をひねれば水が出てくるわけじゃないしな......水を汲んで火にかけてお風呂に貯めて......確かに大変な仕事だろうな......。

「流石にそれは時間がかかりすぎますし......ちょっと難しいですね。」

「そうだねぇ......となるとやっぱり魔道具で何とかするしかないねぇ。」

最初に思いついた通り、バスタブは岩を加工すればいい。
使い終われば消してしまえばいいだけだしね......そうすれば世界各地で岩で出来たバスタブが発見されることは無くなる......。
やはりお湯だな......四十度前後のお湯を作ることが出来れば......。
魔法ですべてを解決するのは不可能か......?
母さんの魔法は......残念ながらダメだ。
応龍様の魔法には可能性を感じるが......俺の知識不足だ。
マグマとか出せるかもしれないけど......そんなものに浸かる趣味はないし水を温めるには少し向いてないだろう。
やはり魔道具しかない......。

「ナレアさん、ナレアさんに会いたいです!リィリさん!ナレアさんは......!」

「だからさっきケイ君が......早く帰ってくるといいねぇ。でもそのテンションのままナレアちゃんに突撃するのは後が大変だから少し落ち着こうか。」

そう言ってご飯やお酒を注文するリィリさん。
俺は何かおかしかっただろうか?

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