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5章 東の地

第168話 二度目の旅立ち

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『皆さん、ご迷惑をおかけすることも多々あると思いますが、ケイの事よろしくお願いいたします。』

母さんが皆に挨拶をしている。
ここは神域の端、これから神域を旅立つ俺達を母さんが見送りにきてくれている所だ。

「ほほ、任せて欲しいのじゃご母堂。必ず無事にこの神域にケイを帰すと約束するのじゃ。」

「うん!任せてください!変なことしないようにしっかり見張っておきます!」

ナレアさんとリィリさんが母さんに応えているのだが......なんか子供の相手というか、世話というか......そんな感じがする。
皆に子ども扱いされているけど......もう二十歳超えているんだけどな。
......まぁ、頼りないってことだよね。
皆に安心してもらえるように精進が必要だな。

『ケイ、皆さんの言うことをよく聞くのですよ?』

「......はい。」

『私達神獣の事で苦労を掛けますが、必ず無事に帰ってきてください。』

「はい。必ず帰ってきます。」

『それと次は狐の所に行くと聞いていますが......あれは非常に性格が悪いので気を付けてください。根性がひん曲がっています。真剣な表情をしている時は嘘しか言いませんし、だらけた顔をしている時も嘘しか言いません。絶対に気を許してはいけませんよ。』

......母さんの仙狐様に対するヘイトが高すぎる。
中立に判断してくれるであろう応龍様にもちゃんと仙狐様の事を聞いておこう。

「......えっと、気を付けます。」

仙狐様の事狐って言っているしな......仙狐様の方も母さんの事を嫌っているのかな......?
ちょっと仙狐様の所に行くのが怖くなるけど......坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってタイプか......親と子は関係ないと割り切ってくれるタイプか、応龍様にその辺も聞いておくべきだろうか?

『皆さんも十分お気をつけてください。狐の魔法は幻惑です、色々と仕掛けてくる可能性があるので気をしっかり持ってください。それとナレアさん。』

「なんじゃろうか?ご母堂。」

『私の加護はあまりナレアさんと相性があまり良くなかったようで、簡単な怪我を治療する程度のものになってしまい申し訳ありません。』

どうやらナレアさんは母さんの加護とは相性が良くなかったらしい。
応龍様の魔法は俺よりも自在に扱っている感じであったのだが......逆に母さんの魔法である強化魔法や弱体魔法は殆ど効果が見られなかった。

「いえ、ご母堂のせいではないのじゃ。加護による相性というものを知れて良かったと思っているのじゃ。」

『なにぶん、加護を与えるのは数千年振りなので私もすっかり失念していました。加護を与える際に相性の良し悪しは私達には分かるので、今後他の神獣から加護をもらう際は聞いてみてください。』

「承知したのじゃ。世話になったのじゃ。」

そう言ってナレアさんが母さんに頭を下げる。
母さんは次にリィリさんに向き直す。

『リィリさん、あなたの体の事、力になれなくてごめんなさい。ですが一つ思い出したことがあります。以前、人間が不死になるための研究をしている国があったと狐から聞いたことがあります。確かアンデッドの研究も盛んだったと。勿論四千年以上前の話ではありますが、皆様の言う遺跡として何かしら残っている可能性もあります。覚えているかは分かりませんが、狐に聞いてみてください。』

「ありがとうございます、セレウス様。仙狐様に聞いてみたいと思います。それと、今度来るときはおいしいお菓子持ってきますね!」

『楽しみにしておきますね。』

二人は楽しそうに笑いながら再会を約束している。
それにしてもお土産か......次に帰ってくるとは俺も何か用意しよう。
母さんがレギさんに話しかけるのを見ながら何をお土産にするべきか考える。
食べ物がいいのか......何か外の様子が分かるようなものがいいのかな?

『レギさん、あなたには色々と面倒を掛けると思います......申し訳ないとは思いますが、これからも仲良くしていただけると嬉しいです。』

「いえ、私はケイに返しきれない恩があります。面倒と思ったことはありませんが、少しでも恩を返せるように頑張りたいと思っています。」

『レギさんは本当に真面目ですね。なるべくしてなったことですし、そこまで恩を感じる必要はないと思いますが。』

そう言って母さんが俺の方を見る。
なんとなく言いたいことが分かったので俺が頷くと、母さんは言葉を続けた。

『ケイ自身もレギさんに感謝してもしきれないと思っているようです。お互いがそう思っているのですから恩等は抜きにして仲間として支えあってはどうでしょうか?それとも恩がなければ共に旅をするような相手ではありませんか?』

母さんの言葉を聞いてレギさんが困ったように頭を掻く。

「......そうですね。仲間としてこれからも一緒に旅をしていこうと思います。」

レギさんの言葉を聞いた母さんが雰囲気を柔らかくする。

『よろしくお願いしますね。それとこれは余計なお世話だと思いますが......例え相手の事を理解していても......いえ、誰よりも傍にいる相手だからこそきちんと言葉にしなくてはいけないこともあると思いますよ?』

「......は、はぁ。」

母さんがそんなことを言い出した理由はなんとなく分かる。
母さんはリィリさんやナレアさんと......後何故かシャル達も含めて盛り上がっていたからな......俺とレギさんとグルフは何故か蚊帳の外だったけど......。
まぁ三人でデカい風呂を作って堪能したのでこっちはこっちで楽しんだ......グルフは抜け毛が激しいので仕切りを作ってみたけど中々上手くいったしね。
恐らくその時に何か聞かされたのだろうな......レギさんも何の話をされているか理解しているのか微妙な感じになっている。
しかし、近所のお節介なおばさんみたいになっていますよ母さん......。

「......そろそろ出発しましょうか、森を出るまでに数日はかかりますしね。」

なんとなくリィリさんとナレアさんの視線が痛い気はするが......レギさんからはほっとしたような視線を向けられたような気がする。

『......ケイ、気を付けて行ってきてください。色々と。』

色々と?
それは微妙に怒ってらっしゃる女性陣とかにですかね?

「......はい、母さんも体に気を付けてください。」

俺は後ろの事は気にせずに、前回神域を出た時と同じく母さんを軽く抱きしめてから挨拶をする。
次向かうのは色々と問題の多そうな東の地だ。
危険は今までの比ではないと思う。
勿論皆の安全を優先するつもりではあるが、向こうがどんな風になっているかはレギさんやナレアさんですらあまり分かっていない。
最悪の場合は魔法を全力で使ってでも逃げるとしよう。
......母さんには現在の東方の状況は伝えていない......心配させるのは嫌だったから話していないのだけど、もしかしたら何か気付かれているかもしれないな。

『......。』

心配そうなそぶりは見られないけれど......絶対に大丈夫って言いきれないのは申し訳ないな。
俺は母さんに一度笑いかけるとシャルの背中に乗った。

「......次はお土産を持って帰ってきますね。何かリクエストってありますか?」

心配を零にすることは無理かもしれないけれど......俺には心強い仲間もいますし、あまり心配しないでください。

『......そうですね、ケイが面白いと思ったものをお願いします。』

俺の思いが届いたのだろう、母さんが微笑みながら応じてくれる。

「分かりました、楽しみにしておいてください。」

『えぇ、待っていますね。他の神獣にはよろしく伝えておいてください。』

「了解です。それでは行ってきますね!」

『行ってらっしゃい、ケイ。』

後ろ髪惹かれる思いはあるが、俺はシャルに頼んで神域から飛び出す。
今回は後ろにレギさんたちが、肩にはマナス達。
そして隣をナレアさんが飛んでいる。
一年前にここを飛び出した時に比べたら随分賑やかになったものだね。
母さんには寂しい思いをさせてしまいますが......行ってきます!

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