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5章 東の地

第183話 聞いたのではなく見た

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「ケイ様はお仲間の方が合流するのをここで待っているのですよね?」

薪になりそうな木を拾いながらカザン君が尋ねてくる。
カザン君の尋問の後、兵士を解放した俺達は森に薪を拾いに来ていた。

「うん。この辺りに先行して来てくれていてね。あ、俺を呼ぶときに様なんてつけなくていいよ。」

「俺の事もレギって呼んでくれ。」

「承知しました。ではケイさん、レギさんと呼ばせていただきます。」

俺たちが頷くとカザン君が柔らかく笑う。

「先行されていた方は情報収集でもしているのですか?」

「うん、情報収集を担当してくれているんだけど......今の所目的地の手がかりが、黒土の森ってのしかなくってね......。」

「すみません。私がちゃんと覚えていれば......。」

「いやいや、聞き覚えがあるって言うだけでも嬉しい情報だよ。」

俺は太めの木の枝を拾いながら笑う。
カザン君が聞いたことがあるのならファラが情報を見つけている可能性もあるし、仮に見つけていなかったとしてもカザン君の周りを改めてファラが調べることで手がかりを見つけられるかもしれない。

「あ、ケイさん。その木はやめた方がいいかもしれません。火は付きやすいのですが煙も多いのですよ。」

俺が拾った枝を目にしたカザン君が忠告をしてくれる。

「へぇ?そうなんだ?カザン君詳しいね。」

「開拓で伐採した木を建材にするのですが、端材や落とした枝なんかを燃料にしていたのですよ。その中で火が着きやすい物や着きにくい物、火の持ちがいい物等、木の種類によって色々な特徴があったのが面白くて色々と試したことがあったんですよ。それで、その中に煙の多い物と言うものもありまして......。」

「へぇ......それがこれなんだ?」

「はい。以前父が家でその木を使ったことがあって......あの時は火事もあわやと言った感じでした。」

カザン君が懐かしそうに笑う。
その表情からなんとなく家族仲が伺える......。

「家中が真っ黒と言った感じで......執務室や書庫に被害が及ばなかったのは奇跡と言った感じでした。」

「それは......大変そうだね。」

「えぇ、執務室の書類がダメになっていたら関係各所が発狂していたでしょうね......それに書庫の方にも貴重な......。」

そこまで懐かしそうに話していたカザン君が考え込むように顎に拳を当てる。

「どうしたの?」

「いえ......今何か......書庫......。」

記憶を辿るように目を瞑りカザン君の動きが止まる。
声は掛けないほうが良さそうだな。
とりあえず、薪を拾おう。
さっき拾った木とは違うものを選びたいところだけど......正直よく分からないな。
見分け方をカザン君に聞いておくべきだったか。
とりあえず薪になりそうなものを並べておいてカザン君が再起動したら確認してもらおう。

「ケイさん!思い出しました!黒土の森です!」

俺が周囲で拾った木の枝を並べているとカザン君が声を上げた。

「え!?本当!?」

「はい!書庫に置いてあったこの辺りの古い地図に載っていました。」

「地図に!?それは凄い情報だよ!」

「ですが......すみません。じっくり見たわけではないので......正確な位置までは......。」

「いや、十分だよ。」

地図に載っていて、その地図が今も書庫にあるのならファラだったら確認出来るかもしれない。
ファラが合流したら相談してみるとしよう。

「そう言っていただけると......あ、ケイさん。こっちに並べているのは全て煙が多いものですね。」

「本当に助かります。」

俺がお礼を言うとカザン君が嬉しそうに笑う。
その笑顔は先程までよりも明るい笑顔に感じた。



「情報収集をされている方というのはどんな人なのですか?」

薪拾いを終えた俺たちは火を囲んで雑談をしている。
あの街で買ったお茶はハーブティのような......ちょっと変わった香りのするお茶だ。
そんなお茶を片手に雑談していていると、カザン君がファラの事について聞いてきたのだが......。

「「......。」」

人......ではないかな?

「凄まじく優秀だな......。」

「うん。体が小さいからこっそり行動するのが得意だよね。」

「街に溶け込む能力はどんな間者よりも高いじゃろうな。」

まぁ......ネズミですしね。

「リィリ姉様。まだお仲間の方がいらっしゃるのですか?」

「そうだよ、ノーラちゃん。ファラちゃんって言って、すっごく頼りになる子なんだ。」

「早くお会いしてみたいです。」

「きっとノーラとも仲良くしてくれると思うのじゃ。」

「楽しみです!」

この三人は本当に仲良くなったな......。
明るい笑顔を見せるノーラちゃん
そんな姿を見るカザン君も嬉しそうだ。
この二人はとても辛い目にあったばかりだと言うのに本当に強いと思う。

「皆さんがそこまで信頼されているということは本当にすごい方なのでしょうね。私も早くお会いしてみたいですが、いつ頃合流予定なのですか?」

「ちゃんと決めてないんだよね。」

「......え?」

俺の返事にカザン君が目を丸くしている。
まぁ携帯どころか碌な通信手段もないこの世界......しかもこんな目印もないような場所で、待ち合わせの日時も決めていない......そんなアバウトな待ち合わせはないだろう。

「場所も、日時も......特に決めてないんだよね。まぁ場大体この辺でこの頃って言うくらいは流石に決めているけどね?」

「そ......それでどうやって合流するのですか?街中ならともかく......。」

「んー、ファラが......あ、さっきリィリさんが言っていたけど、情報収集してくれているのはファラって言うんだ。そのファラがこっちを見つけてくれるよ。」

「こんな場所では相手に情報の伝わりようが無いと思うのですが......。」

辺りには森があるだけで人里はおろか、街道すら付近には存在しない。
カザン君の疑問はもっともだと思うけれど、俺達は全く心配していない。

「それでもきっと見つけてくれると思うよ。」

流石に少しカザン君が言葉に詰まる。
まぁ普通は信じられないだろうね......野営をするのはそんなに楽な事じゃない。
食料には限りがあるし、水は貴重だ。
燃料は森があるからある程度どうにか出来るだろうけど......襲撃に対する警戒でゆっくり休むのは難しい。
魔物に野盗に......雨が降れば体力も奪われる。
そんな危険や苦労の多い野営を計画性もなくやっているのだと聞けば、カザン君の反応はもっともだと思う。
まぁ、俺たちの場合......食糧は確かに限りがある。
しかし水は......それこそ浴びるように使える......というか浴びるし浸る。
一応夜の見張りは交代でやっているけど......シャルやグルフのお陰で楽なもんだ。
そもそも魔物や大型の動物はグルフ達を警戒して近づかない......龍王国の時のようにおかしくなった魔物がいないとも限らないけどあれは例外だろう。
とは言え、魔物だろうが人だろうが近づいてくればシャルやグルフが気づいて知らせてくれるからね。
更にナレアさんのお陰で便利な魔道具も潤沢に使うことが出来るし......その気になれば魔法を使い、壁やら屋根やらを石で作ることだって出来る。
他の人達の野営と比べたら楽なもの......というか快適でさえあるだろうね。

『ケイ様。ファラがこちらに向かってきます。』

......噂をしたら来る。
流石ファラだね。

「シャル、ファラに気にせずここに来ていいって伝えておいて。」

『承知しました。』

ファラは基本的に人前に姿を現さないからね。
最初は部屋に入るように言わなかったらレギさんたちの前にも姿を見せなかったし。
今はカザン君とノーラちゃんがいるから呼ばないと絶対にここまで来ないだろうね。

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