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5章 東の地

第259話 やられたらやり返す

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「魔術的な仕掛けもなさそうじゃな。罠もなさそうじゃし、鍵さえあれば問題なく使えそうじゃな。」

鍵穴を調べていたナレアさんが、先ほどのレギさんと同じように顔を上げながら調査結果を教えてくれる。

「ここの鍵って心当たりある?」

「......いえ、それっぽい物は知りません。母に聞いてみましょう。」

俺の問いに少し考えたカザン君が答える。
鍵がすんなりと見つかるといいけど......次は鍵を探す必要があるのかな?
そもそも探していたのはなんだっけ......?



「書庫の本棚に鍵穴?うーん、聞いたことは無いですね。」

「そうですか......。」

俺とカザン君はレーアさんに書庫の鍵穴について尋ねに来たのだが、問いかけに対しレーアさんは眉をハの字に曲げながら答える。
残念ながら今度は鍵を探して館をさまよわなければいけなさそうだ。

「ですが、書斎の机の中にお父様の使っていた鍵束が入っているはずですよ。」

「そういえば、そんなものがありましたね。ありがとうございます、お母様。」

「それは構いませんが、皆様が探している物はあったのですか?」

「いえ、それも含めて書庫を探していたのですが、その時に鍵穴を見つけまして......ところで母様、この辺りの古い地図を見た覚えはありませんか?」

「古い地図ですか?地図その物は見た覚えはありません......ですが地図はかなり数があるはずなので、探せば古い物もあるかも知れませんよ。」

「そうですか、分かりました。探してみます。ではケイさん、書斎で鍵を取ってくるので先に書庫の方へ戻っておいてください」

「了解。それではレーアさん失礼します。」

「お力に慣れることがあったら遠慮なくお話しください。」

にこりとこちらに微笑みながら協力を申し出てくれるレーアさんにお礼を言って、俺とカザン君は部屋から出る。
書斎と書庫は別の方向なのでここで別れる予定だが......俺はなんとなくカザン君に着いて行くことにした。

「あれ?ケイさん、書庫は反対方向ですよ?」

「あー、うん。なんとなく、書斎についていこうかなと。もし書斎ですぐに鍵が見つからなかったら人手が必要かもしれないしね。まぁ、今書斎に置いてある書類を俺が見るのはまずいかもしれないから、当たり障りのない場所しか探せないかもだけど。」

「今はまだ大丈夫ですよ。父が使っていた書類はあるかも知れませんが、ケイさんが見て不味い物はないはずです。今後、私が本格的に政治に携わるまでは問題ないと思います。」

「そっか、じゃぁ見つからなかったら書斎をひっくり返すとしますか。」

「ケイさんが言うと物理的にひっくり返しそうで怖いですね......お手柔らかにお願いします。」

「あはは、精々部屋の中身全部吹き飛ばすくらいだよ。」

「......あはは。謝るんで勘弁してください。」

くだらないことを言い合いながら俺とカザン君は書庫へと向かっていると、ご機嫌な様子のノーラちゃんが廊下の向こうから歩いてくるのが見えた。
レーアさんも部屋に戻っていたし魔道具は十分堪能できたようだね。

「探し物は見つかりましたか?兄様、ケイ兄様。」

「いや、まだ見つかっていないんだ。」

「そうなのですか......じゃぁ私もお手伝いするのです!」

カザン君がノーラちゃんの頭を撫でながらこちらを見てくる。

「そうだね、目線が違うし、ノーラちゃんが手伝ってくれた方が見つかりやすいかもしれないな。お願いしていいかな?」

「はいなのです!」

俺は頷きながら答えるとノーラちゃんが片手を上げながら元気よく答える。

「じゃぁ、ノーラこれから書斎にいって鍵を探すから手伝ってくれるかい?」

「鍵なのですか?父様の使っていた束になっている物ですか?」

「うん、とりあえずそれかな。」

「了解なのです!」

意気揚々と先頭を歩くノーラちゃん。
俺達はその後ろを着いて行きながらその微笑ましい後ろ姿を見つめていた。



「......なんか、あの鍵穴に合いそうな鍵は見当たりませんね。」

「......確かに。」

あの本棚にあった鍵穴は少し丸い感じの鍵穴だったが、鍵束についている鍵は全て平べったいタイプの鍵だ。
恐らくあの穴には入れることすらできないだろう。

「まぁ、あんな感じに隠している鍵を普段使っている物と一緒にはしないのかな?」

「となると......やはり書斎をひっくり返す感じですかね......。」

カザン君がため息交じりに頭を抱える。
お父さんから色々な物を引き継げなかったことを悔やんでいるのではないだろうか?
俺はカザン君の肩を軽く叩く。

「そこまで深刻になる必要は無いよ。檻の事はあるけど......とりあえずじっくりこの部屋を探してみよう。いざとなったら俺が屋敷ごとひっくり返すからさ。」

「......ありがとうございます。そうですね、今は悩むよりも手を動かさないといけませんね。後屋敷をひっくり返すのは勘弁してください。」

カザン君が笑みを浮かべながら言ってくる。

「手がかりが無かったら屋根と床を逆さまにすることも辞さないつもりだったけど......まぁカザン君がそういうなら、止めるかどうか考えるとするよ。」

「......僕が頼んでも考慮してくれるだけなんですね。」

「ケイ兄様、家をひっくり返してしまうのですか!?」

しまった!
カザン君と二人で話していた時のノリで喋っていたけど、よく考えたら今ここにはノーラちゃんもいるのだった!
口をあんぐりと言った感じで大きく開けたノーラちゃんが、目を真ん丸にしながら慌てて尋ねてくる。

「そ、そんなことしないよー。誰がそんなこと言ったの!?」

「え......でも、さっき......ケイ兄様が......。」

「あ、あーアレかー。違う、違うよー。ほら探し物する時に家をひっくり返す様にって言い方することあるでしょ?あれだよ、あれ!」

「そうなのです?」

「そうなのですよ!」

ノーラちゃんの家を吹き飛ばす話をして泣かせたとか、色々な意味で不味すぎる。
俺の言い訳を信じてくれたのかノーラちゃんが落ち着きを取り戻す。
せ、セーフか?

「いやー、ケイさんは鍵が見つからなかったら家を吹き飛ばすってさっき言っていたよ、ノーラ。」

「やっぱり言っていたのです!大変なのです!」

おのれ!
カザン、貴様!

「そんなことしないよー。」

冷や汗を垂らしながら言う俺の否定の言葉は、再び慌てふためくノーラちゃんの耳には届いていないらしい。
大急ぎといった感じで色々な場所を探し始めるノーラちゃん。

「......。」

俺がカザン君の方を向くと顔を逸らして肩を震わせている姿が見える。
妹を使って攻撃してくるとは......なんたる外道!
もしこの部屋で鍵が見つからなかった場合、俺達は書庫の方に移動することになるだろう。
そしてその場合間違いなくノーラちゃんは、俺が家をひっくり返すと言ったことをナレアさん達に言うだろう......その先の展開は......。
これはまずい、非常にまずい。
ノーラちゃんを使ってひたすら弄り倒してくるパターンと、ノーラちゃんを虐めたとして折檻されるパターンが考えられる。
どっちも最悪だ......せめてカザン君を巻き込みたい......。
いや、この部屋で鍵を見つけてからノーラちゃんに口止めをすれば......なんとかなるか?
そうと決めた俺は急いで行動に移す......。

「とりあえず机周りが怪しいかな?引き出しとか開けても大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ。ところで、さっきまでよりもなんか必死になっています?」

微妙ににやけた顔でカザン君が応える。
......ソノニヤケヅラヲユガマセタイ。

「......そっちの引き出しを調べてくれるかな?カルナさん。」

「あ、は......ぃ......。」

サーっという音が聞こえてきそうなくらいカザン君の顔色が一気に青くなる。

「......あの......ケイ、さん?」

「どうしたの?カルナさん?」

笑顔ながら顔面蒼白と言った感じのカザン君の動きが完全に固まる。

「あ、そう言えばノーラちゃん。」

「なんですか?ケイ兄様。」

本棚の下の部分にある引き戸を覗き込んでいたノーラちゃんが、顔をあげてこちらを向いた。

「ちょっと気になったんだけどさ、カザン君がカルナさんになった時の服って、誰の服だったのかな?ナレアさんは小柄だから、リィリさんの服かな?」

「あれはナレア姉様とリィリ姉様の二人の服を色々と組み合わせたのです。」

「へぇ、そうなんだー。因みにお化粧は?」

「それもお二人が持っていた物を色々使ったのです!私もお手伝いしたのです!」

ノーラちゃんが嬉しそうに語る中、カザン君が視界の隅で石のように固まっているのが見えた。

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