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5章 東の地

第269話 お手軽だけどこうかはばつぐんだ

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「ナレアさんの用事が全部終わったみたいで、後四日くらいで戻ってくるってさ。」

執務室で書類に目を通しているカザン君に、先ほど連絡があったナレアさんから聞いた話を伝える。

「流石、予想以上の速さですね。龍王国まで片道四日ですか......馬車だと一月でもたどり着けないと思います。安全な道はありませんからね......。」

「そうだね......俺達は人目に触れない様に移動しやすかったけど......普通に移動するにはかなり厳しい道のりだったと思う......っていうか道はなかったね。」

「そうですね......グラニダの領内は比較的街道整備が進んでいますが、やはり自領の街道整備は利益も多いですが危険も多くなりますからね。それに何より時間とお金がかかります。」

何やら書いていた手を止めて、カザン君が難しい表情で頬杖をつく。

「ある程度余裕がないと手が付けられないってことだね。」

「そうですね。グラニダは外勢力の抑え込みが出来ていたので比較的街道整備に力を入れることが出来ましたが......他の場所では難しいでしょうね。」

人が動くから物が動いてお金が動くって話だからな......動くための下地......道が必要で、安全が必要で......それを確保するにはお金が必要で......その為のお金って最初はどこにあったものなのだろうか......?
生活に使う道は歩きやすい場所とか移動しやすい場所が使われ続けて踏み固められた、とかはありそうだけど......この世界は村と村の距離が非常に遠い。
そう簡単に移動は出来ないし......お互いの村の人達が行き来しやすいように整備したとかなのだろうか?
そういえば、権力者が強引に道を作るって話もあったっけ?

「道を作るときってやっぱり人を雇って作るんだよね?」

グラニダの道はどうやって作ったのか気になったのでカザン君に聞いてみた。

「道を作る場所によりますね......後は兵役の一環で作ったり、犯罪者を集めて作らせたりとかもありますね。」

対価を支払わないタイプか。
まぁ、兵役の場合はお給料は出ているのだろうけど。
犯罪者の場合は、ご飯とか寝床?
かなり酷使されていそうなイメージはあるけど......道づくりって大変なんだろうな。
地面を固めるのは......丸太とかで叩くイメージがあるな。

「公共事業で雇用を算出するってのも聞いたことがあるなぁ。」

ふと年末の道路工事ラッシュを思い出した。

「公共事業、ですか?」

「うん、今カザン君が冒険者......レギさんを使ってやっている事の範囲をもっと広げた感じかな?専門的な知識の要らない作業を、手に職を持っていないような人達を募って従事してもらうんだ。簡単な作業だったら子供とかでも出来るからね。」

「子供ですか......確かスラムには身寄りのない子供が徒党を組んで生活していると聞いたことがあります。相手が子供となると雇う方もあまりいないので、非合法なものに手を染めることも少なくないと......元々レギさんにお願いしている冒険者の試用も、運用開始後はスラムの貧困層を対象に考えていましたが、大規模な公共事業で雇用を生み出すというのも並行してやるのもいいかもしれませんね。」

頬杖を止めたカザン君が、少し考え込むようにしながら自分の意見を纏めていく。
トップダウンは意見の反映が早そうでいいね。

「お金はかなりかかると思うけどねぇ。」

「......すぐには出来そうにありませんね。あまり先送りにもしたくないですが......こうなってくると檻に魔晶石の輸出をしたい気もしますね。」

あはは、と苦笑するカザン君。
色々と含むところがある相手だろうけど、冗談が言えるくらいには気にしないでいられるようだ。

「まぁ、気持ちは分からなくはないけど......売った後で碌な使い方されないだろうからねぇ......。」

自決用とか魔物を操ったりとか......他にも色々厄介なものを作っていそうだ。

「そうですよね......記録は残っているでしょうが、今後取引はしない様に厳命しないといけませんね。」

引出しから羊皮紙を取り出したカザン君が何やら書き込んでいる。
そろそろ邪魔になりそうだし、お暇するかな?

「あ、ケイさん。もう少し意見を聞きたいので付き合ってもらっていいですか?」

「ん?それは構わないけど......。」

俺が仕事の邪魔をしない様に下がろうと考えたのを察したのか、カザン君が先手を打って俺を引き留める。
まぁ、俺は大丈夫だけど、カザン君はいいのかな?
ここ最近は書類仕事や会議が多くなってきたみたいだし。
以前のように寝る時間が無くなるほどではないみたいだけど......忙しさが増していっているみたいだし、身体には気を付けて欲しい所だ。
まぁ、俺とこうして話しているのも息抜きになるみたいだし、もう少しここで邪魔しない程度に話をしていよう。
カザン君は作業は続けるようだし、俺も雑談ついでに魔法系の魔道具作成でもしようかな。
そう考えた俺は、懐から魔晶石をいくつか取り出す。
ノーラちゃん用のバージョンアップ版空中移動用魔道具も必要だけど、カザン君の回復用の魔道具もそろそろ作っておかないとな。
ナレアさんが戻ってきたらそう遠くない内にグラニダから出るだろうしね。

「何をされるのですか?」

完全に手を止めてこちらを興味深そうな目で見るカザン君。
相談したいことがあったのでは......?
まぁいいけどね。

「魔道具を作ろうかなと思ってね。話しながらでも出来るから気にしなくて大丈夫だよ。」

「......見学させてもらってもいいですか?」

「それはいいけど......いいの?」

俺が若干苦笑しながら問いかけると照れたように頬を掻きながら執務机から立ち上がりこちらに近づいてくるカザン君。
なんか宿題をしている友達の家に遊びに来ちゃったみたいな気分だな。

「ま、まぁ、休憩がてらということで。ケイさんはナレアさんに魔道具作成を習っているのですか?」

「いや、相談には乗ってもらっているけど、俺に最初魔術式の書き方を教えてくれたのは別の人だよ。」

まぁ、本当に最初の最初を教えてもらったくらいだけどね。
好意で教えてもらったのだから文句は全くないけど。

「なるほど......その内ナレアさんに領内の技術指導を頼みたいものですが。今回は無理ですね。」

「グラニダから発ってもまた遊びに来るよ。それに、その内簡単に遊びに来られるようにするつもりだしね。」

「何か当てがあるのですか?」

「うん、今はまだ使えないけど、近いうちにね。」

妖猫様の空間魔法が使えるようになれば、恐らく空間転移とか出来るようになるはずだ。
そうなればいつでもカザン君達の所にこられるようなるだろう。
......俺と相性が悪いとかで使えないとかなったらどうしよう?
絶対使いたい魔法ではあるけど......最悪俺が使えなかったとしてもナレアさんが使えれば......いや、やっぱり自分で使いたい!

「それは楽しみですね......ところで、魔道具を作るのに羊皮紙や魔道具は必要ないのですか?」

「うん、これから作るのはナレアさんがいつも作っている魔術を使った魔道具じゃなくって、魔法を使った魔道具だからね。」

「あぁ、ノーラが使っている特殊な魔道具ですか。どうやって作るのですか?」

「普通の魔道具よりも作るのは簡単だよ、こうやって魔晶石を手に取って......意識を手に集中しながら魔法を中に閉じ込めるに発動する。」

興味深げな眼差しで俺の手を凝視しているカザン君。
なんか目を輝かせている感じがノーラちゃんそっくりだ。
こういう所は物凄く兄妹って感じがするね。

「それからどうするのですか?」

「ん?これでおしまいだよ。」

「え?」

俺の手を見ていたカザン君がぽかんとした表情で顔を上げる。

「これでおしまい。もう魔道具は出来たよ。」

「もう出来たのですか?一瞬じゃないですか。」

「うん。魔術式を使った魔道具より作るのは簡単って言ったじゃん?」

「いや、簡単......と言っていいのかは分かりませんが、早すぎますよ。」

「お手軽でいいと思うけど......。」

「......まぁ、楽に越したことはないですけど......ところで何の魔道具を作ったのですか?」

何故か微妙に納得いって無さそうなカザン君だったが、魔道具そのものに興味が移ったようだ。

「これは、カザン君用の疲労回復力向上の魔道具だよ。」

「私用?」

「うん、俺達がグラニダから離れたら魔法をかけてあげられないからね。置き土産って所かな?」

そう言いながら即効性のある体力回復の魔道具も作る。
後はノーラちゃん用の魔道具を......高さと速さを二段階分作っておくかな?
目を丸くしたカザン君を尻目に俺は魔道具作成を続ける。
グラニダを離れる以上、他にも作ってあげておいた方がいいよね。

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