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6章 黒土の森

第275話 まずは手前まで

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皆大体ファラに聞きたいことは聞いただろうか?
俺が皆の顔を見渡すととりあえずは問題ないと言う様に頷いてくる。
じゃぁ、最後に俺から......。

「森の深部、地面が黒くなっている所の調査だけど......何かしら神域の痕跡はあったかな?」

『申し訳ありません。今の所それらしきものは何も発見出来ておりません。』

「そっか......やっぱり一筋縄ではいかないみたいだね。」

もしかしたら神域を見つけることは出来ていなくても、何かしら違和感を発見出来ているのではないかと期待していたけど、それも難しかったか。

『申し訳ありません。』

「いや、当初の予定通り広大なこの森から調べないといけない範囲を狭めてくれたのだから十分だよ。ここから先はみんなで調べて行こう。」

『はい。』

ファラが落ち込む前にみんなで調べることを強調する。
先手を打って次の仕事の方針を決めるように動いていけば、ファラが落ち込む暇はないだろう。

「とりあえず、ファラが見つけてくれた地面が黒くなっている所を目指しますか?」

「そうだな。それが幻影じゃないと言い切れないのが今回の怖い所だな。」

「......そうですね。地面だと思って歩いていたら断崖絶壁だった、とかもあるかも知れません。」

「恐ろしいこと言うなよ......。」

レギさんが顔を顰めながら言ってくる。

「......じゃが、ケイが言うことももっともじゃ。向こうに見える森は本当はないかもしれぬのじゃ。」

ナレアさんの言葉に全員が森の方へと目を向けてしまう。
......あるよね?

「......幻を見せる魔法って言うのが、どんな物なのか分からないのが厄介だな。ケイが言ったことも、ナレアの言ったこともありそうで怖えな。」

「母さんは何でもありって言っていましたからね......仙狐様に近づくときは何も信じてはいけないと。」

「そう言うの苦手だなぁ......。」

リィリさんが困ったように眉をハの字にしている。

「あそこに見えている森は実は平地で、今妾達のいるこの場所が黒土の森かもしれぬのう。」

「ありえないとも言い切れないんだよな?」

レギさんが俺の方を見ながら、若干恐る恐ると言った様子で聞いてくる。

「そう、ですね。シャル、どう思う?」

『......恐らく、森は実在している......と思います。』

ここまで自信なさげなシャルは初めてだな。
物凄く新鮮ではあるけど、そんな悠長なことは言ってられないな......。

「ファラとマナスは何も感じなかった?」

二人は頷く......マナスは跳ねたけど。

「うん、警戒は必要ですけど......行くしかありませんね。少なくともファラやマナスが先行偵察してくれていますし、自分で言っておいてなんですが、いきなり地面が消えることはないと思います。」

「そうだな。ここから見ても判断はつかないんだ。尻込みしていた所で何も変わらねぇし、いつも以上に慎重に行くしかないな。」

「そうですね。一応いつもより五感強化を強めにかけておきましょう。」

その後も俺達は明日以降の探索の話を進めながら野営を続けた。
正直不安は尽きないけど......皆がいれば何とかなるよね。



鬱蒼と生い茂る木々は、長年人の手が入っていないことを物語っている。
木の種類はよく分からないけれど、非常に背の高い木々が陽光を殆ど遮っていて森の中は相当暗かった。
母さんの神域のある森も人の手の入っていない物ではあったけど、こちらの森は木の種類のせいか土のせいか分からないが、あの森よりも暗く土の匂いが強い。
それに生き物の気配が強い。
シャルやグルフがいるからか近寄ってくることはないみたいだけど、普段より五感を強化しているお陰か俺にも生き物の......恐らく魔物の気配が感じられる。
森と一言で言ってもやはり場所によって全然違うね。

「なるほど......確かに土が黒いな。」

しゃがみ込んで土を触っていたレギさんが掌に載せた土を払いながら立ち上がる。

「触った感じも少し湿り気があるような気がするが普通の土じゃな。匂いもそうじゃが......身体に害があるような感じでもなさそうじゃ。」

同じくしゃがみ込んで色々と調べていたナレアさんも立ち上がった。
二人が土を調べている間、俺とリィリさんは周囲を警戒していたが特に近づいてくる魔物はいなかった。
シャルやグルフがいるから敢えて近づいてくるような魔物は......滅多にいないだろう。
勿論、グルフと出会った時の事を思い出すまでも無く、絶対襲われないという訳ではない。
まぁ、人間に限らず......群れると気が大きくなるのだろうね。

「ファラちゃん。拠点に出来るような開けた場所ってこの辺にあるかな?」

『はい、拠点に出来そうな場所はいくつか確認しています。ここより奥はまだ探索が進んでいませんが数カ所は見つけてあります。奥へと進みますか?それとも手前に戻りますか?どちらもそこまで離れておりませんが。』

「とりあえず手前がいいと思うけど......どうかな?」

ファラと話していたリィリさんがこちらを見ながら聞いてくる。

「そうですね、僕も暫くは黒くなっている所からは外れた場所を拠点にした方が良いと思います。」

「あぁ、俺もそれでいいと思うぜ。」

『では、案内いたします。皆様こちらへ。』

ファラが拠点となる場所へ俺達を案内してくれる。
とりあえず拠点を作って、探索開始はそれからだね。
暫くは持ってきた食料もあるから大丈夫だろうけど、食料の確保も同時に行って行かないと食料が突きてからじゃ遅い。
ファラの先導に従って移動する事少々、少し開けた場所に辿り着いた。
水場もそこまで離れていないようだね、川のせせらぎが聞こえてくる。
開けた場所とは言え、そこまで広くはない......お風呂はどの辺に設置したらいいだろうか?
ここを拠点にどのくらい活動するかは分からないけど、お風呂の設置は必須だろう。
しかし......少し離れた位置に作ろうにも......よさげな場所がないな......。

「なんかケイ君が困ってるね。」

「放っておくのじゃ。あれは風呂の事でも考えておる顔じゃ。大方、どこに設置するのがいいか悩んでおるのじゃろ。」

「まぁ、ケイ君だしね。でもお風呂はすっごい助かるから頑張って設置して欲しいね。」

「風呂に関しては妥協をしない奴じゃからな。放っておいた方が良いものを作るじゃろう。」

何やらナレアさん達がこちらを見ながら喋っていた気がするけど......まぁ用事があるようなら話しかけてくるよね。
それよりも......どう作ろうか......景色が良ければ色々凝った物を作りたい所だけど......森のど真ん中......視界は非常に悪い......。
水辺の方に行ってみるか、少なくとも此処よりは視界が開けているだろうしね。

「ちょっと水辺の方に行ってきますね。」

「あぁ、分かった。生水は飲むなよ?」

「はい、大丈夫です。お風呂を設置できる場所がないか見てくるだけなので。」

「......そうか。毎度の事ながら野営の時に言う台詞じゃないな。」

若干あきれ顔のレギさんが嘆息しているが......好きなものは仕方がない。
レギさんにとっての仕事、リィリさんにとってのご飯、ナレアさんにとっての......遺跡とか魔道具とか本とか......まぁ、そんな感じの物だろう。

「今更だねー。私もお風呂は楽しみだからケイ君がんばってね!」

「了解です。じゃぁ行ってきます。」

「いってらっしゃーい。」

リィリさんの声援を受けて俺は気合を入れ直して水辺へ向かう。
偶にはちょっと凝った感じのお風呂作りたいけど......そんなに長くは使わないだろうしなぁ......いや、だからこその贅沢か?
いつもバスタブみたいな感じにしているから......岩風呂チックな物を作ってみようかな?
景色が良ければいいけど......期待は出来ないかな?
森の中だしね......。
いやいや、森林浴と入浴を同時に行う的なイメージか?
夜向きじゃないか......。

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