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6章 黒土の森

第281話 悪い癖

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予想以上に貴重な情報を巨大な蛇の魔物から得た俺達は、今後の方針を相談していた。
各場所へのルートはファラが蛇の魔物から詳細に聞き、マッピングしていたのでどこに向かうにしても問題なくたどり着けるだろう。
後は何処に向かうかってことだけど......。

「さて、どこに向かう?」

レギさんが俺達を見渡しながら問いかけてくる。

「地底湖じゃな。」

「地底湖だね。」

ナレアさんとリィリさんがその問いに即答する。
まぁ、俺も一番気になるのは地底湖だけど。

「そうですね、僕も地底湖に行きたいです。」

「まぁそうだろうな。あの蛇をして近寄ることすら能わずって言うんだから、地底湖以上に怪しい場所は今の所はないよな。」

個人的には幻術で近寄ることが出来ない、気づくことが出来ないってパターンを考えていたのだけど......物理的に強力な魔物がいるせいで近寄ることが出来ないってのは予想していなかったな。
っていうか魔物の中で会話出来るのはあの蛇の魔物くらいだって本人?は言っていたけど、それで魔物同士の情報共有は出来ているのだろうか?
いや......動物も危険な場所の共有はどうやってかは知らないけど出来ているみたいだし、そう言った感じなのかな?
動物......いや、魔物だけど、会話が出来るのだからそう言った不思議に思ったことを色々と聞いてみたい気もするな......。

「危険度は間違いなく今までの比じゃないぞ?」

「じゃが、行かないと言う選択肢はないのじゃ。後に回そうと必ず行くことになるじゃろう。ならば先に調査した方がいいじゃろ?ただでさえ探索は疲労が溜まるしのう。」

......俺は思考を明後日の方に飛ばしてしまう癖を何とかした方がいい気がする。
余計な事を考えている内にレギさん達が方針についてどんどん話を進めてしまっていた。

「まぁ、それもそうだな。」

「じゃぁ、次は地底湖の調査に行くとして、今日の所はそろそろ戻らない?洞窟に入ってからも結構時間が経っているし、一回外に戻って休んでから明日再突入でどうかな?」

「それがいいじゃろうな。幸いこの洞窟内はそこまで危険ではなかったし、入り口にいるグルフと合流してその付近で野営をするとしよう。」

「明日はグルフちゃんも一緒でいいんじゃないかな?地底湖にまでグルフちゃんが通れない程狭い場所はないんでしょ?」

「そうらしいな。」

どんどんと話が纏まっていく......もしかしたら俺が余計な事を考えていたのがバレているのかもしれないな......。

「折角の野外での活動だし、あまり留守番させるのも可哀想だから一緒に連れて行こうよ。」

「危険じゃないか?あの蛇とグルフは同じくらいの強さなんだろ?その蛇が近づくのは無理って言っている場所だぞ?下手しなくても俺達も危険だぞ?」

「グルフには強化魔法を掛けてあげられますし、かけた状態での訓練もしているので多分大丈夫だと思いますよ。」

さも、今までもちゃんと会話に参加していましたよと言った感じで打ち合わせに滑り込んでいく。

「なるほどな。じゃぁグルフもつれて全員で地底湖には向かうとするか。」

「うむ、ではとりあえず洞窟の入り口に戻るとするかのう。」

ナレアさんの言葉を皮切りに、俺達はここまで歩いてきた道を引き返していく。
罠の類は行きに見つからなかったし、蛇の魔物が言っていた地盤の緩みだけ気を付けておけばいいだろう。
蝙蝠の魔物も倒したし、帰り道はそんなに時間はかからないだろうね。
そんなことを考えながら歩いていると、隣を歩いていたシャルがもの言いたげにこちらを見てるのに気づいた。

「どうしたの?シャル。」

『先程の話ですが......私としては強力な魔物がいるのでしたら是非グルフにケイ様の手助け無しで戦わせておきたいです。』

俺がシャルに問いかけると、シャルがグルフに対してスパルタなことを言い出した。
いや、修行とか特訓ってことなのだろうけど......流石にグルフを死地へ送り込むのは全力で止めたい。

「えっと......シャル。もう少し安全な感じの相手で実戦経験は積ませてあげられないかな?」

『申し訳ありません、ケイ様。お言葉ですが、安全を計った実戦では正しい経験とはなりません。それにグルフは自分よりも強い相手との実戦経験がなく、また同格の相手でさえ中々見つけることは難しいです。この森は比較的強めの魔物が多いようですし、この機会に実戦の経験は積ませたいと考えています。』

「......。」

シャルはシャルでちゃんとした実戦経験のないグルフの事を心配しているのは分かる。
でもな......流石にどんな危険が待っているかも分からないところに突っ込ませるのは......。

「せめて、地底湖はやめない?どのくらいの強さか分からないんだ。もし地底湖にいるのが仙狐様の眷属であったなら、グルフを挑ませるのも心証が悪いしね。湖か巨木地帯にグルフに行かせて実戦を積ませる。その時にグルフに気付かれない様にシャルかマナス、ファラの誰かを付けてくれないかな?」

甘いと言われようと、最低でもこのくらいの安全マージンが無いと送り出すことは出来ない。
そう言った意思を込めてシャルの事を見つめる。

「......承知いたしました。」

俺と目を合わせていたシャルは一度ゆっくり目を瞑ってから答えた。
納得......してくれたのだろうか?

「えっと......シャル怒ってる?」

『いえ......ケイ様はお優しいですから、恐らく地底湖の件について許可は出ないだろうと思ってはいました。ですので......保護者付きであっても、グルフが同格かそれ以上の者と戦うことを許可して頂けたことに少しだけ驚きました。』

「......まぁ、俺もこの神域を飛び出してからそれなりに過ごしているからね。この世界で俺達やグルフが飛びぬけた能力を持っていることは理解しているつもりだけど、それでも実戦では常に何が起こるか分からないって考えているよ。そういう時に経験があるのとないのでは対応力に大きく差が出る......俺が過保護にグルフを戦わせなかったせいで、いざという時にグルフが大変な目にあってしまったとしたら......って思うとね。」

もしそんなことになってグルフが大怪我......いや、死んでしまったとしたら俺は絶対に自分を許さない......だからこそ最悪の状況になる前に、俺達の手の届くところで経験を積ませたいのだ。

『......ありがとうございます。そこまでグルフの事を思って頂けてアレも喜ぶと思います。』

......グルフの為、なのだろうか?
俺が俺自身を納得させるためのような気もする......うーん、罪悪感が......。
俺がそんな罪悪感に苛まれていると、シャルの反対側を歩いているナレアさんが声を掛けてくる。

「シャルの声は聞こえぬが......ケイはまた余計な事を考えておるようじゃな。」

「......。」

真っ直ぐこちらを見つめてくるナレアさんの視線を受けて、気まずくなった俺は視線をそらしてしまう。

「ケイよ、自虐は止めるのじゃ。それはお主の悪い癖じゃぞ。もっと自分の心を素直に受け止めるのじゃ。理由を付けて悪ぶる必要はないと思うが......そうじゃな。ケイの場合は周りの事を考えてやると良いのじゃ。」

ナレアさんの言葉に俺は視線を戻す。

「周りの事を考える、ですか?」

「うむ。妾は......妾やシャル、それにレギ殿達やカザン達。皆がケイの事を好いているのはお主のその在り方じゃ。ケイ自身が自分の想いを否定することは、妾達のケイを好いておる想いをも否定することじゃ。そんなことをされて、妾達の気分がいいと思うかの?」

「......すみません。」

確かにその通りだ。
例えそれが本人であったとしても、自分の好きな人がその在り方を否定されるのは気分が悪くなる。
俺の事を、俺の考え方や行動を見て慕ってくれている人達がいるのであれば......俺に俺自身を否定する自由はないってことだ。

「ごめんね、シャル。」

ナレアさんに謝った後、シャルにも謝る。
シャルはこちらを見返した後、何も言わなかったが......少しだけ機嫌が良さそうに尻尾を揺らした。

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