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6章 黒土の森

第285話 思い出してはいけないことがある

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「リィリよ、そろそろ落ち着いたかのう?」

「え!?わ、私はいつも通り落ち着いてるよ!?普通だよ!?」

全く落ち着いていないリィリさんが、何やらわちゃわちゃしながらナレアさんに言う。
目は真っ赤だし鼻声だしで......何と言うかフォローのしようがない。
因みにレギさんは俺とナレアさんが背を向けている間、ずっと手を上げたり下げたりを繰り返していたようだ......そこはもっと......しっかりしてくださいよ!
そんな思いを込めてレギさんを若干半眼になりつつ見ていると気まずげに視線を逸らされた。
ナレアさんもそんなレギさんの様子を見ていたのかため息をつきながら何やらボソッと呟いている。
残念ながら先ほどまでのリィリさんの......色々な台詞を聞かない様に聴覚強化を切っていたのでナレアさんの呟きは聞こえなかったが、まぁ間違いなくレギさんに対して不甲斐ないとかなんだとか言ったのだろう。

「さ、さー、それじゃぁこれからどうするのかな!?進む?進んじゃう?進んじゃおうか!?」

「いや、本当に落ち着くのじゃ、リィリ。一度上に戻るのじゃ。ファラとも合流して......少し打ち合わせをして、進むのはそれからじゃ。」

「そっか!うん、落ち着いたよ!大丈夫!じゃぁファラちゃんを迎えに行こうか!」

そう言ってリィリさんは大手を振って元来た道を戻っていく。

「こら!リィリ!迂闊に進むでない!何があるか分からぬのじゃぞ!レギ殿!リィリをしっかり捕まえておくのじゃ!」

「お、おう。すまねぇ。」

何か......ナレアさんがめちゃくちゃ苦労しているな......。
しかし......いつもはのほほんとしながらも、しっかりしているリィリさんが慌てふためいているのを見ると、最初に会った時の事を思いだ......。
そこまで考えた俺はそれ以上思考を進めるのを止める。
一瞬で急接近したリィリさんが抜き身の剣を俺の喉元に突き付けていたのだ。

「ケイくーん。ナレアちゃんやシャルちゃんには悪いけど、それ以上は許さないよー。」

俺が小刻みに頷くと完全に座った目をしたままリィリさんが剣を鞘に納める。
しかし顔は真っ赤だ。

「ケイよ。これ以上リィリを刺激するでないわ......。」

「す、すみません。」

俺が......悪いのだろうか?
いや、こういう時は全て俺が悪いのだ......そうしておく方が世界は平和になる。
色々な物を諦めた俺は先を歩くリィリさんとナレアさんに着いて行くことにした。
あ、上に戻る前にファラに戻ってくるように伝えておかないとな......。

「マナス、ファラにこっちに来るように伝えてくれる?」

肩に乗っているマナスに伝えると、既に伝達済みだと言わんばかりにマナスが俺の肩の上で跳ねた。



大空洞から出て洞窟の上層部に戻った俺達はファラと合流して状況報告をしあった。
ファラのほうは特に問題なく、蛇の魔物から聞いていた通り強めの魔物が何体か確認できただけで他に危険はなかったようだ。
そして俺達の話を聞いたファラは......少し落ち込んでしまった。
ファラはこういう所俺に似ているのかもしれないな......。

『なんとか幻を判断する方法を見つけ出したいものです......。』

ファラに出来るのは強化と軽い回復......弱体魔法が使えないので、五感を自分で殺すという母さんの教えてくれたコツが実践出来ないのが相当悔しいのだろう。

「まぁ、こればっかりはね。でもファラなら魔法に頼らない方法を見つけられるかもだね。」

『精進いたします。』

......真面目だなぁ......こういう所は全く似てないと思う。

「とりあえず方針としてはこの下にある大空洞を全員で調べて行くが、間違いなくあの地面以外にも幻惑魔法が掛けられているはずだ。」

レギさんが纏めるようにこれからの方針を決める。

「幻惑魔法については、僕とシャルでなんとか調べながら進みます。」

「分かった。じゃぁ最前列は......。」

「僕達が行きます。」

探知役の俺達が一番前に出なかったら意味はないだろう。
ファラもいるので最前列に俺達が立てば幻系のトラップ以外への対応も問題ないはずだ。

「では、妾もその横を行こう。横の対応は妾に任せるのじゃ。」

「じゃぁその後ろは私が行くね。レギにぃとグルフちゃんで最後尾をお願い。」

「了解だ。」

レギさんと同時にグルフがわふっと返事をする。
隊列はこれでいいとして......。

「どこから調べますか?」

「谷底も気になるが、地底湖も気になるな。」

「確認し忘れていましたが......あの地底湖、本当にあるのですかね?」

レギさんの言葉にふと疑問に思ったことを口に出す。

「地底湖が幻ってことか?」

「はい......さっき落ちた場所ですが、相当広かったですし......あの天井では水を支えられないと思います。水が染み出て来ていた様子もありませんでしたし。」

「そういえば、そうだったな......よし、大空洞に戻ったらまずはそこを調べてみよう。実は地底湖なんて存在せずに完全に切り立った崖になっている可能性もあるようだしな。」

「ふむ、了解じゃ。」

方針を決めた俺達は早速先ほどの大空洞へと向かう。
向かうのは二度目ということもあり、短時間で坂を下り終えてもう少し進めば大空洞の入り口という所まで戻ってきた。
さて......ここからだね。

「じゃぁシャル、幻惑魔法の感知は任せるね。念話は出来そう?」

『はい、大丈夫です。ですが、ケイ様の声は聞こえなくなると思いますが。』

「念話を受け取ることは出来るかな?」

『はい、先ほど試したところ念話であれば会話が可能でした。ファラに伝えてもらえればそれで大丈夫です。』

「了解。じゃぁよろしくね、シャル。きつくなったらすぐに教えてね。」

『承知いたしました。ありがとうございます。』

俺が子犬姿になったシャルを胸に抱くと一瞬シャルの体が強張ったがすぐに弛緩する。

「ファラ、シャルへの中継よろしくね。とりあえず大空洞に着いたらそれを伝えてくれるかな?」

『承知いたしました。』

ファラが頷いたのを確認した後俺達は歩を進める。
シャルをしっかりと抱えている俺は片手がふさがっている。
利き腕は開けているけど、何かあった時にシャルを守らなければならないから、咄嗟の処理は横にいるナレアさんや肩に乗っているマナスに任せることになる。
俺の仕事はシャルの護衛だ。
こう言うとシャルは嫌がるかも知れないけどね......まぁ、偶には守らせてもらうのもいいだろう。
そんな風に考えながら進むとすぐに俺達の目の前には先ほどと変わらない姿を見せる大空洞、そして地底湖が広がっている。
さて......どうだろうか......。

『ケイ様。どうやらケイ様が先ほどおっしゃられていた通り、この地底湖は幻のようです。かなり広大な範囲に魔力が広がっているそうです。』

「やっぱり地底湖自体が幻か......さっき方角を変えずに湖の方に進んでいたらもっと早く落下していたって感じですかね?」

「じゃろうな......。」

「とりあえず、先ほどレギさんが落ちた場所まで行きましょう。あそこなら安全に下に降りることが出来るので。」

「了解じゃ。しかしどうやって降りる?妾とケイで一度に全員降ろせるかのう?」

「レギさんとリィリさんにはグルフに乗ってもらいましょう。そして僕達でグルフを支えて降りればなんとかなるかと。」

「降りるだけならば問題ないじゃろうが......空中で襲われたら不味くないかの?」

確かに......さっきはかなりのスピードで落ちて行ったからそれを気にする余裕は無かったけど、ゆっくり降りていたら飛行型の魔物に襲われる可能性もあったのか......。

「一応さっき登ってくる時は襲われませんでしたが......。」

「ふむ......じゃが念の為、妾かケイのどちらかは自由に動ける状態にしておいた方が良いと思うのじゃ。」

「それもそうですね......ですが、一人ずつ下に降ろしていくとなると......何回か往復しないと行けなくなりますし......あまり少人数に分かれるのは良くないかと思いますが。」

「悩ましい所じゃな......ケイ一人でグルフを支えられんかの?」

俺一人でグルフをか......グルフのお腹に回り込んでおんぶするような形であれば......いけるかな?

「多分大丈夫......だと思います。」

「では、すまぬがケイが皆を下まで降ろしてくれるかのう?妾は周囲警戒をするのじゃ。」

「分かりました、それでお願いします。」

『ケイ様。お話し中の所申し訳ありません。後十歩程で地面が途切れているようです。』

ナレアさんとどうやって下に降りるかを打ち合わせをしながら歩いていると、ファラが警告してくれる。
どうやら先ほどの場所まで戻ってきたようだ。

「ありがとう。シャルに下に降りることを伝えて、俺じゃなくてリィリさんに抱っこしてもらうって伝えておいてくれるかな?」

『畏まりました。』

さて、上手いこと安全に皆を下に降ろさないとな。
俺は体をほぐす様に肩を回して腰を捻る。

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