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6章 黒土の森

第316話 新たなる加護

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爪牙達との模擬戦の翌日、俺達は全員で仙狐様の所へと来ていた。

『世話を掛けたな。』

「いえ、私達もいい経験をさせて頂きましたので。」

仙狐様の労いを受け俺は素直に返す。
昨日はギャラリーがいなくなった後も爪牙の三人と何度も模擬戦を行った。
途中からはレギさんやリィリさん、グルフやファラなんかも参戦して色々な組み合わせで戦った......シャルと霧狐さんはずっと見ているだけだったけど。

『お前の眷属は、数は少ないが見事なものだと聞いた。』

「ありがとうございます。皆にはいつも助けられているので......不甲斐ない主だと反省しています。」

『......お前は面白い。』

そう言いながら目を細める仙狐様。
雰囲気もどことなく楽しんでいるような感じを受ける。
その様子を見て、依頼は無事に終えることが出来たかなと思った。

『期待以上だ。感謝する。』

どうやら満足いく結果だったようだ。
恐らく大丈夫だと思っていたけど、やっと安心できたね。
それにしても......この仙狐様が昔はあんな......あ、やばい。

『......忘れろ。』

「......すみません。」

相変わらず俺は学習しないな......。
拳で何度か額を叩いた後、仙狐様に向き直る。

『では、加護を授ける。お前とそこの女だな?』

流石に切り替えが早い......。

「はい。よろしくお願いします。」

「ナレアと申す。世話になるのじゃ。」

仙狐様は一度頷くと目を瞑る。
それに合わせて俺も目を閉じた。
加護を受ける際、何か劇的なことが起こるわけでは無い。
ただ、気持ちを楽にして......リラックスしていれば......。

『加護は無事与えられた。研鑽に励め。』

仙狐様から完了の声がかかり、俺は目を開ける。
特に何かが変わった感じはしないけど......敢えて言うなら、早く試してみたくてソワソワする。

「ありがとうございます!」

「感謝するのじゃ。いつか成果の程を見せに来ると約束するのじゃ。」

『楽しみにしておく。』

そう言ってナレアさんをじっと見る仙狐様。
どうかしたのだろうか?

『お前、俺の眷属になるか?』

唐突に仙狐様がナレアさんを勧誘した。
え?
何で突然!?
俺だけではなくリィリさんやレギさんも目を丸くしてナレアさんを見つめる中、ナレアさんは顎に手を当てて少しだけ考えるそぶりを見せた後首を横に振った。

「ありがたい申し出なのじゃろうが......今は遠慮しておくのじゃ。」

そう言ってナレアさんは仙狐様に頭を下げる。

『そうか。それも面白い。やってみると良い。』

「......ほほ。感謝するのじゃ。」

ん......ん?
会話が繋がってない感じだけど......あぁ、ナレアさんの頭の中と会話した感じか。
ナレアさんが何を考えているかは分からないけど......少なくとも仙狐様が面白いと思うような何かなのだろう。

「......なんじゃ、ケイ?そんなに見つめられても何も言わぬぞ?」

俺がじっと見ていることに気付いたナレアさんが、俺から顔を背けながら言う。
いや、別に聞こうとしていたわけではありませんが......そんな風に言われると気になりますよ。
そんな思いを込めて続けてじっと見つめていると、今度は体ごと向こうを向いてしまった。
どうやら本当に教えるつもりはないらしい。
まぁ、言いたくないという事だし諦めよう。

『物分かりが良いと言うのも考え物だな。』

「......?」

仙狐様が何やら呟いたというか、嘆息した気がするけど......。

『気にするな。それよりこれからどうする?』

「ご迷惑でなければもう少し神域に滞在させてもらってもいいでしょうか?仙狐様に頂いた加護を用いて、眷属の方ともう一度模擬戦をする約束をしているので。」

爪牙の三人と幻惑魔法と身体能力のみで模擬戦をする約束をしているのだ。
強化魔法無しだと俺はかなり弱いし、幻惑魔法にもまだ慣れていないから勝負にならない気もするけど......。

『構わぬ。』

「ありがとうございます。」

俺がお礼を言うと一度頷いた仙狐様が傍らに置いてあった魔晶石を咥え、こちらに放り投げて来た。

『妖猫の神域を目指すのだろう?』

俺が魔晶石を受け止めると仙狐様が次の予定を聞いてくる。

「はい。応龍様や母の所にもよるつもりですが、その後は妖猫様の神域に向かうつもりです。」

『妖猫の神域は遥か西の地。い......天狼の神域よりもさらに西だ。』

今度は西か......母さんの神域より西には一度も行ったことがないな。

『大陸の西の端、そこに二本の大河がある。北側にある大河に沿って西に進んで行けば妖猫の神域に辿り着けるが、その魔道具が無ければ神域の中に入ることは出来ない。持って行け。』

「ありがとうございます。」

西の端と言うと......魔道国がある辺りなのだろうか?
魔道国が西の方にあるって事しか知らないけど......後で皆に聞いてみるか。

『その魔道具を持って神域にある程度近づけば、妖猫の方から連絡を寄越すはずだ。妖猫の神域はやつ自身の魔法もあって向こうが招き入れなければ絶対に侵入は不可能だ。』

「そうでしたか......重ね重ね、ありがとうございます。」

『俺達の不始末だ。気にするな。』

そう言って仙狐様は俺達に背を向ける。

『何か聞きたいことがあったらいつでも来い。』

「はい!ありがとうございました!」

仙狐様が立ち去るまで俺は頭を下げていた。
言葉はぶっきらぼうな感じだが、仙狐様も本当にお優しい方だと思う。
なんとか目的を果たしてお礼を言いに来たいものだね。
後は妖猫様とお会いするだけ......今の所、両親に連絡する方法案の一つもないけど......空間魔法に期待しよう......。
俺が問題を先送りにしていると、後ろにいるレギさんからため息が聞こえて来た。

「お疲れですか?」

「いや、すまねぇ。やはり神獣様は威圧感が凄いと思ってな。意識しないと呼吸を忘れそうになっちまうんだ。」

「そこまでですか?」

威圧感......なんとなく分からなくもないけど......そこまでの物は感じないな。

「ケイは鈍感じゃからな。色々な意味で。」

「うんうん、ケイ君もレギにぃも色々な意味で鈍感だね。」

なんか二人の言葉には色々な意味で含みを感じる......。

「いや、ナレアさんは結構普通に仙狐様と喋っていたじゃないですか。」

「ほほ、虚勢、取り繕っておったに過ぎぬ。ケイのように自然体ではおれぬのじゃ。」

そんな感じはしなかったけど......。

「うんうん、ケイ君のお母さんは凄く優しかったけど......やっぱり......なんて言うか、存在の格?みたいな物の違いは感じられたなー。あ、勿論怖かったりとかはしなかったけどね。」

「あぁ、そうだな。仙狐様も威圧しているつもりはないだろうしな。勝手にこちらが相手の大きさにビビっちまっているだけだな。」

「......なるほど。」

確かに俺が神獣様全員に感じる包み込まれるような感覚......アレは威圧感なのだろうか?
俺的には神獣様の傍は心地良い感じなのだけど......俺が鈍いのか?

「あまりピンと来ておらぬようじゃのう。」

「まぁ、ケイ君からしたら、お母さんと似たような空気ってだけなんじゃないかな?」

「まぁ、長いこと二人で過ごしていたみたいだしな。慣れもするだろうよ。」

なるほど......確かにこの世界に来てから一番長く一緒に居たのは母さんだ。
その感覚に慣れてしまってもおかしくはないだろうね。
俺が鈍いわけでは......いや、鈍くなっているのか?

「さぁ、ケイよ。今はそれよりもやらなくてはならないことがあるじゃろ?」

「そ、そうでしたね!早速と言いたい所ですが、ここは仙狐様が過ごしている場所ですし......昨日の舞台に移動しましょうか。」

「うむ!疾く行くのじゃ!」

ナレアさんがスキップせんばかりに先頭を......いや、しているな、スキップ。

「二人とも楽しそうでいいなぁ。」

「羨ましくはあるが......こればっかりはなぁ。」

「......すみません。」

加護を貰うことが出来ない二人の前ではしゃぎ過ぎたな......。

「いや、すまん。そういうつもりじゃなかったんだ。」

レギさんが頭を掻きながら謝ってくる。

「新しく貰った加護を思いっきり楽しんでくれ。幻惑魔法は本当に強力......いや、まぁ魔法はどれもとんでもない代物だと思うが......色々と面白い使い方が出来そうだからな。」

だから思いっきり楽しんで練習してくれと続けてくれるレギさん。

「私も面白い案が思いついたら二人に伝えるから試してみてよ。というか、既にあるんだよねー。五感を騙せるってことはさ、味覚もだよね?」

リィリさんが物凄くニコニコしながら温めていた案を俺に教えてくれる。
非常にリィリさんらしい......食事に向けに幻惑魔法を使うやり方か......。
お腹は膨れないと思うけど......いや、普通の食事に幻を重ねれば......いやいや、それはリィリさんは許さない気がする......。
まさか石とかに幻を掛けて食べたり......そんなふりかけ気分で......無機物は食べないよね?

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