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7章 西への旅路

第352話 時の流れ

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『見事な幻惑魔法であったな。あそこまでの使い手は四千年前にも殆どいなかったように思う。いや、仙狐の元に行ってからの期間を考えると脅威的だな。』

「ほほ、まだまだ研鑽途中じゃが、相性がいいのは確かじゃな。」

俺達の話が一段落したのを見て応龍様がナレアさんに話しかける。
しかし、ナレアさん大絶賛だな。
まぁ、天地魔法の扱いも幻惑魔法の扱いも物凄いからな......若干その才能というかセンスが羨ましいと思わないでもない。
まぁ、母さんの魔法だけは俺の方が上手く扱える......でもこれに関しては、相性って言葉がしっくりとくる感じだけど、俺とナレアさんの天地、幻惑魔法の差は......ちゃんと使えている人と上手に使える人の差みたいな感じなんだよな......。

『それに天地魔法の方も随分馴染んでいるようだな。天地魔法だけでも若い者達では太刀打ち出来ないだろうな。』

「過分な評価じゃな。妾は持てる技能を駆使しておるからこそ戦えておる。流石に基本的な身体能力と天地魔法だけでは厳しいのじゃ。」

『何なら試してみるか?』

「......まぁ、訓練じゃし、制限するのは構わぬが......幻惑魔法が馴染み過ぎてうっかり使ってしまいそうじゃな。」

『それもそうだな。それほど馴染んでいるならうっかり使ってしまう可能性はあるが、まぁ眷属達にとってはいい経験になりそうだな。次は少し意識してみてくれるとありがたい。それにしても全員が全員ここまでとは、予想以上の強さだったな。次はもう少し組み合わせを考える必要があるな。』

応龍様少し嬉しそうに頷きながら言うけど......もう次の試合は確定事項なのですね。
しかし、応龍様は楽しそうだな。
そんな応龍様を見ながら、俺達は次に誰が戦うか相談を始めるのだった。
......あ、ナレアさんがいつ幻を使ったのか聞きそびれたな。



『残すは妖猫か。しかし仙狐や天狼の事もある、妖猫も随分変わっているかもしれないな。』

応龍様の眷属との試合に明け暮れた翌日、俺達は神域を出る前の挨拶に応龍様の所に来ていた。
昨日の模擬戦はかなり白熱したものになったのだが、最終的にテンションが上がり過ぎた応龍様が自分も戦いたいと言い出し始め、眷属の方達も含め、その場にいた全員でそれはやめて欲しいと懇願することになった。

「流石に四千年も経っていますからね。皆さん考え方が変わっていてもおかしくはないかと思います。」

『四千年か......長い時を過ごしたものだな。まぁ、特にやることもなくダラダラしていたわけだが......他の者達は色々と考えて過ごしたのだろうな。そう考えると私だけ成長していないように感じるな......。』

応龍様がなんとも相槌の打ちにくい雰囲気を醸し出しはじめた。
......どうしよう。
横にいるレギさんも非常に困ったような顔をしている......まぁ、恐らく俺も同じような表情をしているのだろうけど......。

『いや、すまんな。こんなことを言っても困らせるだけだ。そんなことよりも妖猫の事だな、仙狐から何か聞いているか?』

「いえ、そういえば妖猫様の話は神域の場所以外聞いていません。」

『そうか。仙狐は余計な事までよく喋る奴だったのだがな。まぁそれはいい。妖猫は......一言で言えば真面目だな。』

猫って奔放というかマイペースってイメージがあったけど、真面目なのか......。
いや、神獣様に対して動物扱いは失礼だな......。

『責任感が強くてな。鳳凰の召喚した物を封印している空間魔法の使い手が奴で良かったと常々思う。仙狐辺りは飽きっぽいしな。』

仙狐様か......神域の外の幻は眷属の方が維持しているみたいだったけど......飽きっぽいのか。
いや、昔はそうだったってことか。
まぁ別に飽きっぽいのは悪い事ではないと思うけど......結界の維持ってことに関しては任せにくいかもしれない。
四千年も結界を維持している妖猫様は、応龍様の言う様に確かに責任感が強いのだろうな。

『それと、かなり用心深いな。仙狐とは違う意味で気を付けた方がいいかもしれないな。』

そう言って応龍様は仙狐様から預かって来た魔道具を取り出す。

『この魔道具を持って行っても素直に入れてくれるかは分からないからな。これも持って行くと良い。』

そう言って応龍様から別の魔晶石......いや、魔道具を渡された。
これは多分、俺がいつも配達している手紙の代わりとなっている魔道具だろう。

『私から妖猫への言葉を封じてある。私と天狼の言葉を封じた魔道具があると言えば如何に妖猫が用心深いと言っても確認くらいはするはずだ。仙狐の所に預けてあった魔道具も持っているしな。』

「......神域の中に入らずにどうやって伝えればいいのでしょうか?」

『恐らく仙狐から渡された魔道具の反応を受けて、神域の外に妖猫の眷属が出てくるはずだ。その者にしっかり説明すれば大丈夫だろう。』

「分かりました。ありがとうございます。」

お礼を伝え、応龍様に渡された魔道具をしっかりとしまう。
そう言えば、丁度いいからこの魔道具の事を聞こうかな?

「応龍様、今お預かりした魔道具なのですが......どうやって言葉を魔晶石に込めるのでしょうか?」

『ん?あぁ、それは念話だ。魔晶石を相手に念話をすれば、その時に発した言葉がそのまま魔晶石内に閉じ込められて魔道具となる。聞く方は魔道具に魔力を流せば念話が届くと言う訳だ。』

「念話を......そういう事でしたか。ありがとうございます。」

『気にする必要はない。』

教えてもらった物の......必要なのは念話か......俺がこの魔道具を作るのは無理っぽいな。
まぁ、今後もし念話を使えるようになったら試してみよう。
使いどころはちょっと思いつかないけど。
それはそうと、そろそろ応龍様に挨拶をして出発するかな。
俺がレギさんの方を見ると頷かれた。
こういう時だけは、思っている事があっさりと伝わるのは便利な気がするね。
俺が微妙に引き攣った笑みを浮かべているとレギさんがにやりと返してきて、さらにその隣にいたリィリさんもにんまりと笑い返してきた。

「......応龍様、そろそろ出発しようと思います。お世話になりました。」

『あぁ、息災でな。』

「はい、応龍様もお体にお気を付けください!」

『はは!そのようなことを言われたのは四千年振りだな!だが、悪くない......十分気を付けるとしよう。天狼や妖猫によろしく頼む。』

応龍様が嬉しそうに笑う。
神域が出来て以降、ここを訪れ、そして去っていく人間なんていなかっただろうからな。
こういった、ある意味定型文の様なやり取りも無かっただろう。
何より、応龍様は幻惑魔法を使った外の世界の映像を本当に楽しそうに、懐かしそうに見ていた。
昨日の模擬戦の事もそうだけど、他にも色々と楽しみを提供出来ないだろうか?
もっと色々な物を見て、色々な映像や話を届けるのも一つだと思うけど......他にも何か考えた方が良いかもしれない。
勿論応龍様だけではなく、神獣様全員にだ。

「はい!妖猫様の御加護を頂けたらまた訪問させてもらいます。」

『楽しみにしていよう。』

俺は一度頭を下げると応龍様に背を向けて歩き出す。
俺達の背後で応龍様が羽ばたくような音がして、柔らかい風に背中を押された。

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