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8章 魔道国

第428話 方針を決めましょう

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「今のはクルストさんの声でしたよね?」

「そうだな。あいつも参加していたのか。」

俺達は声が聞こえて来た方に顔を向けるが、野営の準備で天幕が張られていたり荷物が積み上げられたりしていて、その姿は確認出来ない。

「船で別れてから一月くらいだよね?随分早い気がするけどー。」

「船を降りれば移動はフロートボードがあるからのう。寧ろ余裕があるくらいじゃろうな。」

リィリさんの疑問にナレアさんが答える。
フロートボードを長らく使っていたナレアさんが言うのならそうなのだろう。

「後から合流する一人っていうのはクルストさんの事だったのですね......えっと、クルストさんにも監視をつけますか?」

「......クルストは別にいいんじゃねぇか?」

念の為に聞いてみたけど、レギさんの返事は予想通りだ。
まぁクルストさんを監視してもな......いや、実力はしっかりしていると思うけど......普段の言動から面白映像くらいしか撮れそうな気がしない......映像記録は出来ないけど。

「っていうか、クルスト君だったら、私達が参加してることに気付いたら一緒に行動するんじゃない?」

「......ふむ、確かにそうじゃな。」

リィリさんの予想にナレアさんが同意する。
確かにクルストさんだったらそうしそうだね。
元々監視する必要性は感じないけど......一緒に居るならそもそも気にしなくても良さそうだね。

「でもその場合僕達も動きが取りづらいですね。」

「そうだな。同行しないように言うか?」

「それは不自然じゃないかなぁ?断る理由ってないでしょ?」

「連携が取りにくいから......とかどうだ?」

「うーん......でも、レギにぃはクルスト君と一緒に仕事したことあるんでしょ?その言い訳は苦しいんじゃない?」

レギさんの案をリィリさんが否定した。
確かに俺もクルストさんと一緒に仕事をしたことがあるし、腕がいいのは知っている。
流石に強化魔法を使った俺達程ではないけど、少なくとも王都のギルドで殴り掛かって来た三人よりも遥かにいい動きをしていたと思う。

「......まぁ、一緒に居れば良いのではないかの?妾達の目的は攻略ではないのじゃ。そこまで全力で戦う必要もないじゃろ?それに監視はネズミ達が担ってくれるし、その連絡も念話じゃから問題ない。フロートボードを使っておるのじゃから、ケイの使っているナイフの魔道具も見せて大丈夫じゃ。」

「なるほど......確かに魔法の使い方だけ気を付けていれば大丈夫そうですね。」

魔法系の魔道具に関してはクルストさん相手に隠す必要は無いってことか。

「当初予定していた、ネズミ達の報告を受けてから妾達自身の目で確認するというのは難しくなったかもしれぬが、攻略を終えてもネズミ達が張り付いておるし、ここで確認出来なかったとしても問題はないじゃろ。」

ナレアさんの話を聞き、クルストさんが居ても問題ないといった結論になる。
まぁ、勿論クルストさんが俺達と一緒に行動したがると決まったわけじゃないけど......なんとなくクルストさんは俺達と行動を共にする気がする。

「お、見つけたっス。リィリさーん、ナレアさーんお久しぶりっスー。」

俺達がどう対応するかを決めた直後、当の本人が近づいて来た。
ってリィリさんはともかく、ナレアさんの事を呼ぶのはやめた方が良いかも......。
俺の懸念通り、先程まで緊張からこちらの様子を気にしていなかった冒険者の方々が一斉にこちらを見る。
思わず俺はさっと顔を隠してしまったのだが......恐らく効果はなかったのだろう。
強烈な視線を感じる......。
そんな視線を物ともせずに、クルストさんは俺達の傍まで来ると立ち止まった。

「いやー、王都で配達の依頼を終わらせた後ギルドに行ったらダンジョン攻略の話が聞こえてきまして、しかも『不屈』と『遺跡狂い』が参加するって話じゃないっスか。是非ともこの機会にダンジョン攻略に参加したいと思ったっス。」

物凄くいい笑顔をしながら言い放つクルストさん。
いや、まぁ......確かにレギさん達が一緒に居るなら、ダンジョンに参加するならいい機会だと思う。
安全とは言い切れないけど......一番危険な所は受け持ってもらえる可能性が高いし、同行を拒むような間柄でもない。
まぁ、つい先ほどどう対応するか決めたのだけど......。
少なくともクルストさんが一人で、普通にダンジョン攻略に挑むよりは安全だろう。

「参加条件が低くて良かったっス。というか、若手専用って感じだったっスね。小規模ダンジョンに上級冒険者を二人も投入しているのだから仕方ないかもしれないっスけどね。」

「なんで仕方ないのですか?」

クルストさんの言っている意味が分からなかったので質問する。

「あー、ケイは二人でダンジョン攻略をしたからあまり気にしなかったと思うっスけど......ダンジョン攻略に成功した時、基本報酬は頭割になるっス。それと活躍に応じて特別手当が出るっス。討伐した魔物の数やボスとの戦い、拠点防衛や退路の確保、色々な条件があるっスけど......その中で活躍とは関係なく冒険者の階級毎に割り振られるものもあるっス。」

「へぇ......そんなものがあったのですね。僕達は山分けだったので知りませんでした。」

「普通はこうやって大人数でダンジョンは攻略する物っス。だからギルドが報酬を割り振る為に、報酬について細かく定められているっスよ。揉め事の原因っスからね。」

「なるほど......その口ぶりからすると基本報酬よりも特別手当の方が金額はいいのですよね?」

「その通りっス。基本報酬は正直大した金額ではないっスね。それで話は最初に戻るっスけど、上級冒険者が二人もいると、小規模ダンジョン程度の報酬だと特別手当の枠をかなり持って行かれるっスよ。」

「なるほど......だから報酬が悪くても文句が出にくい若手専用ってことですか。」

小規模ダンジョンって話だけど今回は三十人も冒険者がいるし......報酬の総額は結構あるのだろうけど......上級冒険者の二人がかなりの額を持って行くからベテランは避けるってことか。

「そういう事っス。まぁ、と言ってもかなりの金額が貰えることに違いはないっスけどね。それはそれとして......情報交換をしないっスか?俺はダンジョンに挑むのは初めてっス。情報交換......と言うよりも色々と教えてもらいたいっス。」

そう言って笑うクルストさん。
そう言えば以前ダンジョンはまだ経験していないって言っていたっけ。
何となく、クルストさんの事だから適当に行ってみた事があるのかと思っていたけど。

「じゃぁ、基本的な事から......と行きたい所だが、先に拠点を設営しちまうぞ。話してて完全に手が止まってただろ。」

「あ、すみません。」

「俺も手伝うっス。」

レギさんに言われ、周りの冒険者に比べて作業が遅れていることに気付いた俺は作業に戻る。
普段は魔法を使って準備しているから中々不便だ......。
流石にシャルを抱っこしたままでは作業にならないので地面に降ろそうとすると、ナレアさんが声を掛けてきた。

「ケイ、少しシャルを借りるのじゃ。」

「......?それは構いませんが。」

「すぐに終わるから心配いらぬのじゃ。シャルも嫌そうな顔をするでない。」

そう言ってナレアさんが抱いていたシャルを連れて行く。
何か内緒話だろうか?
少し気になったけど、二人で話したいというのだからわざわざ追及するつもりはない。
俺は天幕を張ろうと紐を引っ張り......二人が速攻で戻って来た。
え?
早くない?

「あれ?随分早かったですね?」

「少しと言ったじゃろ?大した話ではないのじゃ。」

「少しの定義って難しいですよね......。」

ほんの数秒......一言二言で話は終わったってことだ。
まぁ......内容は分からないけど、わざわざ二人で話したってことは大事なことなのだろう。
俺は肩に登って来たシャルにおかえりと声を掛けながら作業を再開した。

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