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8章 魔道国

第444話 四千年前から

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母さん達からのメッセージを確認し終えた妖猫様は、寝転がったまま一度伸びをした後立ち上がった。
妖猫様が立ち上がり......雰囲気ががらりと変わった。
その姿に若干俺が気圧されていると妖猫様が口を開く。

『さて、散々だらけた姿を見せておいて何を言っているんだって思うかもしれないけど......少し真面目な話をさせてもらおうかな。』

真剣な様子の妖猫様に俺は気持ちを切り替えて慎重に頷く。

「はい。分かりました。」

『あはは、ごめんね。真面目な話って言ってもケイ君が緊張するような内容じゃないんだ。』

「......はい。」

俺の緊張が伝わってしまったらしく、妖猫様が柔らかい声音で緊張しなくてもいいよと告げてくる。

『最初に......ケイ君。突然この世界に招き入れ......いや、拉致してしまって本当に申し訳ない。本来であれば全てを投げ打ってでも、君を元居た世界に返さなくてはいけないにも拘らず......それさえも出来ない無責任な私達を恨んで欲しい。ただ......願わくば、君を犠牲にして成り立っているこの世界の事だけは許してやってくれないだろうか?勝手な事を言っているのは理解している、だけど今この世界に生きる者達の事は恨まないでやって欲しい。』

言葉と共に深々と頭を下げる妖猫様。
その言葉と行動の意味を理解して俺は慌てて口を開く。

「妖猫様、頭を上げて下さい。この世界に呼ばれたことについては他の神獣様からも散々謝罪をされていますし、その事で皆様......鳳凰様を含めて、神獣様方を恨む気持ちはありません。魔神やそれを呼び出した人達には思う所はありますが......もう既に四千年以上前の人達ですからね。」

俺の言葉を聞き、ゆっくりと頭を上げる妖猫様は心持表情が柔らかくなった気がする。

「それに、僕はこの世界に来て数年、そして神域の外に出てから一年以上暮らしています。元の世界に比べ不便なこともありますが......。」

......馬車とかね。

「でも、それ以上にこの世界に愛着を感じていますし......何より、この世界に生きる人達に友人が、大切な人達が出来ました。そして......誰よりも大切だと思える人もいます。この世界で、僕はこれ以上ないくらい幸せだと感じています。」

『......ありがとう、ケイ君。この世界を、この世界に住む人々を愛してくれて。君のその優しさは僕だけじゃなく、事情を知る全ての者の心を救ってくれただろう......まぁ、罪悪感は残るけど、ケイ君が健やかに過ごしてくれるのは僕達にとって無上の喜びだよ。』

「この世界に呼ばれた事情はちょっと問題がありますが......この世界で経験した多くの事は、元の世界ではとても体験できないようなことばかりで......今はここで生きていけることをとても感謝しています。」

俺の言葉を聞いて妖猫様が笑う。

『そう言えば......天狼が君の事を嬉しそうに話していたよ。あの天狼が神子にするなんて最初は驚いたけど......天狼の話と、君の今の話を聞いて妙に納得しちゃったよ。天狼が気に入った理由が凄く分かる。ケイ君がもし最初に僕の神域に来ていたら僕の神子にしたかったよ。』

「えっと......恐縮です。」

俺が照れながら返事をすると妖猫様が少し雰囲気を変えながら笑う。

『まぁ、僕の神域にケイ君が最初に来ていたら......死んじゃっていたと思うけどねー。』

姿勢を崩しながら妖猫様が恐ろしいことを言う。
でも確かに......母さんの神域以外に俺が召喚されていたら......そのままお陀仏だな。

『......空間事封印しても良かったけど、天狼がいないんじゃ回復はどっちにしろ無理だしねー。永遠に封印されるのも嫌でしょー?いや、本当に天狼の所に行ってくれ良かったよー。今とは比べ物にならないくらい気まずい思いをするところだった。』

寝転がりゴロゴロしだした妖猫様が、のほほんとした口調で先程よりも恐ろしい事を言う。
......いや、永遠に封印されるくらいならそのまま死んでいた方が良いと思う。

『まぁ、天狼が最初の召喚物を担当してくれてよかったよー。そう考えると四千年以上も前に君が天狼の子になることは決まっていたんだねー。』

「僕にとって呼び出されて到着するまでは一瞬でしたが......そう言われると感慨深い気もしますね。」

この世界......母さんにとっては、俺と会うことは四千年以上前に決まっていた......か。
凄い話だ......。

『面白いよねー。あ、そうそう......応龍から、ケイ君に召喚されたものを確認してもらってくれって言われているんだけど、今から見てもらえるかい?』

仰向けになっていた妖猫様がクルッと回って立ち上がり聞いてくる。

「はい。確認させていただきます。」

『じゃぁ、こっちにおいでー。と言っても、僕の所に出てきた召喚物は、見てもらっても分からないと思うけどねー。あ、他の皆も見に来ていいよー。』

ひょこひょこと妖猫様が歩き出しながらのんびりと言う。

「妖猫様、それはどういう意味ですか?」

『あはは、それは見てのお楽しみってことでー。まぁ、僕の想定外の物って可能性もあるけど......っと、あまり言っちゃ面白くないねー。』

妖猫様も他の神獣様と同じように面白い物に目がない感じがするなぁ。
この場合俺達の反応が楽しみってことだろうか?
それにしても見るまでもの無く分からないと思うって......どんなものだろうか?
未知の技術による物......いや、それなら別の世界から来た相手に分からないと思うとは言わないよね。
もしかして応龍様の所に召喚された物と同じ物?
妖猫様は他の神獣様の所に召喚された物を封印するために見ているわけだし、応龍様からのメッセージの中に、俺が応龍様の所に召喚されたものを知らなかったって話はあったはずだ。
鳳凰様が召喚した物は魔神を倒せる物って言う条件だったはずだし......同じ物があってもおかしくはない。
でもな......妖猫様の反応が少し気になる。
もし応龍様と同じ物が召喚されたのだったら......俺の反応はあまり面白い物にはならない気がする。
んー、それとも妖猫様が知っている物......この世界の危険な動植物とかで、俺だけが知らないパターン?
でもそんなものが存在するなら魔神が暴れていた時に利用するよな......?

「また百面相をしておるのう。じゃが悩む必要は無いじゃろ?すぐに見られるんじゃからな。」

俺が色々と考えながら歩いているとナレアさんが追い付いてきて声を掛けてくる。

「......それもそうですね。妖猫様の魔法で封印されているわけですし......特に危険があるわけでもない。うん、考えるだけ無駄ですね。」

「ほほ、そういうことを言って油断したら変なことになる、というのがお約束ってものではないかの?」

「いや......それは確かにそうですけど......って言うかそんな話したことありましたっけ?」

それともお約束ってこの世界にもあるのだろうか?
あまり物語系の本ってなかったような気がするけど。

「うむ、御母堂に聞いたのじゃ。」

「母さんに......?あぁ、僕の記憶からですか......。」

『なんか面白そうな話をしているねぇ。』

俺とナレアさんが話していると妖猫様が振り返り声を掛けてくる。

『天狼はケイ君の治療をしながら記憶を読んだんだっけ?いいなぁ......面白そうだよねぇ......。』

なんか妖猫様が物凄く物欲しそうな目でこちらを見てくる。
いや、言わんとしている事は分かりますが......流石にばっちり意識がある時に記憶を覗き見られるのは嫌ですよ?

『いいよねー、別の世界......どんな感じなんだろうなー?』

チラチラとこっちを見ながら歩く妖猫様。

「えっと......妖猫様?流石にお断りさせてもらいたいのですが......。」

『......いやいや、勿論ケイ君の記憶を見たいなんて言わないよー。そんな恥知らずなお願いなんてしないよ?』

いや......断るって言っただけで何を断るとは言ってないのだけど。
慌てて弁解する妖猫様を半眼で見つめると、失言に気付いたのか俺から顔を逸らして尻尾をピンと立てた妖猫様は、ちょっと足早に俺達を先導続けた。

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