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8章 魔道国

第478話 取引

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ケイがリィリの周囲を空間魔法で固定した後、妾達は一気に飛び出した。
ケイとレギ殿の目標はここから少し離れているので、攻撃は合わせぬと行かんのう。
ケイが走り込んだ速度のままえげつない蹴りを扉の横に立っていた兵に入れ、レギ殿はクルストの傍に移動を完了したようじゃな。
妾は近くにいた研究者に向けて魔力弾を放つと同時に幻惑魔法を解除する。
そして立て続けに二人の人間に向かい、幻惑魔法と天地魔法を合わせた見えない石弾を叩き込み、更に不可視化した手枷足枷を嵌めて無力化する。
残るは......。

「......いや、驚きを通り越して、もはや呆れてしまいますね。何をどうしたらこの短時間でこの場を襲撃できるというのですか?」

キオルの奴が注視しておった計器から顔を上げ、かぶりを振りながら妾に向かって言う。

「それと......何故か計器が軒並み沈黙したのですが、何かしました?」

「質問ばかりじゃな。」

「ははっ、好奇心の強さなら魔族の方々にも負けない自信はありますよ。」

ふてぶてしい態度じゃ......。
まぁ、向こうのダンジョンで顔を合わせた時からそういう人間だとは思っておったが......魔術研究所ではもう少しまともに見えたのにのう。

「私の疑問に答えてくれたり......しませんか?」

「お主が妾の問いに答えた事があったかの?」

「これは手厳しい。では、そうですね......。」

そう言ってキオルは辺りを見渡したかと思うと、少し声を落として言葉を続ける。

「とある組織についての情報と引き換えでどうでしょうか?」

「ふむ、微妙じゃな。お主も理解しておると思うが......妾達の切り札と高々一地下組織の情報が釣り合っているとは到底思えぬのじゃ。」

「いやー、まさしくその通りですね!値切り過ぎましたか。」

肩をすくめながら機材の陰から出て来る。

「しかし、やっと準備が整ってこれから色々調べ始めるという時にこれですからね......。」

そう言いつつ機材を拳でコンコンと叩いた後、その拳を口元に当てる。
時間稼ぎをしているようにも見えるが......この部屋におる相手はこちらには来れぬじゃろうし......外から援軍が来るのを待っている?
クルストのヤツはレギ殿と戦闘中......他の者は入り口付近でケイと睨み合っておる。
こちらを気にする様子はないのう。

「あぁ、時間稼ぎとかではありませんよ?信じられないかもしれませんが......純粋に色々とお話を聞きたいだけです。」

「......妾と話すよりも早い所リィリの事を調べたいのではないのかの?」

「それは確かにおっしゃる通りですがね。しかし、この場にこういう形で踏み込まれてしまっては、もう逆転の目はありませんからね。」

「余程、リィリはお主等の悲願とやらに近い所におるようじゃな。」

「近いと言いますか......体現している、というのが正解ですね。」

「......アンデッドにでもなりたいのかの?」

「ははっ!貴方にはそこの方がアンデッドに見えるのですか!?」

心底可笑しいというような、こちらを馬鹿にしている目で言い放つキオル。

「ふむ......まぁ、そうじゃな。リィリは間違いなく、生きておる。」

「その通りです!確かに心臓の鼓動は無いようですが......体液は分泌しているようですし、恐らく髪や爪も伸びているでしょう!確かにアンデッドの共通の特徴である魔力核をその身に宿しているようですがそれだけの話です!弱点を貫かれれば死ぬ......そんなもの生命として当たり前の話ではないですか!頑丈か否かの違いがあるだけでしょう!?」

突然興奮しだしたのう......情緒不安定なのは珍しい事でもないが......魔術研究所にはこんな感じのヤツが多かったからのう。
まぁヘッケランのヤツはずっと興奮しっぱなしじゃったが。

「しかし、それは最終段階!私の理想の果てにあるものです!」

離れた位置から横たわるリィリに向かってダンスにでも誘うように手を差し出すキオル。
当然リィリは反応するわけないのじゃが......自己陶酔でもしておるのかキオルのヤツ、嫌に満足そうで気持ち悪いのう。
恐らくリィリの意識があったら物凄く嫌そうな顔をする......いや、リィリなら困った感じで笑うかのう?

「とは言え、物事には順序があります。目指す地点が実現可能であることが分かった以上、次は条件を一つ一つ解き明かしていかなくてはいけません。どうすれば理想に辿り着けるのか。その為にも、深くそれを知る必要があるわけです。」

「やはり、先程のダンジョンでの話は欺瞞だったようじゃな。リィリを失うことを恐れていたのはお主も同じじゃ。」

「ははっ!えぇ、その通りですよ。確かに成功例がある以上続けていれば次の成功に辿り着くことも出来るでしょうが......流石にここまで完璧な成功例、とてもではありませんが手放せるものではありませんね。」

まぁ、それを知っていた所で、あの場では強引に取り押さえることは出来なかったじゃろうがの。
目に見えない位置で仲間が人質に取られておってはの......相手の方が一枚上手だったのう。

「しかし......本当にあなた方には色々と話を聞かせてもらいたいですね。何があってこんな状態になったのか。あなた方のその不可思議な優秀さについて等。本当に興味が尽きません。」

「......。」

物欲しそうな目で見て欲しくないのう。
どうでもいい相手にそんな目で見られても、顔面に石弾を叩き込みたくなるだけなのじゃ。
何となく相手の狙いも読めてきた事じゃし......叩き込むかのう?

「おっと......ちょっと物騒な気配がしてきましたね。ではもう一度提案させて下さい。」

そう言って先程と同じように辺りを見渡す。
既にケイは全ての相手を制圧したらしく扉の前に控えている。
レギ殿はまだクルストと戦っておるようじゃが......もう他に立っている者はいないのう。
その様子を見て笑みを浮かべながら肩をすくめた後、キオルが言葉を続ける。

「檻が魔道国で何を企んでいるか。その情報と引き換えにお話を聞かせてもらえませんか?」

「......内容次第じゃな。魔道国に対する脅威度、お主が求める情報、妾が釣り合うと思えば話そう。何が聞きたい?」

「では......そちらの......彼女は一体どうして今の様な状態になったのでしょうか?」

「......それについて、妾では聞いただけの話になってしまうのう。じゃが、その程度であれば問題なかろう。今向こうでお主の所のクルストと戦っておる人物。レギ殿、若しくはリィリ本人に直接聞くのが良かろう。」

「口利きをしていただけるので?」

「話をした後でお主がぶっ飛ばされるところまでは面倒見ぬぞ?」

「記憶と知性さえ失わなければその程度構いません。あなた方にここまで乗り込まれてしまった以上、もうそちらの彼女の事を調べることは出来ないでしょうしね。」

ため息をつきながらリィリに視線を向けるキオル。

「では、先に檻が魔道国で何を狙っているかお伝えしておきましょう。向こうはもう少しかかりそうですし。」

「良いのかの?」

「えぇ。貴方が約束を違えるとは思えませんので。話が終わった後ぶっ飛ばされることも含めてね。」

そう言って笑みを浮かべた後、近くにあった椅子に腰を下ろしつつ話始める。
妾は取引をするのであれば、向こうでやり合っておる二人を止めなくても良いのか?と言う意味を込めて聞いたのじゃが......まぁ、レギ殿なら戦闘自体に問題はないじゃろう。
妾がちらりとレギ殿の方を見ると......中々凄い状況になっておるようじゃし、アレを止めるのものう......。

「少し遠回りをさせて頂きますが、檻の目的は御存じですか?」

「不老不死じゃったか?」

レギ殿達から視線を切り、キオルとの話に集中する。

「ははっ、あちらのお馬鹿さんからでも聞きましたか?まぁそれも間違えではありませんが、正確にはその前段階......神の復活が目的ですね。」

神の復活のう......あまりいい目的とは思えぬのは、御母堂たちから話を聞いておるからじゃろうな。

「ナレア様は神話の類は御存じですか?」

「......各地で発見されておる遺跡。その文明よりも遥か昔の話じゃな?」

「流石ナレア様、遺跡狂いの名は伊達ではありませんね。今現存している遺跡のほぼ全ては神話の終わり、神々による大戦によって一度世界が滅びた後、細々と生き残った人々が築き上げた物らしいですね。まぁ、その文明も人々の手によってまた滅びを迎えたようですが。」

御母堂や応龍からその辺の話は聞いて知っておるが......こやつはそれをどうやって知ったのかのう?
妾は極力情報を漏らさぬように気を付けながら、キオルの話に耳を傾けていった。

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