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8章 魔道国

第485話 苦労人

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ナレアさんの説明はそこまで時間は掛からなかった。
初めの内は難しい顔をしていたリィリさんだったが、話が進んでいくにつれていつも通りの様子になり、今や完全に普段通りと言った感じだ。
攫われた本人がそれでいいのだろうか?

「こちらの説明は終わったのじゃ。」

「お待ちしておりました。それで、どうでしょう?お話を聞かせて頂けるでしょうか?」

「取引じゃからな。リィリもレギ殿も承諾しておる。」

「それは素晴らしい!ではこちらへ、折角ですから座って話をしましょう。」

喜色満面って言葉がぴったりと言った様子を見せるキオル。
レギさんは物凄く嫌そうな顔をしているけど......リィリさんはそうでもないな。
キオルは少し離れた位置にある......非常にごちゃごちゃと物が乗っていて、ちょっとお茶でも飲みましょうって雰囲気は全くないテーブルへと案内する。
椅子に座ったのはナレアさん、リィリさん、キオルの三人。
俺とレギさん、クルストさんは立っているけど......特にお互いを警戒しているといった感じはないかな?
まぁ、別に座ってもいいのだけど......うず高く積まれた不安定な何かがテーブルの大半に鎮座しているので、ナレアさん達が座っている一角以外は会話をするのに適していない。
崩れ落ちてきそうだし......何よりテーブルを挟んでしまうと相手の姿が全く見えなくなる。

「それでは早速お話を......。」

そう切り出したキオルの頭をクルストさんが結構強めに叩きため息をつく。

「本来であれば謝る事さえ憚られることをしたと考えておりましたが、このような状況になっておりますのでまずは謝罪させていただきたいと思います。」

「「......。」」

クルストさんが直角に近い角度で頭を下げる。

「リィリさん、謝って済む問題ではありませんが、申し訳ありませんでした。それに皆さんも、ご迷惑おかけしたこと深くお詫びいたします。」

「......かたいっ!?」

頭を下げたクルストさんにリィリさんが叫ぶ。
いや、まぁ、俺も思ったけど......でもクルストさんの言っている事は間違っていないしな......。

「すみません。」

「うーん、まぁ確かに、騙されたことに関して思う所はあるけど......それ以外に実害はなかったからねぇ。そこまで謝ってもらわなくてもいいよ?」

「......。」

攫われた本人がめちゃくちゃあっさりしているな......。

「まぁ、話が終わったらちょっと、ぶっ飛ばすけど。」

いや、結構本気で起こっている可能性も否めないな。

「妾も当然参加するのじゃ。」

......まぁ、二人とも許すとは一言も言っていないしね。

「......許してほしいとは言わないっスけど......お手柔らかにお願いしたいっス。」

「無理だね。」

「無理じゃな。」

クルストさんの言葉に慈悲無き返答をする二人。
いや......クルストさんのやったことを考えれば慈悲溢れる対応なのだろうか......?
どちらにせよ、クルストさんの顔は今以上に変形することになりそうだ。

「では、謝罪も済んだことですし早速......。」

「お前も一言くらい言っとけ!」

クルストさんが再びキオルさんを強めに叩く。

「......確かにそうですね。それで心証が良くなるなら減る物でもないし謝っておきましょう。」

「いや、お前もう黙っとけ。」

クルストさんが額に青筋を浮かべながら拳を握る。
なんか......その姿にレギさんと似たようなものを感じた。
あれ?
クルストさん......俺達といる時と随分立ち位置が違わないかな?

「黙れと言われても、これから話す内容は私が主となって進めていかなければならない物ですよ?寧ろ邪魔をしないで欲しいのですが?」

クルストさんの握りしめた拳がぷるぷる震えているけど......何かを必死で堪えているようだ。
まぁ、話が進まないとか考えているのだろうな。

「どうもすみません、内輪でごちゃごちゃとしてしまって。それでは話を始めようと思うのですがよろしいですか?」

「......とりあえず、防諜用の魔道具を起動するのじゃ。」

そう言ってナレアさんが魔晶石をテーブルの上に置く。
魔術式は見えないけど......魔法系の魔道具でもない様な......。
興味深そうにキオルがテーブルの上に置かれた魔道具を見ているけど......。

「これでいいのじゃ。好きに話を始めるがよい。」

うん......やっぱり俺達の周囲を覆うように幻惑魔法が展開されているね。
魔道具から視線を外したキオルは嬉しそうにリィリさんへと向き直る。
......結局謝ってないな......まぁ、別にキオルの謝罪なんか欲しくはないけど。

「えー、リィリさん......でしたか?貴方があのダンジョンで目覚めた最初の記憶を窺ってもいいですか?」

キオルの質問が始まったけど......そう言えばその辺の話は俺達もあまり詳しく聞いていないような気がする。

「最初の記憶......難しいなぁ......気づいたら体が動くようになって......体はスケルトンになってたからなぁ。」

「体が動くようになる前、意識はありましたか?」

「んー、あったようななかったような......やらなきゃいけないことが頭の中を巡ってて......体が動かないからもう少し休んでからって考えていたら、いつの間にか動くようになっていたって感じだったかな?」

「私の事は覚えていませんか?」

「え?初めて会うと思うけど......。」

「なるほど......そうですか。」

リィリさんの返答を聞き、キオルが考え込む素振りを一瞬見せた後再び質問を続ける。

「意識が戻ってからは何をされていたのですか?」

「......最初は体の動きがぎこちなくてねー、魔物から逃げる様に行動してたんだけど......一度逃げきれなくって戦ったんだよね。それでなんとか勝てて......そしたら体がなんか軽くなったんだよね。」

「倒した魔物の魔力を吸ったという事ですか?」

「意識してやったわけじゃないけど、そういうことだと思うな。」

「......ふむ。」

キオルが指でトントンと机を叩きつつ考え込むようにする。

「因みに、どのくらいの期間そうしていたのですか?」

「うーん、どのくらいだろう?ダンジョンの中は昼夜もないし......期間とかよく分からないなー。多分年単位だとは思うけど......。」

「私があのダンジョンに行ったのは、二、三年前の事だったので......えー攻略されたのはいつでしたっけ?」

二、三年か......結構最近なんだな。

「いや、待て。あのダンジョンに行ったのは五年くらい前。攻略されたのは一年程前だ。」

一瞬でクルストさんがキオルの言葉を否定する。
二年と五年は流石に間違えない気がするけど......実は魔族か?

「おや?そうでしたか?せめてその時にしていた研究と結び付けられれば......えー何をしていましたっけ?」

「俺が知るかよ。」

ため息をつきながらクルストさんが答えると、どうでも良さそうに肩をすくめるキオル。

「五年......流石にそんな長くはなかったと思うけど......分からないなぁ。」

「なるほどなるほど......因みにお亡くなりになったのはいつ頃でしたか?」

にこやかに滅茶苦茶聞きにくい事をあっさりと口に出すキオル。

「十一年ってところかな?多分。」

そしてあっけらかんと答えるリィリさん。
レギさんは苦々しい表情だけど......やはり本人の方がさばさばと答えられるものなのかな。

「......そうですか、分かりました。ところで......私が知っているあなたは骨の身体でしたが、その肉体はどうやって手に入れたのですか?」

「あぁ、これはダンジョンを攻略した時に進化したんだよね。」

「......なるほど......魔物としての進化ですか。ですが、そのような進化をスケルトンがするとは知りませんでしたが......。」

「その辺はよく分からないね。確か、ダンジョンのボスを倒して、その時霧散するはずだったダンジョンの魔力を吸収したことが原因なんだったかな?」

「ボスにとどめを刺されたのはどなたですか?」

「それは私だね。」

「倒したボスの個体名はわかりますか?」

「えっと......テラーナイトだね。」

「ふむ......強力ではありますが一般的な魔物ですね。しかし......それを三人で?まぁ、数年単位で魔物を狩り続け力を蓄えていたからこそという事でしょうか。そのくらいの強さになっていないと駄目という可能性も......これは検証し甲斐がありますね。」

何やら早口でぶつぶつと言いだしたキオル。

「......もう話はいいのか?」

クルストさんが問いかけると弾かれた様に顔を上げるキオル。

「いえいえ、これからはもう少し細かく聞いて行きたいと思いますよ!ではまず、死んだときの状況ですが......。」

また普通の人では聞きにくいヘビーな所を根掘り葉掘り行くな......。
その横でクルストさんが大きくため息をついている。

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