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最終章 狼の子

第493話 覗き、ダメ、ゼッタイ

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「しかし、あれじゃな?」

「なんでしょうか?」

俺とナレアさんはレギさん達を部屋に残して食堂に移動してきた。
ご飯時を過ぎた食堂だったが、今はお酒の提供で結構賑やかな感じだ。
他の国に比べると魔道国は夜が長いね。

「うむ......二人が......いや、レギ殿がどんな話をするか非常に気になるのじゃ。」

「......ナレアさんはレギさんの言いたい事は分かっていたのでは?」

「内容は分かるのじゃ。というか、ケイだって分かっておろう?」

「それはまぁ......眷属化したって話ですよね?」

俺がそう言うとナレアさんがうむ、と言った感じに頷く。
そしてそのまま数秒空白の時間が生まれた。

「......?」

「......それで終わりかの?」

「あれ?他にもあるのですか?」

「ケイ......妾は基本的にケイの在り方を好ましいと思っておるが......流石にちょっと引くのじゃ。」

引かれた!?

「えっと......他にも何かあるってことですよね?」

「他にも何かと言うよりも......寧ろ本題はそっちじゃろ。眷属化なぞおまけのようなものじゃ。」

呆れたようにため息をつきながらナレアさんが言う。
眷属化をおまけなんて言い方したらシャルが怒りそうなものだけど......そう思って肩に掴まっているシャルに目を向けると......何故か半眼でこちらを見ていたシャルと目が合った。
あれ!?
何かシャルにまで呆れられてない!?
反対側にいるマナスは......うん、マナスはいつも通りで癒される。
俺はマナスを片手でムニムニしながらナレアさんに向き直る。

「えっと......レギさんはどんなことを話すつもりなのですかね?」

「......レギ殿を眷属化する時色々と話をしたじゃろ?」

「えぇ。色々な想いを聞かせてもらいました。」

「うむ。じゃが......あの想いを聞かせるべき相手はケイではなかろう?」

「あぁ、そういうことですか。」

確かにあの時俺が聞いた話は......そのままリィリさんに伝える必要は無いだろうけど、その想いはリィリさんに伝えるべきだと思う。

「リィリは色々と不安に思っている様じゃからな。レギ殿の真っ直ぐな想いは、今のリィリには必要な物じゃろうな。」

「そう言えば、リィリさんの悩みというのは?」

「それは妾の口からいう事ではないのじゃ。とは言え、心配じゃろうし......まぁ、大丈夫じゃ。レギ殿がヘタレずにしっかりとその想いを伝えることが出来れば万事解決といったところじゃな。」

「そういう物ですか......。」

リィリさんの事は気になるけど......まぁ、ナレアさんが大丈夫と言うのであればそうなのだろうし......リィリさんが相談してくれれば力になるっていうスタンスで良さそうだ。
......それはそうと、俺はもう少しその辺の機微に敏感になるべきだろうか......いや、どうやったらそう言うのって分かるようになるのだろう?
ナレアさんはともかく......シャルに呆れられたのが物凄くショックだった俺は、そんなことを考えていたのだが......。

「......あれ?なんかサラッと聞き流していましたけど......さっき、ナレアさんもレギさんのあの時の言葉を聞いていたみたいな感じがありませんでしたか?」

「うむ。そこはまぁ......不思議じゃのう。」

「......さっきリィリさんに何か渡していたのと関係あります?」

「ないとも言い切れぬかのう......。」

......なんとなく分かって来た。
問題はどうやってってところだけど......。

「まぁ、さっきリィリさんに渡す時に魔道具って言ってましたしね。アレってもしかして......録音用の魔道具ではないですか?」

「ほぅ......。」

「しかも記録の為ではなく、既に録音済みのものですよね?」

「......何故、人の機微にはこれだけ鈍感なのにそういったことには気づくのかのう。」

......ジャンルの問題かな?

「......もしかしてあの時、僕にこそっと録音用魔道具を仕込みました?」

「ほほほ。」

ナレアさんは笑うだけで肯定も否定もしないけど......俺はあの時の事を思い出す。
何か......そう言えばあの時......。

「僕がレギさんと鏡を取りに行く前と後......ナレアさんが背中の汚れを落としてくれましたよね?」

「そんなこともあったかのう?」

「あれがそういう事だったのでは?」

恐らく、汚れを払う振りをして俺に録音用の魔道具を仕込んだのではないだろうか?
俺が半眼になりながらナレアさんに問いかけると......それでもやはりナレアさんは笑みを浮かべたまま肯定も否定もしない。

「どうじゃろうなぁ?あの時はリィリを助けることが出来ずにイライラしておったからのう。よく覚えておらぬのじゃ。」

「......まぁ、別に僕はいいのですがね?」

俺がそう言うと肩をすくめるナレアさんだったが、どこか解放された様に伸びをする。

「ところでナレアさんはあの時のレギさんの言葉を聞いたのですか?」

「流石に聞いてはおらぬよ。マナスを通じてどんな内容を話していたか聞いただけじゃ。」

それはそれである程度把握してしまっているような......あぁ、だからリィリさんに録音した魔道具を渡したのか。
俺がマナスの方を見ると小さくぷるぷると震えている。
まぁ......マナスは悪くないか。
俺は片手でマナスを撫でながらナレアさんに向き直る。

「ところでケイよ。二人がどんなことを話しているか気にならぬかの?」

「そりゃ、まぁ......気になりますけど。」

「覗きに行くかの?」

「それは流石に二人に悪いですよ。わざわざ部屋から出た意味もないですし。」

「それはほれ、妾達が居ってはレギ殿が色々と話しにくいじゃろ?」

「戻ってもそれは一緒だと思いますが......。」

「なに、幻惑魔法を使えば気づかれる事は無いのじゃ。」

「そう言う問題では......。」

寧ろ後から見てましたー、ってなる方が死にたくなるのではないだろうか?

「むぅ......。」

そういって口を尖らせて頬を膨らませるナレアさん。

「可愛い子ぶってもダメです。」

「......妾はリィリの......いや、二人の友人として、二人の行く末を見守る義務があると思うのじゃ。」

「僕はレギさんの友人として、レギさんの心の安寧を守る権利があります。それに、流石のリィリさんも僕達に覗かれるのは恥ずかしいと思いますよ?」

「......く......ケイは二人の事が気にならぬのかの?」

「気にならないと言えば嘘になりますが......僕がレギさんの立場だったら覗かれるのはちょっと......。」

少なくとも、母さんの神域でのことや、魔王城での一幕は......誰かに見られたいとは絶対に思わない。
いや、まぁ......シャルやマナスには魔王城でのことはばっちり見られているけどさ。

「むぅ......では、マナスを通じてどんな感じか聞くのはどうじゃ?」

「......少しくらいならアリかなと思いましたけど......やっぱりやめておきましょう。後でリィリさんから根掘り葉掘り聞くくらいでいいじゃないですか。」

「仕方ないのう。まぁ、邪魔をするわけにもいかぬし、今日の所は大人しくしておくかのう。」

そう言ってナレアさんは椅子の背もたれに背中を預ける。
そんな様子を見ながら、俺はテーブルに置かれていた飲み物を手に取り口に含む。
暫くそうやって無言で過ごしたのだが......なんとなく落ち着かないというかおさまりが悪いというか......そわそわするな。

「ほほ。なんじゃ、ケイ?そっとしておこうといった割に、随分と落ち着かぬようではないか。」

「いや......まぁ......あはは。」

確かに先程口に出した内容とは裏腹に、レギさん達の事が気になって仕方ない。

「......二人は大丈夫でしょうか?」

「ほほ、心配する必要がどこにあるのじゃ?あの二人じゃぞ?当然大丈夫に決まっておる。」

「......それはそうですね。」

確かに、あの二人が妙な感じに拗れるとは思えないな。
二人とも大人だし......何より長年の付き合いがあって、お互いの事は本人以上に熟知していると言える。
不安な要素を見つける方が難しい二人だが......それでもやっぱりソワソワするよね?
あれだけ覗こうと言っていたナレアさんの方が落ち着いているのだから......さっきまでのはやっぱりただの冗談だったようだね。
二人の事を信頼しきって落ち着いた様子を見せているナレアさんを見て、やはり俺はまだまだだなと痛感した。

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