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最終章 狼の子

第501話 策士

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魔道国の王都でルーシエルさんと会ったり、リィリさんにナレアさんへ贈るプレゼントの相談をしたりしながら過ごしていると、あっという間にダンジョン攻略記念祭の開催日が近づいて来た。
王都の至る所で色々と催し物の準備が進み、王都全体が普段とは違った空気に包まれている。
このまま開催日まで王都で過ごしても良かったのだが、俺は祭りの前に面倒ごとを終わらせようと考えた。
祭りまでは後十日程......シャル達の移動速度を考えても丁度いい頃合いじゃないだろうか?
そう思い俺はその日の夜に皆に話を持ち掛けた。

「そろそろ、あのダンジョンに行こうと思います。」

いつも通り、俺の部屋に集まった三人に向けて宣言する。
母さんの魔力を吸収したボスがいるダンジョン......十日もあれば攻略して帰ってくることが出来るだろう。
恐らくゆっくり......あくまで俺達基準で......移動しても三日もあればダンジョンまでは行ける。
そこから攻略するのに七日は掛からないだろうし、帰りは鏡の魔道具から取り外した魔晶石をこの宿に置いておけば接続を使って一瞬で帰ってくることが出来るから帰りの日数は考えなくて良い。
まぁ、行きに関しても一応レストポイントである研究室には前回使った魔道具が置かれているし、接続で一気に移動することは出来るのだけど......流石にダンジョンのボスと戦うのが目的なわけだし、しかもそのボスはかなりの強敵だ。
一回であればそこまで疲労は酷くないとは言え......万全な状態で挑むべきだろう。
いや、待てよ?
レストポイントに飛んだ後、一日くらいあそこで休んでからボスに向かえばいいのか。
どうしようかな?
皆に聞いてみるか。

「ふむ......祭りの前に憂いを断っておきたいということじゃな?」

「はい。どうせならすっきりした気持ちでお祭りを楽しみたいので。」

「そんな理由でダンジョンを攻略しようとするやつは、世界広しと言えどケイくらいのものだろうな。」

「そうだねぇ。でも心配でご飯が喉を通らないよりは、さっさと喉の小骨を抜き去るべきだね!」

「ダンジョンのボスを小骨扱いする奴は、リィリくらいのものじゃろうな。」

ダンジョンに行くというのに随分と和やかな感じだ。
まぁ......これから行くダンジョンが普通のダンジョンであれば、今の俺達にとって油断さえしなければ左程危険はないだろう。
しかし、今回行くダンジョンは違う。
ダンジョン自体は普通であっても、そのボスはファラをして自分よりも強いと言わせた強敵だ。
しかもそんな相手と俺一人で戦うと言っているのだから......正直ナレアさん達には相当な心労を与えていると思う。
だがそれでも俺のしたいようにさせてくれている。
本気でやばかったら介入するとは言われているけど......それでも最初は好きにさせてくれるだけの信頼はある。
勿論、俺も死にたくはないので助けてもらえるのは大歓迎だ。
だったら最初から手を貸してもらえと思わないのでもないけど......まぁ、その辺は複雑な心境ではある。

「いえ、リィリさんのおっしゃっている事が今の心境に一番近いですね。なんだか物凄くもやもやする感じがして、鬱陶しいので楽しみの前に片付けておきたい感じです。」

強敵と戦う事を前に、空気を軽くしようとしてくれているリィリさんの言葉に乗る。

「うんうん、お祭りの出店が楽しみだなぁ。」

......なんかもうお祭りの事しか考えていない気がするけど......いや、勝利を確信してくれているからこそだろう。
俺はリィリさんから視線を外し、レギさんの方を見る。

「まぁ、前から予定していたことだからな、反対はない。準備も出来ているし、明日から行くのか?」

「そうですね。祭りに間に合わないと元も子もないのでそのつもりですけど、どうやって行くかはちょっと悩んでいます。」

「ん?いつも通りシャル達に乗せてもらうんじゃないのか?」

俺の言葉にレギさんが小首を傾げ、今までベッドの上に居たシャルが耳をピンと立てて俺の方をじっと見つめてくる。
うーん、シャルの圧が強い。
シャルが本格的に不機嫌になる前に話を続けよう。

「えぇ、それも一つなのですが、向かう先があのダンジョンなので、接続を使えば一瞬でレストポイントまでいけるかなと。」

「あぁ、なるほどな。」

レギさんは俺の言葉に納得顔となり、シャルは俺から視線を外してベッドの上で丸くなった。
しかし、その耳だけは全力でこちらに照準を合わせているようなので、話は一言一句漏らさずに聞いているだろう。

「ふむ、それもいいかもしれぬが......接続を使うと相当疲労するじゃろ?流石にあのような状態でボスと戦わせるわけにはいかぬのじゃ。」

「何度も使用する訳ではありませんし、そのまま一日程度レストポイントで休憩してから挑めば大丈夫かなと思いますが、どうでしょうか?」

「ふむ......あの部屋か、あまり居心地はよく無さそうじゃが......ゆっくり休むと言うのであれば妾は構わぬ。」

「そうだな......ところで、あのダンジョンの地図はもう出来てるか?」

「シャル、地図は出来ていたよね?」

俺が問いかけるとシャルがベッドから身を起こして答えてくれる。

『はい。ファラが作成して、お話しされていたレストポイントに置いてあります。』

「ありがとう。ファラが作ってくれたものが現地にあるそうです。」

「ダンジョンの地図がダンジョンの中に置いてあるって言うのも変な気分だが......中でどう動くかはそれを見ながらじゃないと決められないな。休みを兼ねて向こうで打ち合わせだな。」

「ダンジョンの中でそのダンジョンを攻略する打ち合わせって変な話だよねぇ。」

「まぁ、それに関しては今更じゃな。そもそもケイと一緒におって普通を求める方が間違いじゃろう。」

「それもそうだな。」

「ケイ君だしねぇ。」

なんかナチュラルに俺のせいになっているのだけど......。

「えっと......最近の色々は僕のせいだけじゃないような?」

「妾は魔族ではなくなったのじゃ。」

「俺は人族じゃなくなったな。」

「私も人じゃなくなったね。」

「いや......確かにお二人の事は最近眷属にしましたけど......リィリさんについては僕は全く関係ないですよね?それに一年程前の事ですし。」

それと眷属化はお二人が望んだことですよね......?

「......ケイ君酷い。」

「リィリを仲間外れにするとは......とんでもない男じゃな。妾は悲しいのじゃ。」

「ケイ......それは良くないぜ。」

この流れは駄目だ......完全に味方がいない。
そして......最近の様子を鑑みるにシャルに助けを求めても......キツイお言葉を貰いそうだ。
この状況でシャルにきついことを言われたら涙が出るかもしれない。
そんなことを考えているとベットの上で起き上がったシャルがゆっくりとこちらに近づいて来て......俺の膝の上に飛び乗って来た。

「......しゃ、シャル?」

膝の上に飛び乗って来たシャルは何も言わず俺の顔をじっと見ているけど......なんか......威圧感はないな?
俺がシャルの事を見つめているとコクンとシャルが首を傾げる。
今のシャルは街中モード......つまり、子犬サイズで顔が少し丸っこく、その仕草も相まって非常に可愛い。
俺は思わずシャルの頭に手を伸ばしゆっくりと撫でる。

『......っ。』

シャルは何も言わずに撫でられていたが、俺に甘える様に掌に頭を擦り付けてくる。
何か念話のようなものが聞こえた気がするけど、シャルは大人しく撫でられているし気のせいかな?

「......わー。シャルちゃんやるなぁ。」

俺がもふもふしながらシャルの事を撫でていると、リィリさんが何やら言っている......しかし、今は癒されタイムなので良く聞こえない。
俺は膝の上にいるシャルを抱き上げて、軽く抱きしめながらもふもふに顔を埋めながら片手でわしゃわしゃと撫でる。
たっぷりともふもふを堪能してから顔を上げた瞬間、鼻の頭をシャルにペロリと舐められた。
シャルの頭をポンポンと軽く撫でた後部屋の中に目を向けると、そこには普段と変わらない様子のレギさんと苦笑するリィリさん。
そして表情から一切の感情の消えたナレアさんがいた。

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