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最終章 狼の子

第507話 兎に角面倒くさい

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遠慮のかけらも無く繰り出される攻撃を、伸ばした短剣で捌きながらどう戦うかを思案していたのだが、少し困ったことになって来た。
ボスの身体から細長い触手のようなものが無数に生えてきて、それらも攻撃に加わったのだ。
細いと言ってもボスの身体から見れば細いだけで、一本一本の太さは俺の腕より一回りは太い。
そんなもので打ち据えられるのを流石に放置する訳にもいかないけど、なにせ数が多く全てを避けるのは難しい。
なので手にした剣で逸らしたりするのだが......。

「あっ!まずっ!」

刃が軽く当たっただけで簡単に斬り飛ばしてしまう。
そして斬り飛ばされた触手は、先程の腕が変化した小型の魔物よりもさらに小さな魔物に変化して襲い掛かってくる。
触手は斬り払ってもすぐに生えて来るし、斬り落とした触手は小型の魔物になって突撃してくるし......本当に面倒くさい。
まぁ、小型の魔物の方は飛び掛かって来たところを迎撃すると、一撃で弾けてしまうのは前の元変わらないのでサクサクと処理できる。
それは良いとしても、既に斬り飛ばした触手は十や二十では効かないのだが......相手の体積は減る様子がない。
そこら中に小型の魔物がはじけ飛んだヘドロが飛び散っていると言うのにな......もしかして飛び散ったヘドロを回収していたりするのだろうか?
飛び散ったヘドロが自分で動いてボスの方に戻っていく様子は無いようだけど......。
困ったな......こういう相手にはレギさんみたいに大型の武器を使うべきだったかもしれない。
こいつに武器による攻撃が効くかどうかは別としてだけどね。
俺は横から飛び込んできた小型の魔物と斜めに振り下ろされてくる触手と前足、次いで三本ばかり突くような感じで放たれた触手を順番に躱すと、後ろに飛び退り相手の攻撃圏内から離脱しようとする。

「ちっ!」

しかし、攻撃の手を緩めることなく俺に追いすがってくるボスに思わず舌打ちが出てしまう。
俺は後ろから横っ飛びに方向を変え、さらに距離を開ける。
ボスは急に移動方向を変えた俺に一瞬置いて行かれるが、次の瞬間猛然と俺目掛けて突進してくる。
しかし基本的な速度は俺が上回っているため、一瞬で開いた差は詰まることはない。
とは言え、部屋が狭く元々十分な距離を取ることが出来ない為、立ち止まることは出来ずに逃げ回り続ける。
まぁ、距離が開き、高速で移動している為相手からの攻撃が飛んでこないということで、ようやく俺は一息つくことが出来た。

「いや、本当に面倒な相手だな......。」

独り言ではあるが......思わずぼやいてしまう。
呼吸が乱れるのでため息は我慢したが......内心では深いため息をつきたい気分だ。
とりあえず、先程までの攻防でまた一つ気付いたことがある。
相手の爪や牙、そして触手の先端部分は他の場所と違い結構硬くなっていた。
恐らく全力で斬れば斬り飛ばすことは出来ると思うけど、それなりの硬さだしその部分だけ材質が違うと言う感じでもない。
恐らくボス自身の意思で体の硬さを変えられるのではないかと思う。
つまり......まだやられてはいないけど、手ごたえのない部分だと思い軽く斬りつけようとしたところ堅くて弾かれ、隙を見せることになってしまうという可能性もあるということだ。
これもまた厄介な話だ。
堅いと思っている部分が柔らかかったり、柔らかいと思っていた部分が堅かったりすると、力加減によっては致命的な隙を生みかねない。
あの触手による連撃の最中にそんなことをされたら流石に捌ききるのは難しい。
それに......触手を剣や槍の様な形に変えてきたらさらに面倒が増すし、小型の魔物の方も全身を硬くされればかなり厄介だ。
そういうことは出来ない......と考えるよりも出来ると考えて行動した方が良いだろう。
それになんとなくだけど、俺と戦うことによって少しづつ戦い方が上手くなってきている気がする。
今はまだ戦術も拙い感じだけど......経験を成長の糧に出来るタイプであったら......かなり危険な相手になるかも知れない。
キオルが手の付けられない相手だと放置せずに、色々と実験と称して戦闘させたりしていたら大変なことになっていたかもしれないな......。
でも最初の状態でクルストさんが手も足も出なかったって言うほどの強さだっただろうか?
いや、こちらの攻撃が効かなくて素早く、攻撃の威力も高いって時点で相当強いか。
もう少しクルストさんからこのボスに関する話を聞くべきだったか......色々あってうっかりしてたな。
......まぁ、今更だけどね。
とりあえず、これ以上相手に戦闘経験を積ませるのは拙い気がするので、様子見は終わりにして......魔法を思いっきり使って行こう。
俺は急制動を掛け、未だ追いすがって来ているボスとすれ違いになるように前に飛び出す。
身体強化の強度をさらに上げたので相手は反応することも出来ずに右側の前足、そして後ろ足を斬り飛ばされる。
しかしボスは倒れる事はなく、一瞬で足を再生するとこちらに向き直る。

「厄介過ぎるな......。」

足が再生するのは予想通り......でも、相手が倒れなかったのは......ある程度予想はしていたけど、残念過ぎる結果だ。
先程俺は斬りつけると同時に相手に弱体魔法を掛けたのだけど......全く聞いた様子が無い。
普通の魔物であれば立っている事はおろか、呼吸さえ止まるくらいの強さで弱体魔法を掛けたのだけど......。
まぁ......筋力を弱体化させるとか効かないだろうなぁとは思っていたけどね。
こちらに向き直ったボスと、斬った足が変化した二匹の小型の魔物がこちらに飛び掛かろうと身を低くする。
弱体魔法はダメだったし......本当は母さんの魔法だけでケリをつけたかったって言うのもあったのだけど......相手の能力を考えるとそんなことも言ってられないか......。
飛び込んできたボスのお腹を貫くように天地魔法で石の槍を生み出す。
槍と言うにはかなり太いけどね。
突然出現した巨大な槍に貫かれ早贄のように縫い留められるボス。
そしてそれには構わず俺に向かって駆けだした二匹の魔物は、俺の方から近づいて一息で切り捨てる。
お腹を貫かれて空中に縫い留められているボスは手足をバタバタとさせながら、感情を全く感じさせない目を俺に向ける。
目でこっちを見ている感じではない気がするけど......まぁ、それは今はどうでもいい。
お腹を貫いては見たものの......あまりダメージがあるようには見えないな。
俺はお腹を貫いている石槍からさらに複数の槍を生み出し、相手の体内から外に目掛けて貫く。
それだけのことをやっても、ボスの身体から血が飛び散る事は無く......そして魔力の霧に還る気配も全くない。

「......参ったな。これどうやって倒したらいいのかな?」

これだけ内側からめった刺しにしても全く痛そうじゃないし......精々縫い留められて動けないってくらいしか思っていない気がする。
まぁ意思とかがあるか分からないけど......そんなことを考えながら次の手を模索していると、空中に縫い留められていたボスの身体がドロッと溶けて地面に落ちた。

「うげっ!?」

小型の魔物を倒す際にこちらから接近していて、比較的ボスの近くにいた俺は溶けたボスの身体を頭からかぶりそうになり、慌てて飛び退る。
そして俺が視線を戻すと、ボスは何事も無かったかのように元通りの姿に戻り、縫い留めていた石槍の傍に立っていた。
ボスは元通りになった体を試すような動きはせず......何事も無かったかのように再び俺に向かって走り出す。
いや......ほんとどうしよう......?

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