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最終章 狼の子

第508話 あれこれ試す

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とりあえず串刺しはダメだったし、出来ることを色々試してみよう。
俺は真っ直ぐ突っ込んでくるボスの側面に回り込むように移動しながら、次の手を考える。
ボスも学習したのか、先程の様に遠距離から飛び込んでくるようなことはせずに、しっかりと地面に足を着けて走り込んでくる。
まぁつい今しがた飛び掛かってきたところを串刺しにされたわけだから、学習能力云々とか言う問題ではないよね。
俺は落ちていた石を数個拾い、思いっきり相手に投げつける。
石弾を撃たなかったのは、どうせ相手には効かないだろうし......効かない攻撃を放って相手にそれを学習させるのもどうかと思っただけだけど......相手は飛来してくる礫を避けるような素振りを見せずに俺に接近してくる。
放った礫はボスの身体に当たり、貫通することなく体内に残ったようだ。
これはちょっと予定外......触手で払うか避けるかすると思ったのだけどな......お陰で次の手を変えないといけない。

「よっと......。」

俺はボスの目の前に再び水の壁を作りだす。
突然目の前に出てきた水の壁を、流石に回避することは出来ずにボスは駆けてきた勢いのまま突っ込んでしまう。
とはいえ、ただの水の壁で多少の衝撃はあっただろうけど、壁を突き抜けてきたボスは勢いを緩めることなく走り込んでくる。
距離は大分縮まっていて、もうすぐ相手の攻撃圏内に入るだろう場所でもう一度俺は水の壁を生み出す。
今度は厚みがかなりあり、ボスの巨体も完全に包み込めるくらいのものだ。
ボスは案の定、水の壁を避けることなくそのまま突っ込み......俺は水の壁を氷の壁へと変える。
よし、本日二度目の拘束だ。

「予想以上に上手くいったな......。」

こんな大量の水を一気に凍らせることなんて天地魔法でもなければ無理だろうなぁ。
氷の透明感が半端なく、氷漬けにされたボスの事がくっきりと見える。
地面から水の壁を発生させているのに、泥とかを全く巻き上げていないのは魔法の不思議ということだろうか?
まぁ、今はそれはどうでもいい。
とりあえず試しに氷漬けにしてみたけど......魔力の霧にならないし......問題なくぴんぴんしているのだろうね......。
多分窒息もしないだろうし......これも決定打に欠けるか......。
後は......電撃あたりかなぁ?
若しくは氷漬けじゃなくって、こいつ自身を凍らせることが出来たらいけそうなんだけど......魔法でこいつ自身を凍らせるって言うのは出来ないな。
物凄く寒くして凍らせるとかなら出来るかもしれないけど......多分時間がかかるし、その間じっとしているとは思えない。
このまま氷に閉じ込めておけばいつかボスも凍るかな......?

「......駄目か。」

俺の目の前で氷に白い罅が入る。
どうやら中でボスが藻掻いていたみたいだね......一度入った罅は一気に無数の罅に増え氷の壁が砕け散る。
俺は氷が砕け散る前に飛び退り、ついでに地面に水をまき散らし元の長さに戻した短剣を地面に刺しておく。
応龍様の所でやった電撃作戦だけど......ちゃんと効いてくれるといいなぁ。



View of レギ

ケイが巨大な石槍でボスの身体を貫き、続けて体の内側から無数の槍を出した時点で終わったと思ったんだがな......。
俺の楽観をあざ笑うかのように、体を変化させ槍から逃れたボスは何事も無かったかのように元の姿へと戻った。

「無茶苦茶だな。」

「うむ......ケイじゃから相手の攻撃も簡単に対応出来ておるように見えるが、恐らくあの攻撃も相当な威力じゃろうな。」

「そうだね......私だとケイ君みたいに攻撃を避け続けられないから途中であの触手を何回も斬っちゃうだろうし......そうしたら小さいのが際限なく増えていくんだよねぇ......。」

「俺もあの数は捌けないな......滅多打ちにされそうだ。」

「妾は......近づかれないよう立ち回るしかないが......あの素早さにこちらの攻撃を物ともしない身体ではな......恐らく逃げるだけで精いっぱいじゃろう。」

目の前で繰り広げられる戦いを見て、全員が正直な感想を口に出す。
ケイは色々な戦いを試そうとしているようで、水の壁を生み出したが、そんな物を気にする様子も見せずにボスは水壁を突き抜けてケイに迫っていく。
しかし、ケイはその事を予想済みだったようで、今度は厚みのある水の壁を自分の目の前に作り出し、それを凍らせることで相手を閉じ込めることに成功した。

「やったか!?」

俺は思わずその光景に喝采の声を上げたが......どうも様子がおかしい。
ケイは警戒を緩めることなく氷に閉じ込められたボスを見ているし......そのボスは魔力の霧に還ることなくその姿を氷の中に残している。

「どうやらまだのようじゃな。動きを封じることは出来た様じゃが......いや、それもどうやら長くはもたぬようじゃな。」

氷の壁に閉じ込められたボスはあっさりと氷を砕き出て来てしまった。
俺が顔を顰めている間に、ケイは次の攻撃の準備を済ませ、相手が罠にかかるのを待っているようだ。

「あれは......以前やった雷の攻撃か?」

「恐らくそうじゃな。相手が近づいてきたら放つつもりじゃろう。」

「でもまた相手は警戒しているっぽいね。走り込んでこなくなったよ。」

リィリの言う通り、ボスはケイの方を見ながら体に生える触手を増やし、ゆらゆらと動かしているだけのようだ。

「ケイの作戦がバレたというよりも、近づいたらまた何かされそうだという感じかの?」

「凍らされたばっかりだしね、水を警戒するのは当然じゃないかな?」

「ふむ......冷静に見えるが、ケイも焦っておるのかのう?」

ナレアの言う通り冷静に見えるが......戦闘中のケイは本当に何を考えているのか読めないからな。
しかし焦るって言うのは違う気がするな。

「狙いは分からねぇが......焦っている感じはしないな。」

「つまり、相手をあそこに誘導する自信があるということじゃな。」

「んー、今の所相手は接近して攻撃するしか手が無いみたいだし、警戒はされても結局最後は近づいてくるってことじゃないかな?」

確かにそれもそうか......?
ケイにしては周到さが足りない気もするが......。

「しかし、お互い決め手に欠ける感じではあるが......今の所、相手の方が有利か?」

「そうじゃな......現状ではどちらも然したる損傷はないようじゃが......相手の攻撃を避けなければいけないケイと、避けるまでも無く無効化しておる相手との差は、時間が経てば明確に出て来るじゃろうからな......。」

俺の言葉にナレアが頷く。
決して相手に押されているわけでは無いが......嫌な予感が拭えない。
何より問題なのは......。

「ケイが危ない時は助けるとは言ったが......俺達が参戦して勝てるか......?」

「難しい所じゃな......今の所、有効的な攻撃手段が見つからぬ。あの触手は体のどこからでも出せるようじゃし......攻撃を分散させることすら出来るかどうか......。」

「もしもの時は......ボスをケイ君から引きはがして離脱するって感じでいいんじゃないかな?ボスはこの部屋から外に出ないだろうし......もし出たとしてもダンジョンの外まで逃げればいいだけだしね。」

「それもそうだな。」

リィリの言う様に攻撃手段がない以上、一旦引いて体制を整えた方が良いだろう。
もしかしたらケイはそれも考慮に入れているのかもな......現状で出来る攻撃方法を試したら引いてくるかもしれない。
そんな風に考えていると、ボスの立っている辺りから無数の石槍が突然現れた。
咄嗟に回避するボスだが、何本かの触手が引き裂かれ、小型の魔物が生み出されていく。
しかし、生み出される石槍は勢いを緩めることなくどんどんと地面から生えてきて、小型の魔物も生まれた傍から貫かれていった。
その場にいると拙いと思ったのか、ボスは石槍の無い場所へと走りだし......俺達は次の瞬間に起こることが読めたので目の前に手を翳す。
直後、凄まじい轟音と共に辺りが白く染まった。

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