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最終章 狼の子

第518話 ケイのプラン

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「......ケイの世界の知識を持ってくるじゃと?どういう事じゃ?」

目を輝かせたナレアさんが、俺に掴みかからんばかりに身を乗り出す。
間にテーブルが無かったら完全に掴みかかられていたと思うけど。
俺はナレアさんが身を乗り出したことで倒れそうになったコップを支えながら話を続ける。

「えっと......スマホを使えば僕の世界の本が読めるのですよ。」

「ほ、本をじゃと!?」

「はい。それで電気についての資料をいくらか手に入れることが出来れば、研究もしやすいかと思いまして......。」

「ま、待つのじゃ!どうやって本を手に入れるのじゃ?召喚すると言う訳では無いのじゃろ?」

「詳しい仕組みは説明出来ないのですけど......スマホを使えば、本自体を手に入れるわけでは無く書いてある内容だけを閲覧出来るのです。」

「む......よく分からぬが......とりあえず今はスマホを使えば本を読むことが出来るとだけ理解しておくのじゃ。」

「上手く説明出来なくてすみません。あ、読めると言っても僕の世界の文字になるので、僕が翻訳しないといけませんが。」

ナレアさんの研究よりも、寧ろ俺が専門的な事を翻訳出来るかどうかの方が問題かもしれない。

「なるほど......確かにそれは必要かもしれぬが、ケイに文字を教わるのもいいかもしれぬのう。」

「あー、それは助かります。でもどこまで教えられるかって気もするので、そっちは気長にやりましょう。」

ナレアさんが日本語をマスターしてくれたらとんでもないことになりそうだよね。

「まぁ、言語の習得はそう簡単にはいかぬからのう。おいおいやっていくのじゃ、目標は不自由なく本を読めるようになることじゃな。」

「がんばりましょう。因みに単語ではなく、文字が二千文字以上ありますよ?」

「......は?」

「後は、同じ文字でも読み方が変わったりするので......。」

平仮名、カタカナ、数字に漢字......しかも音読みに訓読み......改めて考えると頭おかしい数あるな。

「一体どんな複雑な言語なのじゃ......?」

「因みに識字率は九割以上です。」

「どんな世界じゃ!?」

「今考えると化け物じみた民族ですよねぇ。まぁ、皆が皆全ての文字を読み書きできるわけでは無いですけど。不自由しない程度には皆読み書き出来たと思いますよ。」

「本当に興味深い世界じゃ......早く本を読んでみたいものじゃ......ん?ケイよ、スマホを使う動力が問題ではないのかの?どうやって使うのじゃ?」

「恐らく少しの間は使える筈です。その時間を使って電気に関する資料を集めようと思います。」

固定で封印されていたから恐らく充電は残っている筈......残っていなかったら終わりだけど......。
電気について調べたらすぐに固定して、資料を書き出して......ページを切り替えて固定して書き出して......そんな風に節約して資料を作ればなんとかなるはず。

「使えるのであれば、その時間を使って元の世界に連絡をすればいいのではないかの?」

「そうですね......でも伝えたいことが沢山あるので......出来れば時間を気にせず、使えるようにしたいのですよ。」

動画を送ったり......ビデオ通話を繋いだりしたいよね。
メールとかじゃ伝えきれないし......とてもじゃないけど信じてもらえるような内容ではない。
グルフとかマナスとかを動画で見せたら多分信じてもらえるだろう。
シャルに体の大きさを変化してもらうのもありか。

「ふむ......その為の研究というわけじゃな。分かったのじゃ、全力で取り組むと約束するのじゃ。」

「ありがとうございます。ナレアさんが研究してくれるのであれば百人力ですよ。僕も空間魔法をもっと使いこなせるようになる必要はありますが......スマホの封印を解くのはそれからですね。」

「そこまで信頼してもらえると何が何でも成功させたくなるのう。封印を解く日を楽しみにしておくのじゃ。ところで研究にはアースの奴も参加させて良いかのう?」

「ナレアさんが必要だと思ったのであれば僕は構いませんよ。」

「カザン達に迷惑が掛からない程度に協力を要請しておくのじゃ。」

「向こうの世界の知識や技術に関しては、広めるかどうかはナレアさんにお任せします。その辺の調整は普段から気にされているようですし。」

「うむ。過ぎたる玩具は危険でしかないからのう。その辺りは周りの様子を見ながらしっかりと管理させてもらうのじゃ。しかし、別の世界の知識......楽しみで仕方ないのじゃ。今日あたり魔道国を発つかの?」

「お祭り期間中はリィリさんがこちらに居たがると思いますが......。」

物凄くソワソワしだしたナレアさんを抑える様に言う。

「それにまだ空間魔法の修練が足りませんし......封印を解けるのはまだ先になりますよ。」

「む......そうじゃったな。そうじゃった......うむ、待ち遠しいのう。」

なんか、ナレアさんがご飯を前に待てをされているグルフのように、そわそわしながら俺の顔をちらちら見てくる。
可愛いな......。
非常にナレアさんの頭を撫でたくなったが......残念ながらテーブルを挟んでいて手が届かないので諦め、代わりにコップを手に取った。

「楽しみじゃのう。ケイの世界の書物も楽しみじゃが、魔法や魔術にどのように応用出来るかも楽しみじゃ。ケイの話を聞く限り随分と応用の利く技術の様じゃし......。」

「翻訳の責任が重大ですね。」

「そうじゃのぅ......専門的な言葉は訳すにしても限界があるじゃろうし、ある程度ケイが内容を把握しておらぬと、妾に伝えることもままならぬじゃろうからのぅ。」

「頑張って勉強しますが......充電持つかなぁ。」

小刻みに固定を使ったとしてもそれなりに電力は消費しちゃうし......勉強や資料集めの優先順位をしっかりと決めておかないと大変なことになるな。
充電とはどうすれば......せめて充電用のケーブルがあれば少しは楽だと思う。
バイトの帰りに持っていたカバンには充電用のケーブルが入っていたけど......カバンは神域に置いてある。
カバンには思いっきり穴が空いていたけど......ケーブル残っていたかなぁ? 
役に立ちそうなものなんて入ってなかったから適当に放置しちゃったんだよな。
多分母さんが保管してくれていると思うけど......。

「何やら心配事かの?」

「いえ、神域に僕の持ち物が残っていたら少し楽が出来るかもしれないなぁと思いまして。」

「ほう。学習に使う物かの?」

「いえ、スマホの動力源に関するものです。それがあればスマホに電力を供給するのが楽になる可能性があります。」

寧ろケーブルが無かった場合勉強の難易度が一気に跳ね上がる気がする。
その辺の仕組みを調べて作成するよりも、既存のものに電気を流す仕組みを作る方が多分簡単......だよね?
もしバッグの中にケーブルとか変換アダプタとか残っていたら固定化しておこう。
大した大きさじゃないし、固定化していてもそんな負担にはならないだろう。

「ほほ、随分と焦らされるのじゃ。今ならケイ以上に固定が上手く使えるかもしれぬのう。」

「あはは、それは頼もしいです。」

確かに比較的空間魔法を苦手としているナレアさんだけど、好奇心の力でその壁を壊しそうな気がするな。

「うむ。ところで、一つ疑問なのじゃが......研究が上手くいって、連絡が出来たとしてじゃ。ケイがこちらの世界に来て数年、研究が上手くいったとしてもさらに時間はかかるじゃろう。そんなに長い間連絡の一つも出来ぬのは大丈夫なのかの?」

「その辺は......確実に大丈夫とは言い難いのですが。召喚魔法と空間魔法の組み合わせによって上手いこと行かないかなぁと考えています。」

「どういう事じゃ?」

「空間の固定は全ての現象から固定されるという事らしいです。時間でさえも固定された空間の中では止まっていると考えていいみたいでして......そして召喚魔法は......僕の召喚が数千年もかかったことから時間という概念が関係ないのだと思います。」

「ふむ......。」

「このことは妖猫様も恐らくその考え方で間違っていないと言ってくれました。スマホと一緒に固定されているであろう召喚の穴の向こう側は、僕が元居た世界の......僕が召喚されたその瞬間に繋がっている筈です。」

「......向こうで四千年経っている可能性もあるのではないかの?」

「......その可能性も零ではないですね。まぁ......その場合はスマホを使えば分かると思います。」

四千年も経っていたら電波は届かないだろうしね。
少なくとも圏外になるのは間違いない。

「......すまぬ。」

バツが悪そうな顔でナレアさんが謝ってくるけど、俺もそれは考えなかったわけでは無い。
今俺が話している内容は都合のいい物ばかりだからね。
ナレアさんがそう考えてしまうのも無理はない。

「いえ、今までの話は全部希望的観測に過ぎませんから。しかも、どれか一つでも上手くいかなければ代案すらない物です。そんなに全てが上手くいくなんて考える方がおかしいですよね。」

時間が経っていなくても穴を通して電波が届かない可能性だってある。
その場合は......財布を作って穴に放り込めば......いい人が見つけてくれれば財布を警察に届けてくれるだろう。
手紙と言う形にはなるけど......両親には届くはずだ。
もし四千年経っていた場合は......悲しいけど、諦めなければいけないだろう。
いくら魔法であっても時間を操ることは出来ないだろうしね。

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