あの日、忘れかけていたもの。

成瀬瑛理

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――約束した場所に向かう時には、既に祭りの太鼓を叩く音も、笛の音も、屋台のお店も、浴衣姿の人達もほとんど見当たらなかった。そして、花火大会は既に終わっていた事に気持ちは焦った。

 さすがに千里もういないかと、俺は神社の前で立ち止まった。時計は11時半になっていた。こんな時間に彼女が待っている訳ないかと思い詰めると、虚しくため息をついて去ろうとした。すると後ろから誰かに服をグイッと掴まれた。


「遅い…――!」


「えっ…?」


 後ろを振り向くと千里がそこに立って俺の服を掴んでジッと見てきた。その顔は怒っているのと同時に、瞳は涙ぐんでいた。そして、今にも泣きそうな彼女を自然にギュッと抱きしめた。

「ごめん! ごめんな、千里! ずっと待たせて本当にごめん…――!」

「ばかぁ…! 晃彦のばかぁっ!! 私一人で待ってたんだよ!? 花火大会終わっちゃったじゃん…! なんで来なかったのよ! 私との約束忘れたの!? 貴方にとって私は大切な彼女じゃないのっ!?」

「ごめん、本当に…! ごめっ…――!」

 その瞬間、目の前で立ち眩みのようなつよい目眩に突如襲われると、千里の前で俺は倒れ込んだ。そしてそのまま完全に意識を失った。その後の事はほとんど覚えていない。次に目を覚まして気がつくと病院のベッドの上に寝かされていた。ふと気がつくと腕には点滴の針が刺さっていた。そして、側で彼女が浴衣姿のまま眠っていた。

「あれ、ここは…――?」

「ん…晃彦……?」

 彼女は傍で目を覚ますと、いきなり俺に抱きついてきて泣きながら話した。

「もう、本当に信じられない…――! いきなり目の前で倒れたから焦ったんだよ!?」

「えっ…?」

「あの時、救急車を呼んで病院に運んでもらったのを覚えてないの? あと少しで重度の熱中症になる所だってお医師様が言ってた。晃彦今まで一体、何してたの? なんでそんな熱中症になってまで…――?」

 千里は酷く心配している様子だった。俺は彼女には隠さずに、全てを有りのまま話した。
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