40 / 83
第37話 アニ、馬車に乗る
しおりを挟むぎんこさんとてんこの二人と別れた僕たちは、予定通りその日のうちに町を出発していた。
今は、隣町へと向かう馬車に揺られているところだ。
「ぐぅ……ぐぅ………………もう、お姉ちゃん………………………………です」
ちなみに、オリヴィアは僕の肩に寄りかかって眠っている。
やはり、とても疲れているのだろう。
僕は、てんこ達と別れる時にした会話を思い出す。
*
(すみんせん。本当はわっちらが用心棒をしてあげたいのでありんすが……)
(わらわ達にはまだスケアクロウを護送するという大切な仕事が残っておるのじゃ。――他の用心棒を雇っても良いが、正直この町にお主より腕の立つ冒険者はおらんじゃろうなぁ……)
(色々教えてくれてありがとう。僕は大丈夫だよ。……オリヴィアが心配だけど)
(私は元気ですよアニ様! この通りです!)
*
「本当に……無理だけはしないでね……」
「……ビシバシ厳しくいきます!」
「さっきからどんな夢見てるんだろう……」
僕は思わず呟いた。
「――あんた達、姉妹かい」
その時、突然馭者のおじいさんが話しかけてきた。
「えっと……違います」
僕はそう返事をする。
「ふぁっふぁっふぁっ、そうかそうか。――じゃがな、本当にルルディに行くつもりなら気をつけた方がよいぞ……なんなら、行かん方がええ」
ルルディは、今僕たちが向かっている隣町の名だ。
煌びやかな建物が立ち並ぶ美しい町だと聞いている。
「どういうことですか?」
「なんじゃ、本当に知らんのか?」
「…………?」
僕はてんこみたいな話し方をするおじいさんだなと思った。
いや、てんこの話し方がおじいさんみたいなのか。
……って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「ルルディで何かあったんですか?」
僕はおじいさんに聞いた。
「……ここ最近、あの町に住んでおる若い女子《おなご》が、姿を消しているらしいんじゃよ。女好きの悪霊にさらわれてしまったという噂じゃ」
「………………」
「じゃから、気味悪がって誰もあの町には近付かん。お前さん達が久しぶりの客じゃのう」
その話が本当だとすると……もしものことがあったら、僕がオリヴィアを守らないといけない。
僕はそっとオリヴィアの手を握った。
……そういう不気味な話は苦手だ。
「ふふふ……やっぱり………………まだまだ甘えんぼさんですね……」
嬉しそうに寝言を呟くオリヴィア。……本当に寝てるのかな?
「……そのせいで誰も馬車に乗ってくれんからな、わしも商売あがったりなんじゃよ」
おじいさんは、僕の方を振り向いて続ける。
「とにかくじゃな、お嬢さん方はべっぴんさんじゃから、油断するとあの町に巣食う悪霊に狙われてしまうやもしれん。行っても良いが、十分に気をつけるのじゃぞ?」
「…………あの」
「なんじゃ? 怖がらせてしまったかのう…… ふぁっふぁっふぁっ」
「僕……男です」
「………………………………」
「………………………………」
それからしばらくの間、気まずい沈黙の時間が流れた。
「…………あんた達、姉弟かい?」
やがて、おじいさんが何事もなかったかのように仕切り直す。
「はい……そうです」
「他に家族は?」
「妹が……四人。………………兄さんが……一人います」
「そうかそうか、なかなかの大家族じゃな。良いことじゃ!」
「でも……離れ離れになっちゃいました」
「………………………………」
「………………………………」
再び、気まずい沈黙の時間が流れた。
「なんというか……強く生きるのじゃ。そうすれば、きっと再び巡り会える時も来るじゃろうて……うぅっ!」
目元を拭いながら、僕のことを励ましてくれるおじいさん。
「……もう会えなくても良いんです。みんなぼくのことなんて忘れて……幸せに暮らしてくれれば……それで……」
口ではそう言ったが、不意に目から涙があふれてきて、止まらなくなってしまった。
――みんなはどうしているだろう?
メイベルは他の二人とケンカせずに仲良くできているだろうか?
ソフィアは身の回りのことをちゃんとやれているだろうか?
エリーは相変わらず笑顔で過ごしているだろうか?
なるべく考えないようにしていたけど、考え出すと止まらなかった。
「……一つだけ言えることがあるとすれば、自分の気持ちに嘘をついてはいかんぞい。……壊れてしまうからのう」
「…………はい」
「涙を拭くのじゃ。前を向いて真面目に生きとれば、いずれ良いことがある」
「ありがとう……ございます……」
僕は、おじいさんに言われた通り涙を拭う。
それと同時に、馬車が大きく揺れて止まった。
「ど、どうかしたんですか?」
「すまんのう…………馬車の車輪が外れた……わしが整備を怠ったせいじゃ……」
「えっ?」
「適当に生きとるとこうなってしまうというわけじゃな。てへ」
「ええええええええええええっ?!」
ルルディへ着くのには、もうしばらくかかりそうだ。
10
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる