超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

文字の大きさ
57 / 83

第52話 デルフォスの崩壊1

しおりを挟む

 俺の名前はデルフォス。ヴァレイユ家の長男だ。

 光属性の魔法を操ることのできる天才魔術師である俺は、弟や妹達から尊敬され、愛されている。

 おまけに、スールと契約した俺には時間を巻き戻す特殊な力がある。どんな失敗をしようとやり直すことが出来るのだ。

 こんなに完璧で素晴らしい兄を持てた妹達は、この上なく幸せ者だと思う。

 *

「起きなさい、お兄ちゃん! 朝よ!」

 やかましい声が聞こえてきて目を覚ますと、そこにはメイベルが居た。

「今日はお前が起こしに来たのか」
「……ええ、そうよ。あの……だから……」

 メイベルは物欲しそうな顔でこちらを見てくる。

「そうだな、ご褒美をやろう」

 俺はそう言って、メイベルの頭を撫でた。

 これが、こいつらにとってのご褒美なのである。

「ふふふっ」

 一瞬だけ嬉しそうに顔を綻ばせた後、いつものしかめっ面に戻るメイベル。

「あ、ありがと」

 きっと俺のことが好きなのだろう。

 だが、妹に恋愛感情を向けられるとは困ったものだ。俺にそんな趣味はない。

 ハグくらいならしてやっても良いがな。

「下がっていいぞ。メイベル」
「うん。お洗濯した服はここに置いておくわね!」

 メイベルは俺の服を用意した後、部屋の外へ出ていった。

 すると、入れ違いでアニが部屋の中へ入って来る。

「呼ぶ前から来るとは、殊勝な心がけだな」

 俺はそう言った後、アニの頭を撫でてやった。

「えへへ……ありがとう兄さん」
「お前が女だったら、嫁に貰ってやってもいいくらいだ!」
「ぼ、僕たち兄弟なんだよっ?!」

 顔を赤くするアニ。

「冗談だ」
「そ、そうだよね……」

 こいつはからかうと良い反応をする。きっと俺のことが好きなのだろう。可愛いやつだ。

 しかし、弟にまで恋愛感情を向けられるとは困ったものだ。俺にそんな趣味はない。

 添い寝くらいならさせてやっても良いがな。

「それじゃあ、いつも通りやってくれ」
「う、うん……!」

 それから俺はアニに靴を磨かせ、服の着替えを手伝わせて、身支度を整えた後食堂へ向かう。

 料理を作って待っていたのは、ソフィアとエリーだ。

「今日の朝ごはんはぜんぶおにーちゃんの好きなものだよ!」
「私……おにーさまの為に頑張った……!」

 目を輝かせながら俺にそう告げる二人。

 こいつらもご褒美を欲しがっているのだ。

「美味しそうだ。二人とも腕を上げたな!」

 俺は両手で二人の頭をくしゃくしゃに撫でてやる。

「えへへ……!」
「おにーさまぁ……!」

 顔を赤らめ、幸せそうな目で俺のことを見つめる二人。

 まったく、こいつらまで俺の事が好きなのか。

 何度も言うが、俺に妹や弟と愛し合うような趣味はない。

 頬にキスくらいならさせてやっても良いがな。

 本当に困った奴らだ。

 俺は深くため息をつく。

「「「「おにーちゃんだいすきっ!」」」」

 気がつくと、俺は妹達に四方から抱きつかれていた。アニやメイベルまで食堂に着いてきていたらしい。

「おいおい、アニ、メイベル、ソフィア、エリー。それじゃあ動けないだろう?」

 俺は皆を引きはがした。すると、アニが顔を上げて俺の方を見てくる。

 そしてにっこりと笑った後、こう言うのだった。

「いい加減にしろよッ!」
「は…………?」
「ドンッ引きだよッ! 人間の醜い欲望を見るのは好きだけどさッ! こんなもん見せられるとは思わないじゃん!」
「ど、どうしたんだアニ……?」
「うるさい! もうちょっと泳がせるつもりだったけど、流石にこれ以上は私の精神が耐えられないねッ! そろそろ現実を見せてあげるよ!」
「貴様……スールか」
「そう!」

 俺は思わず後ずさる。こいつが現れると、大抵ろくな事が起こらない。

「……だいっきらい」

 すると、俺の後ろに居たメイベルが呟いた。

「だ、誰に向かって言ってるんだ……?」
「あんたに決まってんでしょ。あんたなんかお兄ちゃんでも何でもないんだから」

 メイベルはゴミを見るような目つきで俺のことを見てくる。

「嘘をつくな……!」
「……はぁ。ほんと、いつになったら死んでくれるの?」
「や、やめろ…………!」

 俺は頭を掻きむしった。

 一体どうなっている? こいつが俺に対してこんなことを言うはずがない。

「…………気持ち悪いわ……視界に入らないで……」

 すると今度は、ソフィアが俺のことを睨みながら言った。

「……今すぐ消えて。……それ以上近寄らないで」
「…………っ!」

 ――そうか、なるほどな。

 これがこいつらの本性だったわけだ。

 よく考えてみれば、ソフィアとメイベルは教育を怠るとすぐ俺に反抗的てくるクズだからな。

 だが……

「……エリー……お前は違うだろ……?」

 俺は、残ったエリーの方へ近づいていく。こいつだけはいつでも従順だったはずだ。

「い、いや……! 来ないで……!」

 しかし、エリーはまでもが俺を拒絶する。その代わりに、恐怖に怯えた目を向けてきた。

「い、いやだ……おにーちゃん……助けてっ!」
「おいおい、お兄ちゃんは俺だろ?」
「違う……あなたなんかじゃない……!」
「……貴様もそうか。このクズがッ!」
「いやああああああああああっ!」

 俺が怒鳴りつけると、エリーは頭を抱えて座り込む。

 近づこうとしたら、メイベルとソフィアが俺の前に立ち塞がった。

 二人は何も言わずに、怒りと憎悪に満ち溢れた目で俺のことを睨んで来る。

 ――油断したな。どうやら、どこかで生意気な妹達の教育に失敗してしまったらしい。

 またやり直して、こいつらを教育し直すとするか。

 俺はパチンと指を鳴らした。

 これがやり直しの合図だ。そう決められている。

「……………………」

 だが、いつまで経っても時間が巻き戻ることはない。

 疑問に思った俺は、スールの方を見た。

「やり直せるわけないだろう? これが現実なんだからさ」
「は?」

 その瞬間、世界が音を立てて崩壊し始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

処理中です...