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第61話 アニ、お屋敷に向かう
しおりを挟む結局、僕は妹達が満足するまで女装姿を眺めまわされ続けた。
そして、今はようやく解放されてフェルゼンシュタイン家の別荘へ向かっているところである。
「ほらおにーちゃん、こっちだよ! 早くしないとドレースさんにおいてかれちゃう!」
「うぅ……待ってぇ……!」
メイド服姿で外を歩かされるのは、この上なく恥ずかしい。
通りすがる人の視線を感じる度に、バレていないだろうかと不安な気持ちになる。
もしバレていたら……きっと僕はとんでもない変態だと思われ、蔑みの目で見られるのだろう。
……でも、妹達を守る為にはこうするしかないのだ!
僕は半ば無理やり自分に言い聞かせた。
「足元に気をつけてね、おにーちゃん! さっきは早くって言ったけど、ゆっくりでいいよ!」
「あいつ……おにーさまにやましい視線を向けてる……! 許せない……! 消えなさい……!」
「お兄ちゃんのことをヘンな目で見る奴は、わたしが追い払ってやるわ!」
でも、どちらかといえば僕の方が守られている気がする。
おかしいなぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう……?
「皆様は本当にアニ様のことがお好きなんですね!」
自分自身の不甲斐なさに落ち込んでいると、オリヴィアがニコニコしながら言った。
「うん、そうだよおねーちゃん!」
「おねえ……ちゃん……?」
「あたし、ドレースさんから聞いたの! オリヴィアさんは、おにーちゃんのおねーちゃんなんでしょ? だからあたしも『おねーちゃん』って呼ぼうかなって思って」
「そんな……私なんかのことを……!」
「だめかな…………?」
不安そうな顔をしながら問いかけるエリー。
僕には分かる。あの顔をされたら、駄目だとは言えない。
「ぐすっ……駄目じゃありません……! 私は……お姉ちゃんでも良いんですね……嬉しいです……っ!」
「わわっ?! な、泣かないでおねーちゃんっ!」
突然泣き出したオリヴィアに対して、慌てふためくエリー。
何となくこうなる予感はしていた。
……エリーにあんな顔されたら断れないだろうし。
「……じゃあ、私もおねーさまって呼ぶ……」
「ソフィア様まで!?」
「…………だめ?」
「い、いえ、そんなことありません!」
この流れに乗じて、僕もオリヴィアのことお姉ちゃんって呼ぼうかな……?
一瞬そんなことを考えたけど、やめておいた。
理由は分からないが、オリヴィアを『お姉ちゃん』と呼ぶのが嫌だと思ってしまったのだ。
僕は……オリヴィアに頼られるようになりたい。『可愛い弟』では駄目なのだ。――当然、『可愛いメイドさん』はもっと駄目である。
同じメイドさんの格好をしていれば、仕事仲間としてオリヴィアから頼られるようになるかもしれないけど、そういう問題ではない!
「じー…………!」
僕はしばらく一人で葛藤していたが、ふとメイベルがオリヴィアを睨み付けていることに気付いた。
「どうかなさいましたか? メイベル様……?」
「ふ、ふん! 何でもないわ!」
そう言ってそっぽを向くメイベル。
……もしかして、ソフィアやエリーから『お姉ちゃん』と呼ばれることに嫉妬しているのだろうか?
「……ちょっと大きいからって……負けないわよ!」
ぼそりとそう呟くメイベルの声が聞こえた。
やはりそうだ。オリヴィアの方が大きい――つまり歳上のお姉さんであることに対して嫉妬しているのだろう。
「落ち込まないで、メイベルも立派だよ!」
僕はメイベルのそばに駆け寄って励ます。
「なななっ、何言ってんのよっ?!」
すると、メイベルは顔を真っ赤にして慌て始めた。……そこまで恥ずかしがることだろうか?
「お、お兄ちゃんは……その……小さい方が好きなの……?」
「…………? メイベル達の面倒をよく見てたし、小さい子は嫌いじゃないけど……」
どうして、今そんなことを聞いてくるのだろうか。
「なっ! お、お兄ちゃんのばかっ! へんたいっ!」
「えぇ……?」
励ましたつもりだったのに何故か怒られてしまって、僕は困惑した。
照れ隠しってやつなのかな……?
「ぶひ、皆さん、そろそろお屋敷に到着しますわ」
話がややこしくなってきたところで、ドレースの声がした。
どうやら助かったようだ。
*
――それから少しして。
「これが……別荘……?」
オリヴィアはそう言って息を呑む。
僕達の目の前には、煌びやかな大豪邸が建っていた。
「すごい……大きい……!」
エリー達も言葉を失っている。確かに、ヴァレイユ家のお屋敷より大きいかもしれない。
「ぶひ、それでは中へどうぞ」
僕達は、ドレースさんに案内されてお屋敷の中へ入っていく。
その時。
「――――――ッ!」
「……どうかしましたか、アニ様?」
「う、ううん、何でもないよオリヴィア」
――何か居る。
僕はそう直感した。
この屋敷の内部に、悍ましい気配を放つ何かが潜んでいるのだ。
僕以外は気付いていないみたいだけど……。
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