無能はいらないとSランクパーティを追放された魔術師の少年、聖女、魔族、獣人のお姉さんたちにつきまとわれる

おさない

文字の大きさ
30 / 103

第30話 お話し合い

しおりを挟む

「遠くに行ってなくて良かったです……」

 マルクはほっと胸をなでおろし、ライムの側まで近づいてきた。

「顔をあげてください。僕……ライムの気持ちも考えないで、スライムのままだったら持ち運べるとか言っちゃって、すごく無神経でした。……最低ですよね」

 そう言って、マルクは深々と頭を下げる。

「ごめんなさい、ライム」
「マルク……」
「――となり、座ってもいいですか?」

 マルクの問いかけに対し、ライムは黙ってうなずいた。

「ありがとうございます。それじゃあ失礼しますね。……よいしょっと」

 それを見て、マルクはやや古くさい掛け声を発しながら、ライムの隣へ座り込んだ。 

「それで、お話なんですけど」
「うん」
「やっぱり……宿屋で待っているのは嫌ですか?」
「……うん」
「気持ちは……すごくわかるんです。ただ待っているだけだと、すごくもどかしくて、心配ばかりが大きくなっていきますから……」

 マルクは、いつも自分に留守を頼んで仕事へ出かけていった姉のことを思い出しながら言った。

「どうしてわかるの……? マルクはライムちゃんじゃないのに」
「僕も小さい頃はよく、危ない仕事に出かけていくお姉ちゃんの帰りを待っていましたから」
「マルクの……お姉ちゃん……」
「はい。お姉ちゃんはすごく強くて優しいんです。今は……病気でほとんど寝たきりですけど……」

 マルクは少しだけ暗い気持ちになったが、今はライムの前であることを思い出し、慌てて表情を取り繕った。

「お姉ちゃん……ぐあいわるいの……?」
「はい、とても……。だから、僕はお姉ちゃんの病気を治す薬を買うために、たくさんお金を稼がなくちゃいけないんです」
「そう、だったんだ……」

 ライムは、小さく息を吸い込んだ後に続ける。

「……お姉ちゃんも……きっとマルクのこと心配してまってる。やっぱり、ライムちゃんもマルクが早くお姉ちゃんのところに帰れるように、協力したい」
「そう来ましたか……」
「でも、むりにつれて行かなくてもいいよ。わがまま言ってマルクを困らせるのも……ライムちゃんはいやだから。ダメなら、宿屋でおとなしくまってる」
「ライム……」
 
 そう言われて、マルクの心は揺らぐ。

「それじゃあ、もし今魔物に襲われたとしたら、ライムはどうするんですか?」
「みぎてでばらばらにする」

 右腕を鋭利な刃物のような形に変形させながらそう答えるライム。

「ひえ…………」

 思ったより生々しい答えに、マルクは思わず小さな悲鳴を上げた。

「そ、そんなことができたんですね」
「うん。ぜんぶは変えられないけど、少しだけなら今でもできる」

 ――可愛らしい少女の姿をしていても、やっぱり魔物なんだな。スライムの時もすごく可愛かったけど。

 マルクは、心の中でそんなことを思った。

「あんまり見られるとはずかしい……!」

 ライムは、右手を元に戻してもじもじしながら言う。自分の裸を見られた時より恥ずかしそうだった。

「えっと……すみません」

 マルクは少しだけ視線をそらした後、続ける。

「それじゃあ……受けられたのが比較的安全そうな依頼だったら、一緒についてきてもいいですよ」
「ほんと!? ライムちゃんうれしい!」

 そう言って、にっこりと笑うライム。

「マルクさーん! ライムさーん! どこにいらっしゃるのですかあー……?」

 その時、すぐ近くでクラリスが二人の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「……クラリスさん、僕たちのことを探してるみたいです。行きましょうか」

 マルクはそう言いながら立ち上がり、ライムに手を差し伸べる。

「――うん!」

 ライムは元気よく返事をして、マルクの手を取り立ち上がった。

「……あれ?」

 それと同時に、ライムの体の周りが光り始める。

「ライム…………?」
「な、なんで? ライムちゃん、光ってる……?!」
「――違いますっ! 足元ですっ!」
「え?」

 光を発していたのは、ライムの足元に小さく描かれていた魔法陣だ。

 どうやら、すでに何かの術式が発動し始めているらしい。

「これは…………!」

 ――転移魔法。

 マルクが発動した術式の正体に気づいた時には、すでに遅かった。
 
 二人の体は、一瞬のうちにどこかへ転移させられてしまったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...